香りの塔 5   @AB CEF GHI JKL MNO PQR S




なんとか交換条件を呑ませた。 ・・・・・ん? あれ?? もしかして俺、最大のチャンスを逃がした??
交換条件として、本番込みのマッサージは今後拒否しますっ! とか。 言ってもよかったんじゃないか?!
依頼主は香華の国の松葉様。 草津屋の按摩師の雨射が行かなきゃ、その時点で任務依頼は成立しない。
そうだよ俺の馬鹿っ! ・・・・・・はぁ。 とっておきの切り札を捨てちゃったも同然だよ・・・・。

ホントの事言うと、指圧だけなら喜んで力になりたい。 俺の指圧でリラックスできるならいくらでも。
休暇日を取り上げられても必要以上の抗議はしない、そんなお二人を俺のマッサージで癒せるなら、な。
そりゃ二人とも、運動の後はグッスリと寝るけども。 もっとちゃんと、ゆっくり休んで欲しいんだ。

・・・・・さあ、切り替えよう。 今から俺は草津屋の雨射だ。 俺の任務は雨射として香華の国へ行く。
そこの国主の伴侶 松葉様からの依頼で、国主に心行くまで癒しのマッサージをお届けする事、だ。
じっちゃんの為に始めた肩揉みが、いつしか人に自慢できるような特技になった。 他国の国主に、だぞ?
公務で気疲れしている国主に、リラクゼーションの時間をぜひ楽しんでもらおう。 もの凄く光栄だよな。








う〜ん、残念! この任務の依頼人でもある松葉様ご一行は、公務があるからもうお帰りになったそうだ。
そりゃそうか。 国の要人はなんだかんだと忙しい。 松葉様が使者団に混じってた事が吃驚なんだから。
本当なら、使者の数人に行かせれば済む事を、わざわざご本人が隠密で火の国の温泉宿や木の葉に・・・・・
依頼内容から考えると、とっても優しい男性なんだろう。 国主に内緒で結婚十周年のお祝い、だもんな。

「そうなんだよ。 皆さまお忙しい様で。 でも木の葉に依頼して来たからと。」
「じゃぁ、里で依頼が受理されたから・・・・ すぐにお帰りになったんだな、安心して。」
「香華の国の国主 麗香様は、たいそうお美しいらしいよ? 内政業務にも長けてるらしいとか。」
「国として発展するだろうな・・・ 行く行くは火の国と同盟関係とかになれればいいですね。」

「そう言えば・・・・ 一人だけなんだか・・・・ 凄く落ち着いた感じの人が・・・・・」
「・・・そりゃそうですよ。 国主へのお祝いの為に内緒で動いてる人達でしょう?」
「なんというか優しそうで、どことなく上品で。 使者、って感じには見えなかったなぁ!」
「・・・・・へー。  ( くす! バレバレですね、松葉様? ) 」

大陸には大小たくさんの国があるけど、柱が女性の国は少ない。 忍びの隠れ里では珍しくないけど。
忍びには男か女か、という事よりもまず、生きるか死ぬか、って方が重要だから。 生き残これるか否か。
俺達は女も男も同じ “忍び” ってひとくくりになってるから、女だろうが男だろうが里の影に忠誠を誓う。

でも一般人の男はそうじゃない。 だから是が非でも男として、女より優位に立ちたいと思ってる節がある。
俺が思うに、どうやっても敵わない事があるから、なんでもいいから女より抜きんでたいんじゃないかな。
そう、新しい命をこの世にうみだす事。 人の命は皆、女から産まれる。 これだけは男に真似できない。
・・・・・・・まあ、これも忍びは例外。 忍術を使えば余裕で体外受精や、男性が産む事も可能だから。

ある程度の大きい国の要人なら、俺達 忍びと同じような感覚だけど、香華の国は創立して年数が浅い。
そんな国の中で、男性がそうやって女性を認めるなんて稀だ。 だから、ぜひともお会いしてみたかった。
きっと国主を支える立派な妻ならぬ、夫っていう感じの人なんだろう。 ただ純粋に妻の為に動いた要人。

国主を一人の人間として尊敬してるんだ。 そして妻として凄く愛してる。 これは・・・・ 俺の勘。
だって。 国主の夫だそ? 金も権力もある、ならもっと派手なモノを贈るだろう? なのに俺なんだよ。
雨射は草津屋お抱えの按摩師で。 木の葉の忍びをも唸らせる腕らしい、って噂を聞いて。 訪ねてきたんだ。
・・・・・ふふふ、三代目が気付かないフリしてあげた、って気持ち。 なんとなくだけど分かるな、俺。







「香華の国の皆さま、大変お待たせ致しました。 我ら、木の葉隠れより参りしは、上忍二名。」
「雨射は我が里でも忍びを癒す者として、大変重宝されております。 ぜひ護衛させて頂きたく。」
「雨射の出国から帰国まで。 また、皆さまの帰路の安全を守る手助けも、同時にさせて頂きます。」
「申し遅れました、オレはカカシといいます、こちらはテンゾウ。 以後、お見知しりおきを。」

・・・・・・・・なんだこれ。 どうなの、この違い。 いや、分かってはいた。 二人は暗部の黄金コンビ。
木の葉の里が誇る、忍びの代名詞だ。 火影直属部隊を統括する人物。 部下達があんなに慕う忍び達。
俺もな? 唯一の特技のおかげで潜入部隊に入って、四年かけてやっと今の立場がある。 そうだろ?
俺は潜入員、お二人は暗部。 なのに何だ、この潜入員真っ青の変わり様は! 詐欺だ、それもう詐欺だろ!!

いや、待て。 俺といる時のお二人は、休息日モード。 誰だって公と私は使い分ける。 ・・・・という事は。
こっちが本来の暗部の長達の顔? でも正規の上忍として任務に就く訳だから、これもほんの一面か??
ちょっとばかり感動。 うん、部下から俺のマッサージをサプライズで企画されるぐらい慕われてるもんな。

・・・・・そうだよ。 この二人は麗香様と同じく、形に残る物よりも、気持ちを贈られた人物なんだよ。
まあ、アラシさん達と松葉様を一緒にしては、さすがに失礼だと思うが。 なんせ、依頼は癒しの空間。
決して、麗香様に本番込みのマッサージを期待してる訳じゃない。 あの認識は暗部ならではの発想だ。

「残念ながら、もう国へお帰りになったそうです。 使者団の皆さまは。」
「あの。 護衛の木の葉の忍びが到着したら、ほどなく出発して欲しいとの伝言を預かっています。」
「「あ、そうなの?? せっかくビシッと決めたのに・・・・・」」
「・・・・・・・・ふふ! ほんと、詐欺みたい。 カッコよかったですよ? お二人とも。」

「うみ・・・・ じゃない、雨射は素直じゃないんだから、モウッvv」
「詐欺みたいって、わざわざ口に出して言うあたりがツンですねv」
「あー ・・・・さっさと出発しますよ? 依頼人の希望ですから。」
「「くすくす! この・・・・ 照れ屋さんめっvv」」

「雨射さん、出張頑張ってね?」
「はい、もちろんです旦那さん。 草津屋もPRして来ますよ。」
「ははは! では皆さん、道中くれぐれもお気をつけて。」
「「「行ってまいります!」」」

・・・・・・大丈夫だよな? 道中三人だからって、いきなり一日一回のマッサージ希望とか、ないよな?
取り合えず、今から駆けて行く訳だし。 三人ともそれだけでくたびれるよな?? ・・・・ちょっとだけ不安。