小さな恋の行方 6
@AB
CDF
GHI
JKL
MNO
PQR
S
まだ泣いているの・・・・。 リンが移植してくれたオビトの写輪眼が、あれからずっと泣き続けてる。
オビト、お前は何が悲しい? オレはお前の代わりに未来を見せてやると言ったでショ、なのに。
神無毘橋の戦いから、この左目はずっと涙を流し続けていて。 馬鹿な中傷まで飛び交う始末。
胸クソ悪いったらありゃしない。 聞こえるようにコソコソしやがって。 オレの面見て言えってーの。
『うちは一族の写輪眼を奪ったらしい、あの目は悔しくて泣いてるそうだよ?』
『落ちこぼれのうちはが開眼するまで、じっと待ってたんじゃないか?』
『カエルの子はカエル、裏切り者の子は、やはり裏切り者だ、実に恐ろしい。』
ミナト先生が、しばらくココで療養してろと言った。 この目が泣き止むまで、三代目の屋敷の奥で。
・・・・なあオビト。 お前が泣き止まないと、オレはココから出してもらえなさそうだヨ?
ひよっとして、リンに会いたいのか? お前リンのコト好きだったから。 でも片思いなんだヨ、オビト。
リンはオレが好きなんだって、こんな男のどこがイイのかわかんない、お前の方がイイ男なのにサ。
「・・・・・そこにいるヤツ、入っていいヨ。 何しに来たの?」
片目が泣いてるだけで、体調は至って元気そのモノ。 今日の自己鍛錬のメニューをこなして休んでた。
さっきはしなかった気配が、オレのいる部屋の外からしてる。 頼りないチャクラ、まだ子供だろう。
この部屋には三代目の結界が張ってある。 中のオレが許可を出さないと、外にいるヤツは入れない。
オレが許可を出さなければ、入っても来ても屋敷の外に移動するという、三代目オリジナルの選別式結界。
「カカシさん? 俺、イルカ。 じっちゃんに言われて来たんだ。」
「ウン、カカシはオレ。 三代目に? なんて??」
「泣き虫小僧の友達になってやれ、って。」
「・・・・・・・イルカ、だっけ? ちょっと、おいで?」
入って来たのはオレより年下のガキ。 “カカシさん”だって。 オレのコト普通の忍びだと思ってる。
三代目に言われて来たって、その言葉をそのまま言うヤツがあるかっ! そういう無神経なガキにはコレ。
スリーマンセルを組んだ初日に、オビトがオレにやりやがった。 そのあとボコボコにしてやったケド。
素直にトコトコとやって来た。 デリカシーのないイルカの尻穴に、両手の人差し指をプスリと差す。
「オビト直伝 千年殺し!」
「あででで!!!! な、なにすんだっ! この変態!!」
「ガキのくせに、難しい言葉知ってるネ?」
「う〜 お前だって子供だろ! ・・・・・・・なあ、痛いか?」
こんなガキに変態呼ばわりされるとは・・・・。 しかも言うにコトかいて、上忍に向かって子供だと?
なんの戸惑いもなく、オレの左目に触れ涙を拭った。 ポン、ポンと。 刺激しない様にガーゼでそっと。
コレしみるだろ、涙は塩味だもんな、なんて。 まぶたの上の傷は、もう乾いてかさぶたになったのに。
なかなか乾かない頬の傷。 涙が出ると生乾きの傷をつたう、そのせいで時々ツキンと痛んだ。
「知ってるか? 涙が塩味なのは、痛いのをわからせる為なんだって。」
「・・・・はぁ?」
「舐めると喉が渇くし、ほっとくと腫れるし、傷に入るとしみるだろ?」
「・・・・・・だから??」
「心が自分に痛みを知らせてるんだ、って父ちゃんが言ってた。」
「すごい発想だネ・・・・。」
「泣くのは忍びの恥だ。 でも心が痛いのは恥じゃない、って。」
「・・・・・・・へー そう、なんだ?」
無神経なガキに、左目をただ拭いてもらっただけなのに。 屁理屈を並べた言葉を聞いただけなのに。
オビトの形見の写輪眼じゃなく、オレ自身の右目から、恥だと教えられてきた涙がポロポロと出てきた。
オビト、お前、オレに泣けって言うの? 父さんが死んだ時も、恥だからと泣いた事なんてなかった。
オレ、お前みたいに泣けないヨ? オレさ、オレは・・・・ 泣き方を忘れてしまったんだ・・・・。
「わわわ、今度はこっちから??」
「・・・・・・こっちがオレの目。」
「そっか。 じゃあ、赤いのは代わりに知らせてくれてたんだね。」
「・・・・そう、みたい、だネ。 くっ・・・・。」
あんなに泣き続けていた赤い左目は、右目から涙が出たとたんに泣き止んだ。 やっとわかったヨ。
泣き方を教えてくれてたんだ。 オレ自身が思い出すまで、オビト、お前が代わりに泣いていたんだネ。
自分の膝に顔を埋めて静かに涙を流した。 イルカはそんなオレの頭と背中をずっと撫で続けていて。
優しい優しい小さな手が、心の痛みを一緒に感じようとしてくれてる。 無神経だなんて思ってごめんネ?