小さな恋の行方 13   @AB CDE FGH IJK MNO PQR S




第弐大陸 月の国。 普通に海を船で渡れば二十日以上かかる。 でも、そんなに待たせられないでショ?
ずっと昔は、壱も弐も陸続きだった。 大きな戦いで大地が裂け、海が荒れ、巨大大陸が分裂したらしい。
伝説の六道仙人の手を離れた尾獣達が、悲しみに任せて暴れ、大陸が裂けたのだと言うヒトもいる。

昨日、月の国と国主の子息 カズハについて調べておいた。 狩野さんが不安に思うのが良くわかる。
彼女は美咲様の心を安心させてやりたいと言っていたが、相手の子息の事も心配していたようだった。
それもそのはず。 彼はもともと次男で、兄がいる。 いや、兄がいた、と言ったほうが正しい。

数年前に亡くなったとされてる兄 カズミ。 船の事故死だと記されていたが、実際はどうだったのか。
どの国でも同じだが、特にその大陸の中心国とされている国は、真実が見えないコトが多い。
そういう世界を知っている狩野さんだからこそ、相手の身を案じたのではないか、そんな感じがした。







「木の葉が動いているとバレたら、収集つかなくなるからネ。 なるべく距離を置いて捕まえるよ?」
「了解です。 うまいこと星隠れの里の忍びが、通りかかればいいんですけど・・・・ あっ!」
「ん? ツイてるネ。 カモが来た。」
「しかもふたり、中忍っぽいですよ?」

テンゾウとふたりで、一人ずつ乗っ取るコトにした。 乗っ取るといっても変化するワケじゃない。
だいぶ前にコピーした術、視洞眼〈しどうがん〉の術をかけ、目を借りるダケ。 軽めに暗示もかける。
上手い具合に中忍だし、ちょっと頭をいじらせてもらえば、何があったかなんて覚えていないだろうしサ。
ごめーんネ? ちょっと目を借りるヨ。 捕らえた中忍ふたりに、視洞眼の術をかけ、その記憶を抜いた。

「どう? 見える??」
「はい。 不思議な感じですね。 なんだか。」
「こんな術、役に立つのかな、とか思ってたケド。 コピッといて正解。」
「よ、さすがコピー忍者のカカシ! 千の術を手にした男!!」

千の技を持つ男、か。 ははは、よく言われる。 この目の持ち主の視界と同調できる、それだけの術。
この術は実は自来也様からコピらせてもらった。 女風呂を覗くのに開発したそうだ、ってか綱手姫を。
昔綱手姫の風呂場を覗いて、半殺しにされたらしい。 なら、付き人の目になって覗いてやる! ってネ?
ものすごい根性だよネ。 ある意味、イルカがイタズラを繰り返していた時の行動力に匹敵するヨ。

「暗示かかってるから、カズミのこと調べたくなるハズ、ってかさ、イルカの事思い出したヨ。」
「あはは! ボクも自分で言ってて、イルカへの肉欲と格闘の日々を思い出しました。」
「・・・・・長かったよネ、ホント。 よく頑張って耐えたヨ、オレ達。 ネ?」
「まさかほんとに、千個コピーするまで待たされるとは・・・・ 恐るべし鈍感イルカ。」

ほんと鈍いのか鋭いのかわかんない。 まあ、アレも一種の才能だよネ? 無神経で優しい雑草魂。
イルカをこの手に抱けたのは、千回術をコピーした後。 イヤ、冗談で言ってたのヨ、テンゾウと。
千個コピーし終わるまでにはイルカを抱こう!・・・・を合言葉に生きて帰ろう、ってネ。 頑張ってたヨ。
それにはイルカが、恋愛感情をオレ達に向けてくれなくてはダメ。 もうネ、ほんの2年前なの、実は。

「・・・・・でも恋愛感情を自覚したら、もうこれでもか、ってぐらい愛をくれましたよね。」
「ウン。 その前だって、いつもオレ達はヒーロー。 イルカはオレ達のコトが大好きだった。」
「ふふふ、昨日は一杯、充電できましたね! 自分から乗っかって、一生懸命してくれました。」
「ま、煽った責任は取ってもらわなくちゃネ? 自分の行動の責任はキッチリと。 先生だし?」
「「ふっ、はははは! くすくす!!」」







カズミやカズハの事を調べたくなる、なんでかわからないけど、そうしないとスッキリしない・・・・ってネ。
星隠れの里に戻った星忍達は、色々調べてくれた。 残念だけど会話は聞けないのヨ、覗き見の為の術だし。
でもこの目のヤツらはどうも内勤だったらしく、保管庫なんかにすんなり入って行って事情を把握できた。
んで、わかった事は、数年前のカズミを乗せた船の沈没は、やっぱりただの事故じゃなかった、ってコト。

「まさか雲が絡んでるとは・・・・ カズハ様も軟禁状態のようだし・・・・ 事態は深刻ですね。」
「雷か。 あれから10年だヨ? 子供同士の政略結婚なんてとっくに忘れるでショ、普通。」
「・・・・しかも、その相手の相手を殺すというのは・・・・ どうなんですかね、公子として。」
「最低なヤローだネ。 そう言えばあの時も、雲がしつこく追って来たし。 おかげで里は・・・・」

九尾襲来から一年後、木の葉隠れの混乱に乗じた雲隠れが、白眼欲しさに日向家の幼女誘拐を試みる。
その時、美咲様と雷の国の三男の婚姻関係が結ばれていて、不可侵条約の元、両国の平和が保たれてた。
あれは完全な条約違反だ、雲の関与がバレずに済むとでも思っていたのかネ、舐めるんじゃない、だ。

不可侵条約を破棄されて、美咲様をそのまま雷に置いておくほど、時宗様と火影様はお人好しじゃない。
婚姻関係を解消し、美咲様と側仕えの狩野さんを取り戻した。 当然、離縁状を叩きつけ、力ずくで。
諦めの悪い雲に、結局は木の葉が折れた。 お前らとは違う、これが木の葉の忍びだ、とでも言うように。

雷からの美咲様奪回には多くの忍びが向かった、もちろんオレ達も。 まだはっきりと覚えてるヨ。
ヒアシ様の血の涙も、ヒザシ様の誇りと強い意志も。 日向宗家の首ならば、雲を沈黙させるに充分だ、と。
当時の部隊長が、両目を焼かれた首を雲に投げつけた。 当主に代わって自害した、ヒザシ様のその首を。

先に不可侵条約を破ったのはアッチ。 雲隠れの里 雷影は、ソレを受け入れないほどバカじゃなかった。
ケド10年前、木の葉の血の犠牲で修復した関係の裏で、雷はこんなバカなコトを仕出かしていたなんて。
すぐに木の葉に戻って、火影様に報告した方がイイ。 星隠れの里の力を信じないわけじゃないケド。
彼らは数年前、長男 カズミを、みすみす雲隠れに殺されている。 同じ過ちは犯さないと思いたい。