誰が道を歩くのか 15
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三笠屋のご夫婦から聞いた盗賊は、5人の男達。 膝を抱えて泣いている娘を連れ出し、その部屋を焼いた。
5人の盗賊と実の息子の死体を一緒に燃やしたそうだ。 そして、盗賊は逃走したと役所に届け出たんだ。
その当時、役所にいる見回り兵などは、何の役にも立たなかった。 一日に何件も類似事件が起こっていたから。
小さな店の押し込み強盗、子供一人が死亡。 そんなの、話を聞いて書類に記入するだけで済ませただろう。
その日から、娘が忘れてしまった惨事を思い出させない為に、ご夫婦は涙をのんで息子のいた事実を消した。
一人娘として大切に育て、彼女が何も思い出さなくていい様な生活環境を作っていったんだ。 ただ娘の為に。
夫婦二人の胸の中にだけ、あの日に奪われた小さい命の記憶がしまわれる事になった。 心の痛みを覚悟して。
自分達の娘は人と違う力がある、それに気付いたはずだ。 でも木の葉隠れの里へ相談には行かなかった。
時代は第三次忍界大戦の真っただ中。 もしチャクラ質のある子がいたら、里は否応なく忍びとして召喚する。
たった一人生き残った娘に、もう一度あの恐ろしい記憶を思い出させるのか、忍びの里に差し出すのか、と。
ご夫婦がそういう結論に達したとしても、一体誰がそれを責められる? それほど時代は混迷していたんだ。
唯一の救いは、形だけでも役所に知らせた事。 だから依頼人の尾嶋さんが、ご夫婦の店を見つけられたんだ。
そう考えると不思議な縁だね。 あんまりそういうのは信じないけど、亡くなった子供が導いてくれた、とか?
尾嶋さんが亡くした息子さん、ご夫婦が亡くした息子さん、二人の子供の魂が、人と人とを結びつけたのかもね。
大陸のどこかで誰かが死ぬ時も、どこかで誰かが生まれてる。 人の生死は誰にも予測なんて出来ないんだ。
シキさんが説明してくれたけど、夕日家の幻術 魔幻は、幻世界のループにハマるらしい。 ちょっと凄いよ?
木の葉隠れの夕日家が後方支援部隊にいたら、必ず撤退しろ。 そう他里から警戒されている幻術なんだって。
それもそのはず。 夕日家の操る魔幻にかかったら、敵はその場で静止、実動隊は首を落として回るだけだ。
キッカケを与える事で、術にかかった当人が幻術世界を作る。 自分の理想郷から抜出たい者はいないだろう。
幻術 魔幻の世界から術者が戻してくれない限り、ずっとそのまま。 幻世界の住人になってしまうんだよ。
自分で作った理想の幻世界にいる敵は、本体の首が落とされた事にも気付かずに死ぬ事になる・・・・ って訳。
敵は夢見た幻の中で生き続ける。 飲まず食わずだ、そのままほおっておいても、いずれ餓死する事になる。
今回は理想夢のキッカケを与えるのではなく、悪夢のキッカケ。 紅さんに戻してもらう為の合図も決めたし!
現役暗部から借りた暗部面を両手で持ち、胸の前でクロス! このポーズ、昔好きだった戦隊モノのパクリ!
幻術の中で俺は、木の葉隠れの忍びとして登場しようと思う。 ・・・・将来なりたいアカデミーの先生に。
幻術世界だからね、おれの好きに登場出来るんだよ、へへ! 5才の少女に教えるんだ、先生っぽくいくぞ!
紅さんの魔幻は5人の男の影を作り出した。 悪夢へのキッカケを与える事で、彼女自身が世界を作り上げる。
少しずつ、その当時の三笠屋の一室ができて行く・・・・ ここは・・・・ 子供部屋・・・・ なんだね?
ここからだ。 俺は傍観してなくちゃならない。 彼女にとって一番思い出したくない日が再現される様子を。
小さな店に5人の盗賊が入って来た。 5人は金目の物を家探しし、押入れに隠れていた幼い姉弟を見つける。
布団の間で抱き合って身を潜め、息を殺していた姉弟を引きずり出す。 まず少年の足を踏みつけ首をひねった。
姉に助けを求める弟の苦しそうな声。 見るからに好色そうな一人の男が少女の着物に手をかけた、その時。
少女の体から殺気が漏れ出す。 それは空気中を舞い、バチバチと青白い火花を纏う。 あっという間だった。
本当にあっという間だったんだ。 俺が傍観していた中、少女から放たれた電気を帯びた風が、空気中を舞う。
5人の盗賊は一人残らず切り裂かれ、そして彼女の弟をも切り裂いた。 それを見た少女は我に返り・・・・・
喉から血が出る様な叫びだった。 父を呼び母を呼び、弟の名を叫び続けた少女が、血だまりの中にうずくまる。
さあ、イルカ先生の登場だ。 大丈夫、三代目やシキさんからも、先生に向いているとお墨付きをもらってる。
この事実がなんであるか、まるで分からない少女に。 この事実から目を背ける前に、俺が教えてあげるよ。
「・・・・よく頑張ったね。 君は戦ったんだよ、そしてやっつけたんだ。 分かる?」
「ぅ、ぅう・・・ ひっく・・・・・ おにいさん・・・・ だぁれ?」
「俺は忍者学校の先生だ。 君のお父さんとお母さんに言われて、今何が起きたかを説明に来たんだよ。」
「おとうさんと・・・・ うぅ・・・ おかあ、さん・・・ に? ひっく・・・・」
そう、君のご両親から頼まれたんだよ。 今、君の中に起こっている変化がなんなのかを、教える為にね。
君には、チャクラ質という忍者の力の源になる気質が眠っていたんだ。 それは誰にだってあるモノじゃない。
君のひいひいお婆ちゃんか、ひいひいひお爺ちゃんか、それは分からないけど。 忍者さんだったんだよ?
だから実は、君にもその力が受け継がれていたんだ。 そして悪者をやっつけた。 ・・・・ピンとこないよね?
「いいかい、見てて? ・・・・・・・風遁! そよ風の術!」
「あ・・・・・ おでこに・・・・ かぜが・・・・・ ふわ、って・・・・・」
「ふふふ、それからもう一つ。 ・・・・・・・雷遁! 静電気の術!」
「わ、わ、わ・・・・ あたしのかみのけが・・・・・ おにいさんのてに・・・・ なんで?!」
「これが忍術。 君がさっき悪者をやっつけた力だ。」
「さっき・・・・・ !! あたしは・・・・ おとうとを・・・・・あたしが・・・っ!」
「そう、弟さんは死んでしまった。 でもよく聞いて? 君が弟さんを殺したんじゃないんだよ?」
「しんだの、あたしが・・・・ ころした・・・ あたしがころしたの、おとうと・・・・ わぁぁぁあっ!」
「大丈夫だからっ! 落ち着いて! 俺が見てたから。 全部、本当の事を見てたからっ!」
感情の解放と共に、未熟なチャクラの暴走が起き始める。 俺は思わず・・・・ 力一杯少女を抱きしめた。
ひょっとしたら本体の俺は、だいぶ傷ついているかもしれない・・・・ でも抱きしめずにはいられなかったんだ。
自分の持つ力に気付かなかったが為に。 成長した彼女が、無意識で一人の少年の命を奪ってしまったなんて。
もっと早く、誰かが気付かせてあげるべきだった。 彼女は、弟を殺したと思い込んでいただけ、だったんだよ。