狼達の晩餐 9   @AB CDE FHI JKL MNO PQR




俺達忍びにとって、下忍の時に組んだスリーマンセルの仲間には、特別の思い入れがある。
死と隣り合わせの暗部へ一緒に入隊して、今も生き残っている同期の隊員なら、その思いは特に。
三代目の所に話が来る前に、もし隊員の誰かに本人の戻りが遅い事を知られていたら・・・・??

班が違っていても仲の良い隊員もいる。 基本的に任務外での行動は、いくら暗部とはいえ自由だ。
俺の情人達の様に、惚れた相手の話のひとつやふたつ、語り合う親友がいても不思議じゃない。
身請けの話を聞かされていて、紹介してくれるのを里で楽しみにしている、そんな友がいれば?

いつまで待っても帰って来ない隊員の動向には、不自然さを感じると思う。 知っていれば必ず。
そして誰しもが同じような事を考えるはずだ。 遊女に利用されているだけではないのかと。

身請けに行ったはいいが、金だけ巻き上げ煙に巻く、そんな事は花街では日常茶飯事だから。
なにはともあれ、様子を見に行くだろう。 いいかげん友の目を覚ましてやらなければ、と。
元気出せよ、女は他にも一杯いるだろ? そう言って飲み明かす、そっちの方がまだましだった。

遊女の目の前で首を斬るなんて。 そんな光景を目にしたら・・・・ 親友なら一体どうする?
暗部の隊員は狼だ。 アズサさんに知らせるまでもなく、その遊女を殺してしまう可能性がある。
そこまで情をかけた女を友の元に逝かせてやろうと。 それとも・・・・ ひょっとしたら・・・・?

「三代目や俺が思う様な情が、その遊女にあれば・・・・ 見逃すかもしれない・・・・・。」

どうかまだ、誰もこの異変に気付いていませんように。 だって・・・ 三代目が淋しそうに笑った。
暗部の隊員がそこまで激しい情をぶつけた女なら、例え遊女でも殺さず、生かしてやりたいと。
アズサさんの気性の激しさも、自分の激情をぶつけてしまう隊員の気持ちも分かるから、と。
“ じゃが、女の記憶に残る事があ奴の最期の願いなら 叶えてやりたいのぉ ”そう言って。





「恐れ入ります、木の葉隠れの者ですが。 遺体の回収と遊女の身柄を預かりに来ました。」
「ちょっと待っとくれ・・・ もう回収は済んで、身柄も渡した・・・ だろう?」
「え!! 俺、三代目が寄越した使いですよ?!」
「・・・・暗部、だったよ? 木の葉の。 アタシらがあの刺青を見間違える訳がない・・・・」


一足遅かった。 俺が遊郭に着いた時にはもう、木の葉の暗部が遊女を連行して行った後だった。
連れて行った・・・・・ すぐに殺さなかったという事は、遊女の情に打たれたのかもしれない。
きっとそうだ。 こんなに早く駆けつけたのなら、生前仲の良い隊員同士だったんだろう。
友が愛し、友を愛した女なら、その情をはっきりと確認したなら・・・ もう国外に逃がしているのかも!

「そ、それは失礼しました。 では・・・・・ !!! ちょ、なんですか、放して下さい!」
「待っておくれ、見逃してやっておくれ! あの子は・・・・ 蜜葉は臆病な女なんだよ!!」
「・・・・?? 何があったんですか? よければ話してもらえないでしょうか。」
「あぁ・・・・・ ありがとう。 こればかりはアタシらが口出しできない事だから・・・・」

火の国の花街で、忍びが関わっている騒動は、必ず里に報告される。 出入りの激しい廓、当然だ。
もし里の忍びが加害者の場合は、それぞれの遊郭に賠償をしなければならない。 これも当たり前。
差口の買い取りも兼ねている。 つまり、他里の忍びの情報なら、その情報に見合った賞金を出す事。

ただし。 もし遊女本人が加害者になった場合は、里に身柄を引き渡す事が義務付けられている。
その義務が発生する時は以下の場合だ。 他里の忍びの手引きをして、木の葉の忍びを売った場合。
あと、痴情のもつれから、里の忍びに実害を与えた場合。 少し違うけど、今回の話はこっち。
里の忍びが遊郭で死んだ、その原因が遊女だったから女将さんは、木の葉に報告したんだ。


里の忍びに直接害をなした遊女や陰間の末路は、決まっている。 ・・・・辱めを受けた後、殺される。
見せしめだ。 でもよっぽどの事がない限り、火の国の廓で働く売りモノは、馬鹿な事を仕出かさない。
火の国の花街で、問題なく仕事を続けて行くにはどうしたらいいか。 それをちゃんと心得ている。

けど実害を与えるといっても、口車に乗せて大枚を巻き上げるのは害とは言わない、巧みな口技だ。
相手は金額に見合った仕事をしているだけで、熱をあげてつぎ込むのは自己責任の範囲、という訳。
実害とは、里の忍びの命に関わる事。 それが原因で忍びを辞めざるを得ない様な怪我をさせた時も。
今回はそれとは少し違う。 彼女が原因ではあるけれど、暗部隊員の激情がひき起こしてしまった事だ。


「女将さん、安心して下さい。 三代目は・・・ 彼女の情が本物なら国外に逃がしてやれ、と。」
「ああ、あぁ・・・・ 蜜葉・・・・ 良かったね・・・・」
「あと・・・ これを。 蜜葉さんの身請け金です。 里が賠償します。」
「!! ありがたいけどこれは頂けない。 アタシとしては・・・ その処置を聞けただけで充分さ。」

俺も安心しましたよ。 でもこれは三代目からの命令なんで。 せめて半分だけでも受け取って下さい。
ええ。 その分、里の忍びにサービスしてやってくれと、三代目なら言うかもしれませんよ?
あはは! 俺? 俺は遠慮します。 残念ながらこう見えて、抱かれちゃう方なんですよ、くすくす。