狼達の晩餐 3
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「三代目、さっきのは花街からの使いですか? 誰か揉め事でも??」
「ふむ・・・ 身請けを断られて自害しよった。 その遊女の頭に焼きつくように、目の前でな。」
「ウチの忍びが、ですか?! そこまで激しい気性だなんて・・・ ?! まさか、暗部・・・??」
「・・・・・あ奴らの情は激情そのものじゃ。 お主が一番知っておろう?」
「・・・・・・・・・はい。」
暗殺戦術特殊部隊の隊員は皆、狼の様だ。 人間以外の獣の中で、唯一情を持つと言われている狼。
もし狼が忍術を使えて、人型に変化する事が出来たなら、間違いなく暗部の姿になると思う。
これほどまでに、暗部の隊員と狼を同一視するのには訳がある。 俺がその情を知っているから。
警戒心が強く、仲間として認識されるまで時間がかかるが、群れの仲間だと認識されれば部類の情を得る。
群れの仲間が傷つけられたら、必ず報復をする。 鋭い牙と爪で獲物を仕留める。 狼は暗部そのもの。
群れのリーダーは圧倒的な強さで持って、群れを率いるところまで同じ。 そして・・・・・
動物は生殖本能で交尾をするが、狼だけは違う。 決まった相手としか交尾をしない、まるで人の情だ。
「アズサが・・・・・ 荒れるな。 この遊女の身が心配じゃ。 イルカや、頼まれてくれぬか?」
「え?! 俺がですか?! 俺は・・・・ 一体何をすれば・・・・??」
「ひとっ走りして、女の様子を見てきて欲しいのじゃ。」
「・・・・・情が本物なら、どこかに逃がせ・・・・ と言う事ですね?」
どうやら死んだのは酉部隊の隊員のようだった。 暗部 酉部隊の・・・・ 群れのリーダーはアズサさん。
恐ろしいのに魅力的な女性。 暗部の各部隊の部隊長は、皆そうだ。 類をみないカリスマ性と強さを持つ。
彼女は・・・・ いや、部隊長達は必ず報復する。 “目には目を”を実行、つまり・・・ 死には死を。
死んだ隊員に対して出来る唯一の弔いは、女を生かすのではなく逝かせる事だと・・・・ 思うだろうな。
「うむ。 遊女が忍びに対して起した殺傷沙汰は、本来なら里で始末をつける。」
「・・・・・・隊員の・・・・ 意を汲んで? 愛した女を生かしてやれ、と?」
「あヤツがそこまで心底惚れた女を、殺すには・・・・ の。」
「・・・・・・三代目。」
花街の遊女は商売上、形だけの者も多い。 今頃は馬鹿な男が死んだと、笑っているかもしれない。
けれどもしそうじゃなかったら。 その遊女の心の中で、隊員は永遠に生き続ける事が出来るんだ。
三代目は俺に、その遊女の情を確かめてこいと言っている。 情が本物なら国外に逃がしてやれ、とも。
確かにアズサさんが知ったなら・・・・ その瞬間に遊女の死は確定する。 問答無用で命を狩る。
おそらく隊員の為を思い、その遊女を墓に入れてやるつもりだ。 本人の意思がどうであろうとも。
アズサさんなら、そんな商売女の事情は関係なく、無理やりにでも殺して、遊女の首を墓に供えるだろう。
なんとも強引で自分勝手な理由だけど、彼女にとっての優先事項は部下なんだ、女一人の命ではなく。
暗部の部隊長は・・・・ 狼の群れを率いているリーダーの情は・・・・ 仲間に対してそれほど深い。
そしてそれは、交尾をすると決めた相手に対しては、更に激情となる。 激しく強く、何よりも深い情。
俺は身を持って知っている。 暗部の部隊長の、それも戌・猫両部隊の・・・・ 部隊長の情人だから。
「分かりました。 アズサさんの目をごまかせるとは思いませんが、俺で何かできる事があるなら。」
「お主だから頼んでおる。 部隊長の情人のする事なら、アズサは黙認せねばなるまいて。」
「・・・・・・ははは。 見つかる事が前提ですか。 まいったな・・・・。」
「すまんの。 ワシがいちいち出向く訳にもいかん。 他の隊員ならアズサには逆らえんからの。」
遅かれ早かれ情報はアズサさんの耳に入る。 その時、もし暗部の隊員が彼女を連行していたら。
何も言わずアズサさんに遊女を引き渡すだろう。 正規の忍びが連行してたなら尚更に、だ。
木の葉の影がその為だけに、殺傷沙汰が起こる度に廓に出向いてたら、里の中枢が麻痺してしまうからな。
・・・・・・自分で言うのもなんだけど、ここはやっぱり俺が一番安全で、妥当な線だよ。
俺は戌部隊のカカシさんと、猫部隊のテンゾウさんの・・・・ 2頭の狼が決めた交尾の相手なんだ。
群れを統べるリーダーの激情を一身に浴びる、彼らの情人。 群れのリーダー達は互いに認め合う。
だから部隊長が選んだ相手にも、誠意を見せるんだ。 俺の行動はそういう意味で黙認される・・・ はず。
「では。 ・・・・恨まれに行ってきますよ。 なるべく時間を稼いで欲しいところですが。」
「・・・・・それは無理じゃ。 ひょっとしたらもう既に、誰ぞが向かっておるやもしれん。」
「!!! す、すぐに走って来ますっ!」
「暗部の結束力は強いのじゃ、恨まれて来てくれ。 頼んだぞ、イルカ。」
簡単に言ってくれますね。 確かに俺の存在は黙認されていますが。
そこでのフラストレーションを、どこかで解消していると思うと・・・・ 申し訳なく・・・・
だって暗部の隊員は狼だ。 獲物を狩るか交尾をするか、そのどちらかで解消するしかない。
情報も引き出せないほど細切れにされた敵忍や、抱き殺されそうになる誰かを思うと、居た堪れない。
俺も最初、あのふたりには・・・・ 抱き殺されるかと思ったぐらいだから。