香りの塔 17
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お目覚めのキッスこそしてくれなかったけど。 どうなんだ、あのポロリと本音こぼれる優しさは。
“ちゃんと休んで下さい”“少しでも疲れが取れてればいい”とか。 ホールドしたくなるでしょう?
んもぅ、可愛いっ! って! 恋人なら誰だって、ギューッてしたくなるよ! 当然の意思表示だよね?!
一応ね、力一杯抱きついちゃうと海野中忍が潰れるから、加減してるつもりだけど・・・・ 忘れちゃう。
はぁー 昨日は一日一回一フィニッシュの約束も、忘れそうになっちゃたし・・・・ あの指圧も強敵。
手をニギニギされた時、もしやお誘い?! 応えなきゃと思ったのに睡魔が。 まさにゴールドフィンガーだよ。
カカシ先輩、ちっとも思う様に行動させてもらっていませんよね、ボク達。 ふふ、これが恋でしょうか?
苗畑の部屋で一晩を明かした桃井と一緒に国主の前へ。 麗香様はボク達三人だけに話があるそうだ。
真っ赤な目をした桃井が “おかげでお別れがしっかりできました お返しします” と、開口一番に言った。
ボク達の手元に返って来たのは、昨日預けた封印の巻物だ。 解印を結び、そこから三体の遺体を出す。
国主の、麗香様の目に考えたくなかった現実が突きつけられた。 夫の死、寵愛してた愛人達の死。
「木の葉の忍び。 まずは松葉、大松、小松をみつけてくれた事の礼を言う。」
「国主 麗香様。 お言葉を返すようですが、我らがみつけた訳ではありません。」
「こちらの桃井さんがみつけて、香りの塔の苗畑の中から掘り起こしたんです。」
「桃井が。 そうであったか。 ・・・・・・桃井、辛い思いをさせて済まなかったな。」
「そんな! 何をおっしゃいます!! 死者ならば、あそこに埋められているだろうと・・・・」
「ふっ。 なら香木の秘密を知ってしまったか。 ・・・・・・・木の葉の暗部、他言無用に頼むぞ?」
「「承知。」」
「この国の者は皆、文字通り国の礎となる。 気がついておったか? 我が国に墓地はないであろう?」
「そう言えば。 では香りの塔とは・・・・ 巨大な慰霊碑の様なモノですか?」
「誰もが同じなのだ、皆どこからか集まってこの国が出来た。 ならば個々に埋葬する必要はない。」
「塔の最上階からは国が一望出来ました。 ・・・・という事は、民にもこの塔が見える訳だから・・・・・」
そうか。 そう言われてみれば寺院や墓地といった建物が見当たらなかった。 墓地は一つだけなんだ。
死臭も香木の匂いにかき消され、気にならなかった。 香りの塔こそが、この国にある唯一の墓なのか。
民は国のどこに居てもあの塔が見える。 そしてこの国で死んだ者は誰もが皆、同じ場所で眠るのか・・・・・。
死産、事故、自殺、他殺、寿命や病気で死んだ者達。 国の死者全員となれば、その数はケタ違いだよ。
死体を土台としていた菌糸は、特別な香木を作る為ではなく、より早く死体を分解させる為なんだろう。
菌糸から養分を吸い上げている今の苗木は、その過程で出来た副産物だったんだな、きっと・・・・。
死臭を消す為に用いられていた香木が、いつしか思いもよらない強い品種となって進化を遂げたんだ・・・・。
「あくまでも偶然の産物なのだ。 国家機密にせねば、悪用される可能性がある。」
「・・・・そうでしょうネ。 強欲な忍びの里などは特に。 まず、生者で試そうとするでしょう。」
「我が国の香木は、我が国の民の一部・・・・・ 松葉が最初に、そうワタシに進言してくれた。」
「あの強い品種を研究せず、秘密を国内にのみ留めた。 ・・・・・・・・立派な方だったのですね。」
香りの塔はいつだって変わらずそこにある。 この国の誰もがどこからでも、あの塔を見る事が出来るなら。
どんな時も一緒にいるよと、力強く励まされるだろう。 故人を偲ぶ為の物は手元に置いておくだけでいい。
身分もなにもかも関係なく、人は死んだら皆同じなのだと。 この国で産まれ、この国の土に還るだけ。
人が生きた証、そこに馳せる思いは一つなんだ。 ある意味、それは究極の理想なのかもしれないね。
「はい、松葉様は・・・・ 麗香様やご自分を慕う民がいるから、今の自分があるのだと、常々・・・・・ ぅ。」
「桃井は感情表現が豊かでな。 いつもワタシ達の代わりに泣いたり怒ったり・・・・ ふふふ。」
「おれ・・・・・ 今ほどおれが代わりに死んでればと思った事はありません・・・ うぅ・・・」
「桃井、言うてはならん。 ワタシもお前も、人は皆いつか死ぬ。 いつか香木になるのだ、この国の礎に。」
「松葉も大松も小松も。 皆、綺麗な顔をしておる・・・・・ お前が丁寧に土から出してくれたのだな?」
「・・・・っ。 麗香っ ぅ・・・・・・」
「桃井だけでも助かって良かったと思うぞ? 木の葉の忍び、心から礼を言う。」
「「あり難く。 ・・・・・・・・・・・国主の心中、お察しいたします。」」
この国に墓とよべる場所が香りの塔だけなら、そこの苗畑に死体を埋めても、なんら不自然じゃない。
おそらく、国中から日に何度も持ち込まれる死体の中に、松葉様達三人を紛れ込ませたんじゃないかな。
数日後、苗畑で三人の変わり果てた遺体が発見されるはずだ。 それはこの塔の中の兵なら誰でもいい。
香りの塔に桃井が向かう事は、処頭である大葉には報告済みだろうから。 ワザと行かせたんだよ。
松葉様達の死体を苗畑に埋める事が出来たのは、塔にいた桃井しかいないと、状況証拠を作る為にね。
大葉の計算では、桃井が塔の最上階の部屋で麗香様の伽のお相手をするのは、それが最後だったはずだ。
けれど夜伽に選ばれたのは大葉。 国主にとって特別なのはやはり自分だと、有頂天になっただろう。
桃井は最後の思い出も得る事なく、謀反人として死を待つのみ。 近々、誰かに死体を発見させよう、と。
最上階の部屋を雨射に与えていた事など知らず。 まさか実際に桃井が、苗畑の部屋にいたとも思わずに。
そしてそこで菌糸が這う前に、背中の斬り傷も真新しい三体もの遺体を、丁寧に掘り起こしてたなんて。
いくらキレ者の処頭であっても、予想不可能だ。 ボク達の入国を聞かされていなかったんだから。
それの意味するところ、つまりはこうだ。 所詮は奥処の愛人、外交や内政に口出しするものではない。
根本的に、信頼の意味が違うんだ。 火影から書簡が届いた事を教えてもらえないのが何よりの証拠。
桃井は雨射と会ったから、ボク達の情報を知っただけ。 こんなにハッキリと線引きされているのにね?