小さな恋の行方 2   @BC DEF GHI JKL MNO PQR S




わたしは小さいころから、国主の血を支える者としての教育を受けてきた。 炎一族に仕える一族。
雷の国の公子に幼くして嫁ぐ、国主の妹君の拠所になれるように、と選ばれた。 12年も前の話だ。
一つ年下の美咲様は、齢10歳にして、もうすでにご自分の立場を理解しておられた。 国の道具だと。

婚礼を期に両国に国境不可侵条約が結ばれ、つかの間の平和を維持していた。 が、九尾襲来の一年後。
雲隠れは隙をつき、宗家の幼女誘拐未遂事件を起こした。 雷国主は雲隠れの独断だと反論したのだが。
時宗様と火影様は烈火のごとく怒り、まだ12歳だった美咲様を即座に血路を開いて取り戻したのだ。

血で血を洗う結果になる、と誰もが覚悟をした。 しかしそうはならなかった。 事の発端である白眼。
木の葉がその日向の首を差出したからだ。 宗家当主 日向ヒアシの首を。 その時わたしはその場にいた。
美咲様とわたしを連れ戻しに来た木の葉隠れ、公子の嫁を返せと追って来た雲隠れに挟まれて。

『元はと言えば、雷の国の強欲さが招いた事。 我が国の美咲様を娶りながら、不可侵条約を侵すなど。
 九尾襲来後なら木の葉が油断してるとでも? クシナ様しかり、忍びの得意技が幼女の誘拐とは笑わせるっ!
 そんなに白眼が欲しいならくれてやろう。 ・・・・その目を焼いて自害された当主、ヒアシ様の首をなっ!』

雲はその昔、四代目の妻の誘拐も試みたそうだ。 あの時は宗家 本家の幼女、確かヒナタとかいったか。
ヒアシ殿は今もご健在、あの首はおそらく影武者であったのだろう。 里が平和の為の血の犠牲を払った。
どこまでが国主の指示で雲の独断であったのか、全てはナゾのまま。 そうして今の平和は保たれている。

そこまでの態度を見せた木の葉に、雷影は奪還中止を命じた。 あの首が影武者だと知りながらも、あえて。
当たり前だ、不可侵条約を先に破ったのは雷の国、何を言えるはずもない。 美咲様を取り戻した事で、
火の国の民はますます木の葉の里への信頼を深める。 自国と美咲様が受けた屈辱を晴らしたのだから。

木の葉の里は、火の国になくてはならない力のある忍び達。 強い結束力と誇りを持ち続けている。







「あ、ここだ。 “風琴守世度”〈ふうきんしゅせと〉の慰霊碑・・・・・。」

だからわたしが木の葉に依頼に来た。 その前にどうしても立ち寄りたかった所がある、此処だ。
美咲様はわたしが琴音様に憧れていると思ったらしいが、どっちかって言うとこのクノイチの方だ。
確かに琴音様は火の国の女性の憧れだった。 けれど、最後まで一緒にいたというクノイチに共感する。
わたしもできる事なら、最後の最後まで美咲様のお傍にお仕えしたい、そう思っているから。

「風琴守世度、わたしもあなたの様に強く有りたい。 最後まで美咲様の拠所で有りたい。」
「風琴守慰霊碑の墓守で美鈴といいます。 とても綺麗なお花ですね。」
「?? あの・・・・ あなたはこの風琴守世度の、お身内の方ですか?」
「いいえ。 セトさんは、命の恩人です。 薔薇城が落ちる前に連れ出して下さったんです。」

驚いた。 琴音様に殉じたというクノイチの慰霊碑で、花を手向けて勇気をもらおうとしていたら。
生前の知人だという少女が。 しかもあの城が炎上し、落城する前に連れ出されたと言う事は・・・・。
全ての女官、下働きに至るまで、全員が焼け死んだと聞かされていた。 生存者がいたとは驚きだ。
すごいな。 このセトというクノイチは、殉じるだけではなく、少女の命をも救っていたなんて。

「よければ・・・・ お話を聞かせてはくれませんか? どんな方だったのか。」
「素晴らしい上忍師だったと聞いています。 里には、セトさんの弟子がいますよ。」
「!!!! 風琴守世度は琴音様の護衛のクノイチなのでは??」
「火影様にお会いされてはいかがですか? アタシよりも詳しいはずです。」

ついこの前、火の国を悲しみの渦に落とした出来事から、てっきり琴音様付きの忍びだと思っていた・・・・。
けど違ったらしい。 そう言えば美咲様は、この国のおとぎ話を信じているのかと、お聞きになった。
真実は知らない方が良い場合もある。 炎の血に仕える者は、そういう事をもし知っても黙認するもの。
だとしたら、あの話の真実は知らない方が良い事なのかもしれない。 おとぎ話は美談のままでいい。

「その・・・・ 諸事情があって。 火影様にはお会いできないんです・・・・。」
「なのに風琴守の墓参りの為に、わざわざ木の葉の里へ。 それはどうもありがとうございます。」
「いえ、任務依頼のついでと言うか・・・・ 生きざまに感銘を受けたと言うか・・・・。」
「?? でも任務受付所には、結構、火影様が座ってらっしゃいますよ?」

え?! 嘘、いつから?? 木の葉の影が受付になんて・・・・ 何年か前はそんな事なかったのに!
火影様はわたしの顔を知っているから、美咲様の事を聞かれたら困る。 だって今日は隠密の行動。
美咲様には、どうしてもあのクノイチの慰霊碑に行きたい、と我儘を言って城を出てきた。
何か力になりたくて。 こっそりカズハ様の近況を探ってもらうように、里に依頼をしに来たのだけれど。

「・・・・・・どうしよう。 せっかく木の葉に来たのに・・・・。」
「あの・・・・ もしよかったら。 その、セトさんの弟子に会いますか?」
「いえ。 風琴守世度の真実は、おとぎ話の中に残しておきます。」
「?? その弟子は、受付係とも親しいんですが、ひょっとしたらその忍びに依頼の話を・・・・」
「美鈴さんっ!! ぜひそのお弟子さんに会わせて下さいっっ!!!」

なんて幸運! これも風琴守世度のお導き?! 確実に火影に会わずに、任務依頼が出来るなんて!!
・・・・というか、なんで任務受付所に火影その人が座っているのか。 火の国が安定しているという事?
まあいい、そのお弟子さんを通して、任務依頼をお願いしてみよう。 風琴守の弟子なら信頼できると。
まだ会ってもいないのに信用しているわたしは、ずいぶんと平和ボケしているな、と片隅で思うけれど。