狼達の晩餐 6   @AB CDF GHI JKL MNO PQR




「あ、あの! 死ぬとかそんなんじゃありません。 そんなに睨まないで下さいよ。」
「「・・・・・・・。」」
「その・・・・ 身内云々は、あの、恥をさらす訳ですし・・・ カジキ隊長、説明して下さいっ!」
「ふたりが来たから、もう偵察の必要はないんですけど・・・・ それでも・・・・ 聞きくか??」
「「・・・・・・・・聞かせてくれる?」」


テンゾウもそう思っていたらしく、オレ達のピリピリとした気がカジキ上忍の天幕に充満する。
その気に耐えかねて海野中忍が口を開いた。 オレ達に先を促されたカジキ上忍が種明かしをする。
忍びは凶暴なヤツが多い。 そういうヤツらを諌める為に、慰安婦を用意する事は戦場では当たり前。
岩隠れは忍び五大国の中でも特に凶悪な連中。 はぐれてしまった娼夫として潜る予定だったらしい。

確かに慰安婦なら、すぐに殺されたりはしないだろう。 でも、それじゃヤラれちゃうじゃないの。
海野中忍はサ、男にホられるのが好きなの?! いくら偵察の為でも、そんな事をする必要ないでショ?
それに・・・・ もし既に潜っていたら、オレ達間違えて殺してしまっていたかもしれないじゃない!
額当てもしてない、チャクラも使っていない、顔も知らない木の葉の忍びを、どうやって見分けるの?!


「あ、あの、落ち着いて下さい、ヤラせるの前提で話すのやめてもらえますか?」
「だって・・・・ 慰安娼夫で潜る予定だったんでしょう?」
「男は後回しですよ、予備です。 女の方が楽でいいに決まってます・・・・ という結論でした。」
「・・・・・・・そりゃまぁ・・・・ そうか。 なるほどネー。」

皆は、娼夫の姿をするのが恥ずかしいけど、誰が一番似合うかで、夕食の時に盛り上ったらしい。
そして今朝、身内がいないからバレても平気だという事で、海野中忍が実行を提案しに来た、と。
確かに、吹っ切れていた。 何もかもを達観した頬笑みだった。 覚悟を決めた忍びの顔だった。

オレ達が見た微笑みは、照れ隠し? テンゾウもオレも、一気に脱力したのは言うまでもない。




戦況に幕を下ろしたその夜、里への帰還祝いだからと、野営でカジキ隊の皆が歌って飲んで騒ぐ。
残念ながらオレ達は、面をとってはしゃぐ事は出来ないから、樹の上で配られた祝い酒を頂く。
カチリと酒瓶を合わせ、部隊の皆が生きている喜びを、テンゾウと小さく分かち合った。

「凄かったなぁ・・・・・ “ 雷切っっ! ”とかなーーーーっ!! ウォーーーッ!!」
「「うぉ〜〜〜〜っっ!! “雷切ーーーっっ!!”」」
「“ 樹海降誕っ! ”ってなーーーーっ!! さすが暗部の部隊長クラスだよなーーーっ!!」
「「“樹海降誕ーーーーっっ!!”かっけーーーぇ!!」」

リン、お前が命懸けで解毒剤を開発したから、木の葉の忍びは現存する毒では、もう誰も死なないヨ?
こうやってオレ達忍びが騒げるのも、今までの忍びの生の上に成り立っている副産物だネ。
潔いお前と違って、ココの連中は生きるコトを諦めたりしなかったヨ。 この酒だってそうだ。
最初から、皆で帰ると誓って持ってきたんだろう。 全員で飲もうな、そう言って。


「ン? アレは・・・ 海野中忍・・・・・ どこ行くんだろ??」
「ほんとだ。 物資保管の天幕ですね、まだ酒があるんでしょうか??」
「フフフ、いくらなんでもそんなに酒ばっか・・・・・ エ?!」
「先輩、あれ・・・・・ 海野中忍ですかね、やっぱり・・・・。」

一瞬、誰かと思った。 だって忍服じゃない。 髪型も・・・・ でも顔の傷は同じだ。
物資保管の天幕に入り、しばらくして出てきたのは、宴の中から一人抜け出した海野中忍。
酒のせいかほんのり赤い頬と、濡れた唇。 束ねていた髪をとき、赤い襦袢を着崩し、酒瓶を抱えて。
・・・・・あの姿であの中に戻ったら・・・・・ ちょっとマズイでショ、いくらなんでも!!

オレ達の心配をよそに、海野中忍はポンッと軽く飛んだ。 皆が騒ぐ輪のど真ん中へ綺麗に着地する。
水を打ったように静まるその場で、海野中忍は冗談っぽく笑ってこう言った。 “幻の偵察衣装よぉ?”
オレが先だったか、テンゾウが先だったか。 オレ達はその瞬間に海野中忍を樹の上に掻っ攫った。


「うお! こんな所にいらしたんですか、探してたんですよ?」
「「あんた、何考えてんだっっ!!!」」
「わ! はもってる! 来た時から思ってたんですが仲良いですね、二人とも。」
「「・・・・・・・・。」」

イルカ、結構似合ってたな? 実行してたらヤラれてたんじゃね? 雰囲気はあるよな、なんか。
そんな声がそこかしこで聞こえる中、出番のなかった幻の娼夫が、オレ達に酒を注いでくれる。
“俺ね、どんな事があっても、生きるのを諦めませんよ? ご心配おかけしました”って言いながら。
リン、聞いたか? お前が最後までオレを騙し通したセリフを、本気で言ってるヤツがいるヨ?