狼達の晩餐 5
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ボク達猫班のコウ部隊長には、不思議な第六感が備わっていた。 “死”の気配を感じとるんだ。
昔、生死の境を彷徨い息を吹き返したら、なんとなく分かる様になった・・・・ と聞いている。
にわかには信じられないが、本当なんだ。 でもコウ部隊長の警告を無視した、馬鹿な新人がいたんだ。
部隊長は、そいつを庇って敵の一太刀を受けた。 伏兵がまだいたんだ、ボク達は待ち伏せされていた。
何よりも死に敏感だったはず、ボク達は今まで何度もそこにある死を回避し、先延ばしにして来た。
警告してくれるコウ部隊長に救われてたんだ。 この先には何かあると、そう心構えが出来たのに。
ボク達は袋の鼠だった。 血路を切り開く為、何人かの死を覚悟した時、部隊長が大技を出した。
「くっ・・・・ だか、ら・・・ 言ったでしょ〜 “こっちの道は死ぬかも”って・・・・」
「部隊長っ!! なに・・・ 何やってるんですかっ! コウ部隊長っっ!!!」
「あはは、 テンゾ〜 くん、 次は君が・・・ 猫班の部隊長だよー がん、ばって〜 ふ・・・」
「こんな時になに笑ってるんですかっ! もうしゃべらないで下さいっっ!!」
あの体でオリジナル、鈍空殺〈どんくうさつ〉の術を、その場にいた全ての敵にかけた部隊長。
術をくらった相手を包む空気を重くしたり軽くしたり出来る、水遁と風遁を組み合わせた術だ。
重い空気圧に耐えられず次々と膝をつく敵忍に、好機を逃さずボク達は襲いかかり全滅させた。
ボク達はすぐさま部隊長の元へ駆けつけたが。 部隊長の心臓は弱々しく動いているだけだった。
「お、おれ・・・ すみません、すみません、部隊長っ!! うぅ・・・ ガハッ!!」
「殺してやりたいけど殺さないよ? 部隊長が庇った命を、ボクが奪う訳にはいかないからね。」
「グッゥ・・・・ ゲホゴホッ! うぅ・・・ す・・ すみま・・ せ・・・」
「お前っ!! 必ず責任を持って部隊長を里まで背負って行けっ! 分かったな?!」
部隊長に泣きすがっている新人の首を絞め上げ、黙らせた。 動揺してる奴は邪魔以外の何者でもない。
大丈夫だ、あの人はしぶとい。 死にはしない、本人が言ったんだよ、死ぬかもと。 “かも”だ。
ボクは一時的に部隊長を仮死状態にして、警告を無視したその新人に担がせ、里まで急がせた。
部隊長は死にはしなかった。 けれど生きているとも言えない。 目が覚めないんだ、あの日から。
ボクが仮死状態にした心臓は、確かに動いているのに。 植物状態となってしまったコウ部隊長。
あれからずっと、木の葉病院の特別室にいる。 今でも部隊長の病室には花が絶える事がない。
アイツが・・・・ いつも花を持って面会に行くそうだ。 ボクはあの日から猫班の部隊長になった。
今ある命を誰ひとり無駄にするな、自分勝手に命を放棄する事は許さない。 そう宣言して。
そしてボクは海野イルカに出会った。 カカシ先輩と応援に行った現場で見た、迷いのない笑顔に。
何が嫌いって、仲間を捨て駒に使う作戦が、ボクは一番嫌いだ。 木の葉と他里の違いはそこだろう?
ボクが暗部で学んだ事は、殺すより生かせ。 力がある者こそ、その力を仲間の為に使うべきなんだ。
もしそれしか生き残る方法がないとしても、最後まで諦めない。 でなければ何の為の仲間なんだ?
だから思わず交戦部隊の隊長に殺気を向けてしまった。 仲間の死を前提に立てる作戦は見過ごせない。
けれど海野中忍の行動は自主的なモノだった。 カジキ上忍がそんな作戦を立てた訳じゃなかった。
命じられた訳でもないのに、自分からそんな事をわざわざ言いに来るなんて、どうかしている。
しかも身内がいない? それが何?? そんなの皆そうだ、カカシ先輩もボクも、コウさんだって。
偵察に行くのは自分が適任だと言いにきた海野中忍は、あの時のコウ部隊長と同じ様に笑っていた。
自分は中忍だから死んでも問題ない? 足手まといだから?? 誰にも迷惑はかけないから平気?
なにもかも吹っ切れた? そんな仲間の犠牲の上に成り立つ情報や作戦で、ボク達が喜ぶとでも?!
彼の頬笑みは、そんな感じがしてならなかった。 冗談じゃない、中忍だって下忍だって里の忍びだ。
そこに捨てて良い命などあるはずがない。 その力は民や仲間を守る為にあるんだ、勘違いも甚だしい。
木の葉の額当てに誇りがないのか?! 一体、三代目の・・・ 火影様の何を見ているんだ!
そう思ったら、ますます腹が立ってきて・・・・・ 笑ってそんな事を提案する彼を絞め上げたくなった。