狼達の晩餐 7
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今も病院で眠り続けているコウ部隊長が、ヘラヘラ笑いながら言った言葉は、ボクの胸にしまってある。
『暗部は、他の忍びが出来ない事をやっているけど〜 だからって偉い訳じゃないよ〜』
『力に頼ってばかりで仲間を信用しなくなったりしたら〜 死が迎えに来ちゃうぞぉ〜』
『忍びが長生きするのはね〜 集団行動に長けてるからだよ〜 個人プレー断固阻止〜』
他国の侍や騎士などは、一騎討ちを美徳とし、集団で行動はせず個人で動く事がほとんど。
でもボク達は集団で動く忍び、個人行動は仲間を危険にさらす。 生き残る為には仲間を信用する事。
後悔してもしきれないモノ。 もっと注意をしてれば。 あの時誰かがあの新人に注意を促してれば。
分かっていたはずだ。 個人プレーに走りそうな奴だな、って。 皆はボク達暗部に憧れるけど・・・・
個人で行動した結果、どうなるか。 力のある強い者に限って、そんな簡単な事を忘れる。
本人が忘れても、周りにいるボク達が注意していなければならなかった。 放置は黙認と同じだ。
今、ボク達の空になった酒瓶に、酒を注いでくれている海野中忍にしても、それを分かっていた。
娼夫に紛れて偵察を決心したが、勝手に実行はせず、ちゃんとカジキ上忍に許可を取りに来たんだ。
どうしてボク達が不機嫌になったか、その意味も分かっていた。 心配をしてくれてありがとう、と。
「念の為注意しとくけど、その恰好で戻らない方がいいですよ?」
「あははは! お見苦しいモノを見せてしまって・・・・ 一応ウケを狙ってみました!」
「アンタさ・・・・・ バカ? ヤラれちゃう、っていってんの!」
「ぶっ!! あははは!! なら見てて下さい、そうなりませんから。」
「「あっ!!」」
そう言ってあの中に戻った海野中忍は、大道芸人よろしくクルクルと回って襦袢を隊長に放り投げた。
襦袢を頭からかぶったカジキ上忍は、“奥さんが持たせてくれた襦袢なのに・・・”と恨めしそうだ。
どうやらあの襦袢は、カジキ上忍の奥さんが戦場で淋しくない様にと、持たせてくれた物らしい。
髪は下ろしたままだが、中身は忍服だった海野中忍。 なにやらカッコつけて隊の仲間を見渡している。
「 ある時は飯炊き、またある時は迷子の娼夫・・・・ “カッコ”になる予定だった“カッコ閉じる”
しかしてその実態は・・・・・・・・・・ 人呼んで木の葉の偵察員 海野イルカとは俺の事だー! 」
さっきまでの怪しい空気がなくなり、ドッと笑いが巻き起こる。 これは・・・・・・ なんだ??
ボク達は危機感のない海野中忍に腹を立ててたけど、彼はその回避の方法も知っていたと?!
これも・・・・・ 仲間を信じる事・・・・ になるのか?? 間違いを犯させない事に?
まいった、なにから何までボク達の勇み足だった。 でも一歩間違えばそれは危険な行為だよ?
でも彼はそうならないと確信していた。 “どんな事になっても生きる事を諦めない” は真実なのか。
あんな言葉をボク達の目を見て言った海野中忍。 混沌とする戦場の中で正気を保っている、強い忍び。
この隊の仲間にしてもそうだ。 戦いの中、皆が一丸となって人で有り続ける努力を続けていた。
“どんな事になっても”例え誰が死んでもそれを乗り越えていく、そうならない努力を皆で続ける事。
コウ部隊長。 木の葉の忍びの・・・・ これがあるべき姿。 皆で乗り越える、火の意志の力。
こんな小さな隊の一人一人が、それを知っている。 あなたが言ってたのは、こういう事なんですね。
「あははは! いつ誰が呼んだんだよっ!! 飯は美味かったぞ、イルカー!!」
「てめー、 イルカッ!! おれの奥さんの襦袢を着やがってっ!!」
「カジキ隊長の奥さんの襦袢だったんっすか?! 隊長、アツアツだー、ヒュー ヒューvv」
「だーーーー おれの事はイイんだよ! イルカ、待ちやがれっ!!」
「ぎゃー 隊長がっ!! 暴力反対〜〜 助けて〜〜〜 あははは・・・・ わわわっ!!」
「「カジキ上忍。 海野イルカをしばらく借りるから。」」
「戦場の柱に言われちゃなぁ・・・・。 仕方ないか、失礼のないようにな、イルカ。」
「じ、じゃ、隊長! 俺また樹の上でお供しますねv ・・・・助かりました、ははは・・・・」
違うよ海野中忍。 助けたんじゃない。 君達が・・・・ 君が・・・・ あんまり眩しいから。
生と死が交差する前線で、それが木の葉の忍びだとでもいう様に、人として地面に立っている。
この眩しい光が欲しい。 ボク達が守っている全てを象徴している様な、海野イルカという人間が。
「情人にする。 他の誰のものにもなるな、海野イルカ中忍。」
「・・・・・・・じ、情???」
「暗部 戌部隊並びに猫部隊、両部隊長が今後お前を所有する。」
「あの・・・・ 所有って・・・・ ぇ? え?? わわわ・・・・ ちょっ・・・・・?!」
カカシ先輩もボクも。 この気持ちを何て呼べばいいか分からないけど。 いや、多分・・・・。
どんなに血みどろでボク達が喰いついても、イルカに触れると人に戻れるだろう。 これは確信。
このブレない心をボク達だけのものに。 きっとボク達は・・・・ これを守る為ならもっと強くなる。