狼達の晩餐 8   @AB CDE FHI JKL MNO PQR




「ごめんなさい、待っててね・・・ うぅ・・・・・ もうすぐお側にいきます・・・んん・・・」

木の葉の暗部の気配は分からない。 でも、それも周りに気を配っていれば分かる、静かになるから。
さっきまであんなに騒がしかった人の声がしない。 海の潮が引くように、それは徐々に消えていく。
もうすぐここまで来る。 この部屋に入ってくるのね? 私の次の獲物が。 楽しみだわ、ふふふ・・・


「・・・・・・お前が・・・ 蜜葉か?」
「はぁ、あぁ・・・・ んん・・・・ 愛してる、ふぅ・・・ もっと早くに言えばよかった・・・」
「お前の話は・・・・ 同期だったソイツから聞いていた。」
「ん・・・・ぁぁ・・・・・ ん・・・ やっと話してくれたのね・・・・ ん・・・ 」

待ってたわ、私の操り道具。 そう、この暗部のお友達だったの。 ふふ、ならやり易いわね。
あなたのお友達が愛した女、ねえ、いろいろ聞いたでしょう? 私がどんなに可哀想で幸薄な女か。
男に置いて逝かれるのが怖くてたまらない、臆病な・・・ けれど情熱的で、気持の良い体だと。

ふふふ、我慢しなくていいのよ? だってさっきから、欲に濡れた視線を寄越しているじゃないの。
死んだ男の手を取り自分の手に重ねて、私の中に指を一緒に入れて、いやらしく動かしている様を見て。
男の唇に何度も口づけ、悶え、涙を流し、愛していると、ひたすら耳元で繰り返し囁く遊女を。
ねえ、私の体は綺麗でしょう? 今の私の体を飾っているのは、お友達の流した血だけよ?

「・・・どこ? どこに・・・・ 刺青が・・・・ ああ、愛おしいあなた、そこにいたのね・・・・」
「!!!! お前・・・ 正気を・・・・ 失っているのか?」
「あなただけは私を置いて逝かないと・・・ 信じてたわ・・・ 愛してる・・・ 私・・・・」
「蜜・・・・ 葉・・・・」

刺青だけを見て獲物の腕にしがみついた。 青い炎の刺青、木の葉の暗部の印にフラフラと縋って泣く。
愛してる、置いて逝かないで、身請けの話もうけるから、お願い。 そう言って何度も腕に口づけた。
血まみれで生きている裸体の女。 血だまりで満足そうに死んでいる男。 あなたはどちらを選ぶの?


ねえ、この女は今、淋しくて錯乱しているの。 聞かされるだけだった蜜葉を、抱きたくはない?
凄い自制心ね・・・・ 何を迷っているの? 物欲しそうな目をして・・・・ 私を見ているくせに。
ふふふ、いいわ。 だったらその気にさせてあげる。 今すぐ私を抱きたくなるようにね?
ゆっくりと腕の刺青から唇を放し、肩、首、喉と舌を這わせる。 熱くなっているモノを撫でながら。

「んん・・・・ ん・・・・・  はぁ・・・ 怒って、いるの?  んん・・・・・」
「ふっ、み・・・つ・・  ば・・・・ うぅ・・・・・」
「私のせいね・・・ あなたが死ぬ怖い夢をみたの・・・・ ごめんなさい・・・ 愛してる・・・・」
「すまない・・・・・・ おれは・・・・    蜜葉っっ!!」

頬に口づけながら、あなたが死ぬ夢を見たと告白する。 いつまでも臆病な私を許して、と詫びる。
あなたがいなくなる想像ばかりしているから、そんな夢をみたのね、あなたは生きているのに、と。
“すまない”は、死んでしまったお友達に対する謝罪の言葉ね? そうよ? それでいいの・・・・

荒々しく私をかき抱き、唇を奪った男はもう私のもの。 ふふふ、想像していた蜜葉の味はどう?
欲に負けた男が美しい女の体にむしゃぶりつく。 当然の成り行きよ? だってあなたは忍び。
血のニオイと、いつでも殺せる命を前にして、じっとしていられる訳がない。 そういう生き物。
殺す前に・・・・ 味見がしたくなるでしょう? 忍びの中でも特にあなた達、暗部はね。




「蜜葉・・・・・ おれはここにいる。 そんな夢は気にするな。」
「よかっ、た・・・・・ あぁ・・・・ ん・・・ ぁっ・・・ はっ・・・・・・」
「お前を・・・・ ん・・・・ 置いて逝く訳がない、だろ・・・?」
「んん・・・ ぁ・・・・・・ 愛してる・・・ 愛して、るわ・・・・ はぅっ・・・」

今、この瞬間から少しずつ。 あなたを私の道具にしていくの。 これが・・・・・ 私達の楽しみ。
捨てられるまでは大切にしてもらえる、悪くない夢でしょう? 知っていて抜けてくる忍びもいるもの。
でもね、あなたは残念ながら短命。 私達の里を守らせる男は、もっと強い忍びでないと駄目なの。
早く従順な道具になってね? それまでは惜しまずに、たくさん私をあげるから。 ふふふ・・・・

今回の火影暗殺が成功すれば、報酬として貰える上忍は、あなた達暗部の部隊長なんですって。
しかも二人もくれるそうよ? ウチに依頼に来たあの男は、その部隊長達も邪魔なんでしょうね。
お互いの利害が一致する。 これは何よりの取引材料に他ならない。 ここまでは私の勝ち。

私達クノイチは馬鹿じゃない。 勝てないと分かっているのに、直接挑むなんて事はしないの。
間接的な暗殺は、道具を使って遠隔操作をするようなモノ。 だから勝利の美酒にイマイチ酔えない。
でも今回は別。 “王将” の前まで進めた駒がいう事を聞かない。 こんなのは・・・ 始めて。
火影暗殺任務は完了した訳じゃない。 ここからが本当の勝負よ? 大手をかける駒はたくさんいる。





ねえ、木の葉を治める火影様。 あなた直属の部隊の隊員は、なかなか思う通りには動かないのね?
こんなに気分が高揚するのは久しぶりなの。 私の声に従わない男がいる、という事が嬉しいなんて。
こうやって苦労するから勝利の美酒が美味しいのね、忘れていたわ。 今回はもの凄く酔えそうよ?

三代目火影様。 あなたの息の根を止める道具を作るまで、楽しみが継続されるのね、ありがとう。
力のない唯のクノイチが、大陸に名をはせる影の死の裏にいるなんて。 忍びとして最高の名誉。
そうして私は、忍び世界で永遠に語り継がれるのよ。 あの猿飛ヒルゼンを暗殺させたクノイチとして。

幾重にも張り巡らした蜘蛛の巣は、柔軟にたわみ、獲物をゆっくりと捕まえる。 ふふふ、捕まえた。
今のところは一勝一敗。 この彼が暗殺を成功させてくれるのが楽しみでもあり、残念でもある。