香りの塔 8   @AB CDE FHI JKL MNO PQR S




「・・・・・・・・・・書簡に目を通した。 面を上げて下さい木の葉の方々、並びに火の国の按摩師よ。」
「「私どもは、三代目火影より、麗香様のお力になる様にと、託っております。」」
「・・・・・そなたらの訪問に、心から感謝する。 どうか、松葉を探して欲しい。」
「「はっ。」」

香華の国 国主 麗香様は、噂通りお美しかった。 そして同時に凛とした聡明さも兼ね備えていた。
国の柱ともなれば、その存在感は必須。 この方は、どれをとっても国を象徴する人物に相応しい。
そしてこの方を支えていたという松葉様もきっと。 性別こそ逆だが、国の礎となる要素は十二分にある。
威風堂々とした態度。 少々の疲れが見えるが、気丈にも公務を続けられておいでなのだろう。

「雨射・・・・・ と申したな。 松葉が・・・・ ワタシの為にこの国に呼んだと。」
「はい、本来なら俺は国を出る事はありません。 ですが、松葉様の誠意に打たれた、と旅館主人が。」
「・・・・・ワタシはいつも香りの塔で休む。 香木に囲まれていれば心が落ち着くのだ。」
「お体は俺が癒します。 木の葉の忍びが滞在中、いつでも俺をお呼びになって下さい。」
「・・・・そうだな。 雨射、香りの塔に待機しててくれ。」

「恐れながら麗香様。 我らは雨射の護衛も兼ねております。」
「雨射を香りの塔に待機させるのであれば、我らもそこへ。」
「・・・・・・・火影殿の書状にこうあったが、まことか? “木の葉の暗部”だと。」
「はい。 雨射は里の忍び達に人気が高く、万一の事を考えますれば・・・・」
「それに雨射のマッサージは我らの報酬として、すでに入っているので。」

「そうか。 暗部ならいいだろう。  ・・・・・・・余計な詮索はしないだろうからな。」
「「「・・・・・・??」」」
「雨射と共に、香りの塔に待機を許可する。」
「「はっ!」」

・・・・・・・・・・・・待機場所の話、だよな?? 俺はよくて上忍は駄目で暗部はOK?? なんじゃそりゃ。
一般人なら気付かない何かが、上忍なら詮索する何かが、暗部なら黙認する何かがある、という事か?
香りの塔・・・・ 香木に囲まれる・・・・ その塔の中で、この国の香木が製造されてるという事??

そうか! 香木はこの国の財源そのものだ。 その製法に関する秘密なんだろう。 企業秘密、ってヤツだ。
そりゃそうだよな、そんな秘密を探れるチャンスがあれば、上忍ならきっと詮索するに違いない。
確かに暗部ならスルーだよ。 だって暗部の任務は暗殺だ。 派手に暴れたり速やかに行動したりな。
俺達忍びは、それぞれが適材適所でいろんな役目を果たしてる。 実は雨射も中忍なんですけどね・・・・。

まあ、何か気付いたところで、俺は何にも干渉しない。 だってここに来たのは雨射として、だから。
中忍として行動したら、それこそ俺が今までかけて来た時間が無駄になる。 潜入員として失格だよ。
・・・・・・・・後でこっそり、何があったか教えてもらおう。 興味はしっかりとあるんだよね、実は。








俺は言われた通り、香りの塔で待機中。 二人は早速、松葉様の足取りを追うと言って、捜索に向かった。
麗香様がこの塔に足をお運びになったら、リラクゼーション開始。 それまでは自由にしてていいそうだ。
ただし、護衛の二人がいないので、半ば軟禁されるような形になってるけど。 出歩けるのは塔の中だけ。
あー やべー 普通に寛いじゃう・・・ 忍びなのに働いてないよ俺。 この部屋、落ち着くなぁ・・・・。

香りの塔は、香木の保管庫のようなところだった。 各階に種別に保管されているらしい扉がいくつも。
俺達三人に与えられた場所は、このシンプルな部屋。 塔の中にも静かな生活空間があってビックリだ。
・・・・ひょっとして。 俺が思うに、この部屋は松葉様が麗香様の為に作ったんじゃないかな?

椅子やベッドはどれも大きくて柔らかく、ここでゆっくりと自分の時間を過ごす事が出来るだろう。
部屋にある物は全てシンプル。 ジャラジャラした装飾は一切ない。 色もブルーやグリーン系が多い。
そしてなにより、この眺め。 塔、というだけあって高い。 この窓から見える景色は、国を一望できる。
・・・・・うん、間違いない。 俺を招いた事といい、この部屋は麗香様の為に贈られたものだ、きっと。

「間違いなく松葉様は麗香様の心の支えだよ。 どうかご無事でいて欲しいな・・・・・。」

三代目の言う通りだ、わざわざ火の国まで。 とてもじゃないが一国の国主の伴侶の行動とは思えない。
けれどそれが松葉様の魅力なのだろう。 政略結婚? 愛がない?? そんな事は絶対にあり得ない。
実際には一度もお会いしてないけど、至る所に麗香様への心配りともいえる松葉様の優しさの欠片を感じる。
民も兵も皆、心配そうにしていた。 麗香様も、気丈に振る舞ってはいたが、俺の目には辛そうに見えた。




「お前っ!! そこで何をしているっ!! ここは国主のお部屋だっ!!」
「へ? いや、俺は・・・・ その、麗香様に言われてここで待機してるんですが??」
「?! お前、奥処の新入りか?? よほど気に入った者でないと入れてもらえないのに・・・・・」
「・・・・・・・・あ、いや。 按摩師です、俺。 火の国の温泉旅館 草津屋から・・・・・」

「え?! ・・・・・・という事は、あんたが、草津屋の雨射か??」
「・・・・・・・・・・・・・・ええ、そうです。」
「そ、そうか・・・・・。 その。 勘違いしてすまん。 まだずっと先かと思ってたから・・・・・」
「・・・・。 そうだ! せっかくですから揉んで差し上げましょう、ささ、遠慮なさらずに、どうぞ?」

なぜ雨射が来る事を知っているのか。ここでは按摩師だが俺も里の忍び、潜入員としての血が騒ぐ。
この男から情報を聞き出してやる! 夢心地、ってヤツだよ、誰でもリラックスムードには逆らえない。
ゆったりするベッドに寝転がせて、得意技を披露する。 暗部の長達を虜にした俺の指圧を舐めんなよ?

・・・・・・・・少しずつ、男の口が軽くなってきた。 男の名は桃井〈ももい〉で、奥処にいる愛人の一人。
聞いてもいないのに、どんどん喋ってくれるのは、俺が軽く暗示をかけたから。 だってこの男は一般人。
俺が忍術を使っても問題ない。 ・・・てか、雨射の姿で忍術を使うのは、これが始めてかもしれない。

まだ隠れ里を抱える前でよかったよ、この国には忍びはいない。 あ、これもこの男からの情報だけど。
今までは私兵と傭兵、奥処の愛人達も文武両道だし。 対忍びには各隠れ里の忍びを雇っていたそうだ。
でも本格的に忍びの里を抱えようという所まで、話が進んでいるらしい。 いよいよ大国の仲間入りだな。
もし隠れ里を抱えていた後なら、塔の中にも忍びがウジャウジャいただろう。 これはラッキー!

「ぅ〜 自慢じゃないけど・・・ ぅ〜 おれは麗香様のお気に入りで・・・・ んーーー」
「そうでしょうね。 この部屋に出入りを許されているのですから・・・」
「ん〜 ・・・・同じ織の国出身で・・・・ ぅ〜 おれは昔から麗香様のファンだった・・・・ ぅ〜」
「その頃から麗香様は、頭角を現しておいでだったんですねぇ・・・・」

どうやら桃井は、同郷の大名の子息だったらしい。 香華の国の奥処は、唯の奥処じゃなさそうだな。
この男の体もがっしりしてて、肉つきもいい。 忍びと勝負したら話にならないけど、武芸に長けていそう。
奥処そのものが、麗香様の護衛を兼ねているのかも。 だとしたら、この国での権限は凄いだろうな・・・・