香りの塔 19   @AB CDE FGH IJK LMN OPQ S




麗香様のご決断は・・・・・ 奥処の皆はどうなるんだろう。 ひょっとして全員のを切りとったりして。
どっかの国の官僚が、皆そうだと聞く。 権力に携わる者として、男でも女でもなくすという意味を込めて。
宦官と呼ばれるそれは、男のイチモツを切りとるんだそうだ。 うぅ・・・ 想像したら痛いよな・・・・
なんて。 ちょっとばかりというか、男にとってかなり痛い想像をしていたら・・・・・   ご本人が。

「雨射、ワタシに自慢の腕を披露してくれ。」
「おはようございます、麗香様。 はい、喜んで。」
「お前の護衛の忍び、今しばらく借りるぞ。 私情で動いてもらっている。」
「・・・・・・・・この塔に匿って頂いている身、なんの心配がありましょう。」

「雨射、そうやってすぐに他国の者を信用するものではないぞ? この塔から出さぬかもしれん。」
「草津屋の主人が、松葉様のお人柄に打たれて俺を寄越したんです。 その国の主なら信用に値します。」
「さすがだな。 ・・・・・・・そうなのだ。 松葉は誰の心にでも溶け込むような、そんな・・・・・」
「・・・・・・・・麗香様、さあ、横になって下さい。」

カカシさんとテンゾウさんはさっき麗香様に呼ばれて行った。 二人を動かしたという事は暗殺なんだ。
宦官どころじゃなかった。 麗香様は・・・・・ 奥処の者達を一掃したんだ。 その決断を下した。
この感じからすると、きっと寝てないだろう。 本当はすぐにでもこの部屋に来たかったはずだ。
松葉様との思い出がたくさんある、この香りの塔の最上階の部屋に。 ここで泣き叫びたかっただろう。





ああ、麗香様、一つ懺悔が。 昨日ここに、桃井さんとおっしゃる男性がおみえになったんです。
せっかくですからと、指圧をしてさし上げました。 よく考えたら国主より先に指圧した事に・・・・・
このリラックス出来るお部屋のせいですよ。 つい職業病で・・・・・ 申し訳ありませんでした。

「・・・・・ん・・・ 気にするな・・・・ ふぅ・・・・ 結果的に桃井はお前に助けられた・・・・」
「俺もまさか、桃井さんが草津屋に来て下さった使者だとは、思いませんでしたよ。」
「っ・・・・ 松葉が一番気に入っておった。 どこにでもよくつれて出かけておったな・・・・」
「ふふ、桃井さんも。 これは松葉様のお導きだとかなんとか。 感謝されていました。」

穴が開くほどの胸の痛みも、吐血するほどの魂の叫びも、消せない。 でもどうか今だけは、深い眠りに。
目が覚めれば嫌でも一国を背負う女帝。 今はただ、恋しい人を失って眠る小さな女の背中であるように。
俺のこの指先は、暗部の長達でさえ癒せるらしいですよ。 不本意ながらゴールドフィンガーだそうです。
もし俺にそんな力があるのなら・・・・ あなたの悲しみや怒りも、少しは和らいでくれるかもしれません。

「んん・・・・ ほんに良い腕をしておる・・・・・ なんとも・・・・ 眠・・・・く・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう一つ懺悔します、麗香様。 少しだけ睡眠の術を使いました。」

俺は一度も松葉様にお会いした事はありませんが。 桃井さんの態度や麗香様の態度で分かりますよ。
なにより民が。 この国に着いた時、兵や民が不安そうにオロオロしてた・・・・・・ 慕われてたんですね。
そしてあなたも。 きっと誰よりも愛してた。 誰に抱かれていても心はいつも松葉様の元に・・・・・

もう、ここに住んじゃえばいいんですよ。 この部屋はずっとこの先も変わらずここにあるんですから。
あたたは国の主で、他の自由は何一つないかもしれませんが。 思い出まで捨てる必要はありません。
無理に忘れなくていいじゃないですか。 ここに来て国を眺めて、いつも思い出してればいいんですよ。

なんか、ウチの暗部の黄金コンビが、塔に居るだけで俺の事をファンシーに“姫”とか言ってましたが。
その気持ち、少しだけ分かりました。 塔の最上階で眠る美女・・・・ 今の麗香様にピッタリの形容ですよ。  







お! お帰りなさい、お疲れ様でした。 あんまり血の臭いはしませんが、暗殺依頼だったんでしょう?
え? 奥処の者達全員ですか? ・・・・・・そうですか、やっぱり。 ・・・・・凄い決断ですね、瞬時に。
民にもそう公表されるんですね? 奥処が謀反を起こし松葉様達を殺害した、だから全員を処刑したと。

「ンー さすが。 麗香様、グッスリ??」
「はい、よくおやすみです。」
「術っぽい臭いがするけど。 まさか?」
「・・・・・・バレたか。 多少。」
「「くすくす!」」

俺、てっきり松葉様達を直接手にかけた者達だけが処刑で、あとは宦官にでもされるのかと思ってました。
だって皆、学のある者達でしょう? 国にとって、これから必要な人材になるもしれないじゃないですか。
お抱えの忍びの里が出来て、内政に力を入れ出したら・・・・・ 奥処から官僚に登用される可能性も・・・
ひょっとしたら松葉様は・・・・ 行く行くはそのつもりで、各国から優秀な人材を集めたのかもしれませんね。

「そうだネ。 謙虚に仕えてれば、本当に国の要人として登用されたかもしれないのにネ?」
「自分達の手でその栄誉ある未来も壊しちゃったんだから。 自業自得、って事ですよ。」
「国主夫妻に庇護され寵愛されていた・・・・ それだけでは満足しなかったんでしょうか。」
「「・・・・・・馬鹿な男達だね、ほんと。」」

忍びの里を抱え、優秀な人材も集めた。 なら、そう遠くない将来、この国は安定しただろう。
今後、桃井さんが麗香様を支えて行くことになるだろうけど・・・・ 松葉様の代わりにはなれない。
桃井さんは、ただ麗香様の為だけに仕える奥処の処頭。 一緒に国の未来を語る事は出来ないだろう。
けれどそれが本来の奥処だ。 主の公務の疲れを癒す為と、子を成す責務を果たす為の場所なんだから。

確かに先を見据えた上で、優秀な人材を集めたかもしれない。 でも誰もその思いに気付かなかった。
国主夫妻がより寵愛した才能、更に子種候補として指名、それが彼を勘違い暴走させる結果に繋がった。
今回の事が計画通り上手くいったとして、そんな人物を民が慕うとは思えない。 いずれ国は傾いただろう。

「按摩師 雨射の役目は終わりました。 松葉様に前金で頂いてますから。」
「オレ達もだヨ。 オレ達は火影の直属部隊、三代目がそう言ったから任務として遂行しただけ。」
「・・・・・・・じゃぁ、そういう事で。 このままそっと出て行きましょう。」
「ええ。 この眠り姫様を起こすのは・・・・ 新処頭の王子様の役目ですからね。」

「「んもう! 海野中忍も結構ファンシーなんじゃじゃないvv」」
「あ・・・・・ あんた達が姫だの何だの言うからですよっ!! もうっ!!」
「「ふふふ、照れてる・・・・ 可愛いっっvv」」
「・・・・・・・・可愛くないっ! ただ働きで働き者の黄金コンビさん、さ、里に帰りますよ。」
「「褒められちゃったvv   ・・・・わーい!!  規制緩和だ!! バンザーイvv」」

・・・・・・・・・褒めてない、っつーの。 だから、恐ろしい台詞を言いながら可愛らしく喜ぶな、って。
そうか、すっかり忘れてたけど。 一日一回一フィニッシュの約束は、この出張任務中だけの話だった。
・・・・・・俺も立派に駆け引きに失敗した男だ。 これも自業自得、甘んじて己の招いた結果を受け入れるよ。

いくら忍びじゃなくても、皆武道の心得のある者達だったはず。 あの短時間で皆殺しか・・・ やっぱ凄いな。
今度こそ、ちゃんと休息日を消化てほしい。 こんな忍び達は、里の至宝だよ、かなりズレてるけどな。
あー 言っときますが。 帰りは人をボールの様に投げない様に。 ちゃんと普通に護衛して下さいね?