香りの塔 13
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桃井を隠した部屋は栽培室だった。 この国の財源と言っていい香木の苗木が、ここで栽培されている。
この綺麗に整備された空間で育てられた苗木が、国内の至る所で育てられ、香木に加工されるんだネ。
これまでにたくさんの部屋があったけど、おそらく若木を種別に保管しておく倉庫なんだろう・・・・。
香りの持続性が良く、どことなく上品な匂い。 そんじょそこらにある香木とは一線を画している。
大陸で最高級品とされる香華の国の香木、なぜ普通の香木と違うのか、どう見てもこの肥料のせいだろうネ。
苗木は、その肥料がたくさん埋ってる土で栽培されてる。 人工の光で室温を一定に保っているみたい。
ここが香りの塔と呼ばれているのは、ここでその特殊な香木の元になる苗木を育てているからだったのか。
一般人が見てもナンなのか分かんないだろうネ。 でもオレ達 忍びにはそれが何であるか一目瞭然。
土の中から見え隠れするのは肥料の一部。 どう見ても人体の一部。 土の中に埋ってるのは人間だヨ。
まるで網をかぶせた様に、死骸の表面が膜で覆われていた。 細くて白い、糸の様な網状の膜。
「これって・・・・ カカシ先輩・・・・・」
「ウン、見ざる言わざる聞かざる、だネ。」
「「・・・・・・・・。」」
や、オレ達は忍びだしサ。 特に暗部は死骸なんて見慣れてるから、今更ナニを見ても動じないケド。
手の一部とか足の一部とか。 見る人が見たらバレバレ、ちゃんと土の中に埋めてあげれば? ってネ。
思ったヨ、瞬時に。 でもチョコットだけ空気に触れてないとダメなのかも・・・・ 菌糸カナ?
海野中忍じゃないけど監察しちゃうヨ。 菌糸だとしたら、まさかソレを栄養分にしてるってコト??
本来なら、胞子が木に寄生して菌糸を伸ばし、木から栄養素を取り入れる。 でもこの苗木はその逆。
あり得ないケド、目の前に証拠がある。 研究を重ね、胞子に寄生されない植物細胞を作り出したんだネ。
弱点を克服させたんだ、菌に侵されない木を作った。 しかも逆に栄養分としてしまうなんて驚きだヨ!
ここにある苗木は、人間の死骸に菌の根をはびこらせ、栄養を蓄えた菌糸から養分を吸い取っている。
分かり易く例えるなら、サメを食うコバンザメの様なモノだヨ。 生態系の逆はあり得ないのに・・・・。
オレ達に暗黙を了承させたワケだネ。 この国の香木の製法は、とてもじゃないが公表できないでショ。
香華の国の香木は、死骸にはびこる菌糸の栄養分を吸い取って成長した木です。 なんて、誰が知りたい?
まさか生きたまま肥料にされてるとは思わないケド・・・・ ウ〜ン、どうなんだろう・・・・??
いや、違うネ。 もし生きたまま人が菌糸の土台にされてたら、この国はここまで成長しなかったヨ。
死体を有効活用した、ってトコかな。 しかし、このグロい研究を成功させたのは、誰なんだろうネ?
テンゾウが、この部屋に隠れている桃井の名を呼んだ。 ナニかの作業をしていたらしい男が手を止める。
・・・・へ?? あの男が桃井?? てっきり苗木の世話人かと思った。 だって土まみれになってたし。
まあ、確かにこの部屋には他に人の気配はしないネ・・・・・ あの遠くにいた彼が、桃井なのか。
「あなた方が・・・・・ 雨射の護衛に就いてくれた木の葉の忍びですか?」
「はい、依頼主にお会いしようと、お探ししたのですが、誰も心当たりがないとの事。」
「それで火影様に国主に謁見できるよう、お願いしたんですヨ。」
「結婚十周年のお祝い、国主 麗香様への贈り物だと聞いておりましたので。」
「麗香様は、雨射が火の国の按摩師だと聞いて、すぐに伴侶の心配りだと思われた様ですネ。」
「・・・・・そうか。 だから雨射をこの塔に・・・・・・ 本当は皆で驚かせるつもりだったのにな・・・・」
「国主に謁見した時、夫である松葉様と奥処の二名が行方不明だと、打ち明けられたんですヨ。」
「その場で麗香様直々に、木の葉隠れへの任務依頼として松葉様達を探すよう、承ったのです。」
「・・・・・・・今迄・・・ 探して・・・ 下さっていたんですね・・・・ 松葉様達を・・・・・」
や、それはとっくに終わらせて、三人でイイコトしてましたv なんて冗談は言えない。 真実だけどネ!
使者団は寄り道せずに帰国してた、だからこの国のどこかにいるに違いないと、一旦引き揚げたダケ。
んで、その間に海野中忍がアンタと接触。 確信に迫るほどの有力な情報をバッチリ引き出してくれた。
後はアンタの口から、奥処の誰が、何人ぐらい、松葉様達の予定を把握していたのかを聞きければいい。
ソイツらを絞め上げて吐かせれば、松葉様をどうしたかすぐに分かる。 処分は国主が決めるだろうネ。
オレ達は国主のお力になる様、三代目に指示されているから、要望があればサクッと狩ってあげよう。
そうしたら任務は完了だもん。 ・・・・・あ。 海野中忍は雨射だからマッサージをしてあげるかな?
「お探しの方をこの部屋に匿ったと、雨射から聞かされてビクリしましたヨ。」
「追跡を開始した時点で、別行動した使者がいる事は分かってましたからね。」
「入れ違いになった様ですね。 おれの方こそ、こんなに早く予約の順番が回ってくるなんて・・・・・」
「それなんですが。 火影が松葉様のお顔を覚えてまして。 優先的に手を回したんです。」
「オレ達は火影直属の部隊です。 雨射を香華の国に連れて行けと言われました。」
「そうだったんですか。 火影様は気を遣って下さったんですね・・・・ ありがたい。」
オレ達は、今迄の経緯から想定したコトを伝えた。 松葉様達は人知れず殺されているのではないか。
今回の使者全員が標的だったと仮定するなら、別行動をとって難を逃れた者が次に狙われるのは必須。
下手をすれば全ての罪を着せて殺される。 だから、あなたを首謀者より先にみつけたかった、と。
「本当にありがとう・・・ ございました。 でも、もう・・・・・。 ・・・・・・どうぞ、こちらへ。」
「「??」」
「・・・・・・・松葉様達は・・・・・ さきほど・・・・ おれが見つけました。」
国主が気に入ってるであろう顔も体も、ここの土で汚している男が、歯を食いしばりながらそう言った。