香りの塔 15   @AB CDE FGH IJK LMO PQR S




真相が明らかになるまでは、雨射のリラクゼーションどころではない。 でも一人寝は淋しいだろう。
ならば、雨射に香りの塔の部屋を明け渡した麗香様は、必ずここにいるだろうと踏んだんだヨ。
小さな野ネズミに変化して奥処に侵入。 お会いした国主の気を思い出し辿り、その中の一室に来た。



(( 麗香様・・・・ 麗香様。 無粋なご無礼をお許し下さい・・・・ ))
「・・・・・なんとネズミが・・・・ ?? もしや木の葉の忍びか? 何ゆえその様な・・・・」
(( くす! お忘れですか? 忍術を解禁して下さったじゃないですか。 ))
「・・・・・・・・そうだったな、愚問だった。 ・・・・・・・松葉をみつけたのか?」

「ん、麗香様・・・・・ 誰かが来ましたか? 私と国主の邪魔をするなど・・・・・」
「・・・・・・・・いや、夢を見ただけだ。 大葉、目が覚めた。 ワタシは自室に戻る。」
「はい、麗香様。 今夜もお待ちして・・・・・・・・・ くっ! 何・・・を・・・・・」
「・・・・・・・?! 木の葉の暗部っ!! 何をした?! 気でも違ったかっ!!」

まさかその腕に抱かれていようとは。 これ以上ないほど無粋な真似だケド、思いっきり邪魔をするヨ?
伽の相手が大葉だと知り変化を解く。 その汚い手で麗香様に触れるコトをオレ達は容認できないんでネ。
速攻、大葉を眠らせた。 唖然としている国主を尻目に、大葉の頭に手を置きヤツの意識に侵入する。
・・・・・・・読んだ? テンゾウ?? ウン、まいったネ。 奥処の者達ほぼ全員が・・・・ 関与してる。

「麗香様、お気を確かに。 この処頭の大葉が松葉様を亡き者にしました。」
「なっ?! 何を言うておる! 大葉は・・・・・ 大葉が・・・・・ 松葉・・・・・ を?!」
「この男を中心とした奥処の者達の・・・・ これは立派な謀反と言って良いでしょう。」
「馬鹿な・・・・・ ここの者達は皆、優秀で・・・・・ 分を弁えて・・・・」

分を弁えていたのは・・・ 奥処で庇護されていることに感謝し、謙虚に仕えていたのは。 三人だけです。
優秀な人材を集め過ぎましたネ。 ここの者達は皆、奥処に迎え入れられた当初の思いを忘れている。
自分達がこの国を動かしているのだと、勘違いしてしまった者達です。 そう指導していたのがこの男。

近々、忍びの里を抱えようと思っていらしたとか? だとしたら今後、国の要になるのはその忍びの里。
大葉達は、その事実を受け入れられなかったんですヨ。 国主に一番近い存在だと自負がありますから。
国内での権限も大きすぎた様です。 ・・・・・一番近い存在、その意味をはき違えているんですヨ。
松葉様は国主の伴侶として役不足、奥処の三人は向上心のない者達、彼らの目にはこう映ったでしょう。

大葉からオレ達の顔の記憶を抜いて、朝まで目が覚めない様にしておいた。 くれぐれも殺さない様にと。
まだ水面下なら全てを闇に葬るコトも出来たケド。 大々的に松葉様を捜索している今、それは無理。
民の誰もが同じ気持ちで、松葉様達の安否を心配しているからネ。 皆が納得するように締め括らないと。

“すまぬ、しばし一人になる。”そう言った麗香様は、もう国主としての顔を取り戻していた。
着物を羽織り、振り返りもせず部屋を出て行った国主。 “大義であった”と一言だけ力強く言った。








「「雨射はまだ・・・・眠り姫??」」
「・・・・・・・起きてますよ。 それよりなんですか、眠り姫って。」
「「王子様のキッスで起そうかな・・・・・ と。」」
「そんなファンシーなキッスは、俺には必要ないんで。 そこんとこ宜しく。」

「「んもう! このツンデロッvv」」
「またそれか・・・・・ で、誰の陰謀か分かったんですか?」
「ウン。 全てを麗香様に報告して来たヨ。」
「明日・・・・ ってもう今日だけど、民に公表するらしいです。」

「・・・・・・・・・・やっぱり・・・・・ 松葉様達は・・・・・」
「「うん、殺されてた。」」
「・・・・・そうですか。 麗香様、お辛いだろうな・・・・・・。」
「「・・・・・・・・・・うん。」」

辛いなんて生易しいもんじゃないと思うヨ。 心の支えを自分から奪った男の腕に抱かれてたんだから。

大葉の頭を覗いた時、傲慢な感情も全て見えた。 子種候補として指名され、ますます大葉は慢心する。
麗香様との間に子を成せれば、その子は世継ぎ。 我が子が次の国主になるなら後見人は自分しかいない。
形だけの伴侶、自分の他に寵愛を受けている三人は邪魔だ、なんとか排除できないものだろうか、と。

更に忍びの里を抱える話が浮上する。 里設立にあたって指揮をとるのは伴侶。 なぜ自分ではないのか。
そこでやっと危機感に気付いた。 麗香様に頼られるのは、これからはその忍びの里の者達になると。
そんな事は断じて認めない、この国には自分達が、奥処があるじゃないか。 今迄と同じでなんの問題が?

国主夫妻が才能を寵愛しただけあって、大葉は、瞬時に全てを排除できる方法を思いついたんだ。

“火の国の温泉旅館にその筋では有名な按摩師がいるそうです 木の葉の忍びをも唸らせる腕だとか”
そう言えば、麗香様の為に松葉様が動くと知っていた男の、巧妙な誘導。 最初から計画された罠。
桃井達三人も、その噂の按摩師について調べたんだろう。 完全予約制で、出張はしないらしいコトも。

「大陸一の火の国に魅せられて、四人が亡命した・・・・・ と思わせる予定だったんですよ。」
「そうなれば国主は火の国 木の葉隠れに打診する。 ウチは亡命の事など知らないから・・・・・」
「ウン、でも隠していると思われる。 忍びへの不信感を植え付けるコトが出来るよネ。」
「忍びの里を抱える話を見直すかも、ですね? それと同時に邪魔な四人も始末出来ると・・・・・」

後で雨射の予約をキャンセルすればいいだけ、だからネ。 全てが国主不在の間に終わるはずだったんだ。
でも帰国したのが三人で、計画は変更に。 更に、木の葉に来た時、松葉様を三代目が確認してた。
けれど大葉の一番の誤算は、草津屋の按摩師 雨射が、実は木の葉の潜入員だった、というコトだよネ。

「海野中忍、オレ達ずっと夜通し動いてたから・・・・ 少し横になるネ?」
「全ては明日。 国主が決断を下すでしょう。 桃井にもその時に証言してもらいます。」
「あ、はい。 ・・・・・・・・そうですよね、本当に・・・・ お疲れ様でした。 お休みなさい。」
「「・・・・ファンシーなキッスで起されるのを希望vv」」
「馬鹿言ってないで、とっとと寝て休んで下さいっ! もうっ!」

チェッ! けちんぼ!! お目覚めのキッスぐらいしてくれてもいいじゃないっ! ・・・・あ。 そうか。
優しい海野中忍は、松葉様のコトを気にしてるんだヨ、きっと。 まさかあの部屋に埋められてたなんてネ?
フフ、気が付かなかったからと言って、誰もとがめないヨ。 桃井を隠してくれたじゃない、それで十分!