小さな恋の行方 20   @AB CDE FGH IJK LMN OPQ R




薔薇城炎上で、琴音様を失った火の国の民は嘆いた。 でも、それを吹き飛ばすような、明るい知らせが。
美咲様と月の国のカズハ様との御婚約の知らせ。 両国の繁栄を願って、赤い月の紋様が掲げられた。
一見幸せそうに見える婚礼の儀の裏の真相を知っているのは、忍び以外でただひとり。 女官 狩野。
彼女は三代目に、もうひとつ、依頼をお願いしたそうだ。 これにはさすがの俺も、頭が下がった。





『火影様、わたしには忍びのような力はありません。 消同魂〈しょうどうこん〉呪印を施して下さい。』
『なんと! それは死期を同じにする術・・・・・ 狩野殿、気は確かか?!』
『出来れば木の葉の風琴守の様に。 最後の最期までご一緒したいのです。 美咲様のお側に。』
『・・・・・セトの様に、か。 それが依頼主の希望なら、里は依頼を受けましょう。』


三代目は狩野さんの望み通り、消同魂呪印を施した。 美咲様がこの世を去る時、彼女の魂も消える。
美咲様には内緒にしてほしい、今回の様に、個人的な依頼なのだからと。 更に驚くべきは美咲様だ。
ご婚約祝いにと訪ねた三代目へ、懇願したそうだ。 火の国の為、民の為、そして木の葉隠れの為に。
狩野さんの覚悟も凄いが、美咲様の覚悟は、もっと凄かった。 さすがは国を治める者 炎一族だ。


『もし月の国が、星隠れの里が、火の国の敵になれば。 私が火の国の敵になれば、いかが致すか?』
『・・・・・美咲様に限って、そのような事は。 例え天地が逆さになろうと、有りますまい。』
『ならば私に暗示をかけよ。 もし火の国を裏切ったなら、カズハ様の首を取り、自害するように。』
『・・・・・・・・・それが美咲様の切り札なのですな? この猿飛、確かに承りましたぞ。』


炎一族の小さな恋は実ったが、美咲様の生きる糧は火の国の民、それは変わらない。 けど狩野さんは。
美咲様の何もかもを知っていて、それでも沈黙を守るだろう彼女だけは、個人の為に生きる事を許される。
忍びが誰かの為に生きたいと願い、そうしても、誰も何も言わない。 生死を懸けて矢面に立つから。
でも同じ矢面に立っているのに、炎一族はそれすらも後回し。 彼らの一番は、何があっても民なんだ。




火影様の一番もやっぱり、火の国や里に住む民なんだろう。 俺達里の忍びも、火の国の民の一部だ。
三代目に、どうして俺にそんな話を聞かせてくれるんですか、と聞いてみた。 三代目は笑って言った。
お主達は三つで一つじゃろ? 事の真相全てを知る権利があると、そうアヤツらが言いおった、だって!

少しでも多く、同じ思い出が欲しいのじゃろう。 もうすぐそれが叶わなくなると、知っておるからの。
4月から、お主がナルトのいるクラスを受け持つのじゃ。 愛されているのだと教えてやってくれ、と。
あんなに一番だ、一つだと、うるさかったのは、だからか! そりゃ待たせたけど、信用されてないなぁ。

「ナルトに・・・・ やっと・・・・。  三代目、俺・・・・ 精一杯、頑張ります!!」

確かに俺は、四代目の息子、独りぼっちのナルトの為には何でもするだろう。 包んで愛して甘やかす。
時には怒って、一緒に笑って、一緒に泣いてやりたい。 けど俺が愛されたいと願うのは、あのふたりだけ。
包んで愛して甘やかして、抱きしめてほしい腕は。 俺の居場所は、カカシさんとテンゾウさんの腕の中。

木の葉の玉、生徒達を愛する俺ごと抱きしめてくれる。 俺の一番は、そんな大きな、大きな、愛の場所。








美咲は、父上の冷凍保存の精子から作った、火の国の為の道具。 義母に傾倒した、あの父の血を引く者。
義母がいたから良かったものの、一歩間違えば、父は名君ではなく、暴君と呼ばれたかもしれないのだ。
だから恋を禁じた。 万人ではなく、ひとりを愛してしまったら、あの狂気とも言える血が何を仕出かすか。

「私自身もこの血が怖い。 知らず知らずのうちに、義母に傾倒していたこの血が・・・・。」
「早急に死を望まれたのは。 自国の者を惑わせたら、とは。 春日だけではないと知っておられたと?」
「その通りだ。 私は己が判断を誤り、その為に木の葉の有能な上忍師をも犠牲にしてしまった愚か者。」
「人は皆間違えます。 それを無視して突き進むのと、間違いと向き合い進むのとでは全く違いますぞ。」

殺すべき弟子を逃してしまった、と火影ですら間違えた事があると言う。 そう、大切なのは繰り返さぬ事。
10年前、雷の国への国交安定化の政略は失敗した。 その時に学んだのだ、それでも裏切る者がいると。
私が国の為にと、作り育てた最高の道具。 美咲が自分で言いださねば、私が火影に命じる所であった。
嫁ぎ先の国が、もし火の国を裏切る様な真似をすれば。 代償として、美咲に国主の首を取らせよ、と。

「ご自分でカズハ様の首をと申された、死への道づれに、と。 炎一族の激しい恋そのモノですじゃ。」
「・・・・やはり、炎の血の者は、恋をするモノではない、か・・・・・。」
「月の国は長くから続く交易国。 美咲様のあの暗示が始動する事は、きっとありますまい。」
「そうだな。 それに、義母はそれこそ叶わなかったが、一緒に逝かせてやれるという事だな。」

「・・・・・木の葉の火影 猿飛よ。 私を・・・・ 非情だと思うか?」
「いいえ。 時宗様はまぎれもなく、この火の国を治める炎一族そのモノでございます。」
「・・・・美咲を月の国に送ってやる時、民の誰もが自慢するぐらい、華やかに着飾ってやろうぞ。」
「はい。 他国に火の国の財力を見せ付ける、今までで最高の旅立ちを、演出致しましょう。」






「時に火影、美咲の為に泣いてくれた、涙もろい忍びがおるそうな。」
「むむ、そんな事が! 美咲様の前で泣くなどと。 失礼致しました、その者に代わり・・・・」
「いや、責めているのではない。 なんとも人間らしい忍びがそろっているな、と感心したのだ。」

「暗部のカカシやテンゾウ。 恋人だという例のあの忍びも。 我ら一族より、よっぽど人間らしい。」
「しかしながら、忍びは生き抜けば生き抜くだけ、人間味が失われて行くモノでございます。」
「だが、木の葉隠れの忍びは他里とは違う。 この国に与えられた宝だと、自負しているぞ?」
「誰かにそういって頂けると・・・・ 嬉しいモノです。 散って逝った者達も喜んでおりまする。」

「実は・・・・ 心・技・体を具現化したような忍びの見本が、里におりましてな。」
「それは火影、お主の事ではないのか?」
「あ奴らが育てた玉こそ、木の葉の宝。 里の、火の国の武器にございます。」
「そうか。 炎一族には過ぎた宝玉。 ならば曇らぬよう、我らは磨き続けねばならんな。」




どうしてもヒザシ様の死に意味を持たせたかったんです。 ええ、自己満足ですとも!(苦笑)   聖