小さな恋の行方 5   @AB CEF GHI JKL MNO PQR S




いくら雑草魂の持ち主の俺でも、口から心臓が飛び出そうになった。 狩野さんて・・・・ 美咲様の?!
まさか国主の妹君の側仕えが、この依頼の主だったなんて。 ・・・・ついこの前もこんな事あったよな?
ウチのふたりが勝手について来て、俺の知らない話が頭の上を通過してる・・・・ みたいな。
女とふたりなんて、とかなんとか怒ってるフリしてたから、ヒカルはまた誤解してくれたみたいだけど。







「まさか火影様が任務受付所に座っておられるなど。 聞いた時は驚きました・・・・。」
「まぁ、のぅ。 どんな方がいらしても大丈夫なように、なるべくワシが・・・・ な?」

「「そうそう、例えば国主 時宗様の突然のご訪問に備えて、とか。 ね?」」
「ピリピリするでないっ、たわけがっ! きっともう時宗様も忘れておられる!!」
「「それならいいんですけどねー?」」

ふたりが火影様に話を通して、狩野さんは三代目に直接任務依頼を申し出た。 今回の行動は隠密。
美咲様が頼んだことでもなければ、国主が頼んだわけでもない、あくまで狩野さんの個人依頼なのだと。
だからおふたりに知られる訳にはいかなかった、もちろん火影様にも。 結局ばれちゃったけどね?
三代目に知られれば国主に報告されて、美咲様は国主からお叱りを受ける、そう思ったらしい。

「ふむ。 遠出の際はお供を必ず付ける、と約束して下さるなら依頼を受理いたしましょう。」
「火影様・・・・・ はい。 お約束します。 どうかよろしくお願い致します。」
「狩野殿に何かあれば、それこそ美咲様を悲しませる事になる、それをゆめゆめお忘れなきように。」
「・・・・わたしの軽率さは否めません。 申し訳ありませんでした・・・・。」

なんだかなぁ。 まただ。 国主がどうのこうのと始まった。 受付に座ると決めた時も猛反対されたし。
また俺知らないところで話が進んでるんだろうな。 狩野さんも、ですか? 俺もね、軽率なんですよ。
なんとか自分に出来る事はないかって、行動しちゃったり。 つい、感情にまかせて先走ったり。
きっと深い事情がある方なんだろうな、って思いました。 だから今日中にお会いしたかったんです。

「ふふふ、さすが木の葉隠れの里。 誠実に対応して下さってありがたいです。」
「誠実、ですか嬉しいな。 でもね、しごかれたんですよー、表情が好戦的だって。」
「まあ、こんなにニコニコしてらっしゃるのに??」
「ははは、三代目の教育の賜です。 あと、ふたりへの愛情の賜。」

「?? そちらのおふたりは・・・・ ???」
「えへへへ。 自慢のふたりです。 火影様の両腕、暗部の司令塔です!」
「暗部の・・・・・ そうですか、だから。 わたしの顔を御存じだったのですね?」
「10年前の美咲様奪還では、まだヒヨコじゃったがの。 今ではワシの両腕として動いておる。」

「暗殺戦術特殊部隊 部隊長のカカシです。」
「同じく、部隊長補佐のテンゾウです。」
「内密に・・・・ 暗部が動いて下さるのですか?」
「「お望みとあれば。」」

10年前?? 美咲様奪還?? 何だかわからないけど、最初から狩野さんだと知ってて一緒に来たんだ。
コレだよ。 この、仕事出来ますオーラ! もうメチャメチャかっこいい! それがウチに帰ったら。
すんごい甘えん坊なんだ。 なにがって、その両方の態度を拝める俺ほど、幸せな者はいない、だろ?
これ以上惚れさせて、どうするんだまったく! みたいな。 ああ、つくづく思うよ。 俺って幸せーv

「!!! まあ! 皆さんはそういう間柄だったのですね?」
「こ、このたわけがっ!! 場をわきまえぬかっ!!」
「あ・・・・ これは、その・・・・ あははははーー!」

「・・・・・・・イルカ、後でね?」
「・・・・・・・覚悟しときなネ?」
「うっ! ご、ごめんなさい・・・・・。」

しまった。 言ったそばから軽率な行動をとっちゃったよ。 ついね・・・・ つい、キスしちゃった!
だって、“仕事出来るんだぜオーラ” が・・・・ ぶわっと出て・・・・ かっこいいー! とか・・・・
行ってきますとお帰りなさいのキスを待ってる時の、あのモノ言いたげな目とかを思い出したりして・・・・
せめて暗部の面を着けててくれたら・・・・ 普通に忍服着てるから、つい・・・・  ね? ね?

「クスクス! 羨ましいです。 ・・・・・美咲様もそうやってご自分を表現出来ればいいのに。」
「炎一族はそうはいきますまい。 己の行動が、民に影響を与えるでの。」
「ええ、その通りです。 全ては民の為、火の国の為。 ご自身が国交を繋ぐ道具ですから。」
「・・・・美咲様はよい側仕えに恵まれた。 心中お察しいたしますぞ、狩野殿。」

「「「・・・・・・・・。」」」

琴音様もそうだったけど。 国を背負う人や、その周りにいる人と言うのは、なんというか、迫力がある。
こういうのを、気品とか、品位とか言うのか? “国交を繋ぐ道具” と美咲様を表現した狩野さんは、
さっきまでのホンワカした感じではなく、冷たい刃物を首にあてているような、そんな覚悟を感じさせた。
俺達忍びが、死を覚悟する時のような、そういう目をして。 ああそうか、この人も国の道具なんだ・・・・。