誰が道を歩くのか 16
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俺もこの幻術世界に入るまでは確かにそう思っていた。 魔幻にかかった彼女が作り出した世界は彼女の現実。
あの日彼女が見た記憶が、そのまま再現された世界。 俺は、その彼女の作り出した世界の中にいたんだ。
弟さんを殺したのは盗賊の一人。 足を折り、首を絞め上げて、ひねり殺す所を・・・・ この目で見た。
それは彼女のチャクラの解放とほぼ同時。 確かに暴走したチャクラは、弟さんの腹を切り裂いた、でも・・・・・
こと切れた後だったんだよ、もう死んでいたんだ、その時には。 彼女は・・・・ それを知らなかった。
助けられもせず、自分が弟を殺したと思い込み、責め続け・・・・ そしてこの現実から目を背けたんだ。
俺の腕の中で泣きじゃくっている少女は、彼女が切り捨てた一番辛い記憶そのもの。 もう一人の彼女。
「俺は忍者学校の先生だよ? 先生がそう言ってるんだ、間違いない。 ・・・・・な?」
「ぅぅうう・・・・ うっ、うっ! ぅわぁあぁぁわぁぁぁああっっ!!」
「俺が見てた、何もかも全部。 君は弟さんを殺してなんかいないよ? 大丈夫、頑張ったよ、大丈夫。」
「あぁぁああぁっ! しんじゃった! おとうとが! しんじゃったのっっ!! わぁあぁあっっ!!」
彼女の体から漏れ出したチャクラ、風遁と雷遁の暴走が収まるまで。 小さな体をずっと抱きしめ続けた。
この世界にいる俺は攻撃されなかったが、本物の俺がいる部屋ではどうだったのか。 想像もつかない。
あの雷を纏った風が暴れ回ったのかと思うと・・・・・ 見るも無残な部屋に成り果てているだろうな・・・・
まあ、保全修理は木遁使いのテンゾウさんがしてくれるそうだから。 便利屋しきちゃんの助っ人だしね!
弟を殺したと思い込んで、そんな自分を忘れたくて。 彼女はその記憶を自ら封印したんだ、もう一人の自分に。
ひょっとしたら、忘れてはいけないという思いが、心のどこかにあったのかもしれないね・・・・。
落ち着いた彼女と色々な話をした。 チャクラについて、忍術について、忍びについて、忍びの里について。
一つ話を聞き終わる度に、彼女が成長する。 始めは五才の女の子だった。 少しずつ、実年齢に近づく。
「私と弟は・・・・ 淋しかった。 誰からも忘れられて、私からも忘れられて・・・・・」
「うん。 でもそれは違うと・・・・ もう分かったね?」
「両親が・・・・ 覚えてた・・・・ 覚えている私を作ったのも・・・・ 私、なのね・・・・・」
「そうだよ。 君は上忍になれるほどの気質を備えている、強い心の持ち主だ。」
「あの子を・・・・・ 殺してしまった・・・・ 弟に似ていたの・・・ 凄く・・・・」
「・・・・それは悲しい事実だ。 でもそれも、全部が君のせいじゃないよ。」
「この家の子になるんだ、って教えたら・・・・・ 喜んでいたの。 僕のお姉さんになるの? って・・・・」
「これも知って欲しい。 君がそういう形で外に出たという事は、記憶の封印が解けかかっていたんだ。」
そう、だから起きてしまった悲しい出来事。 無意識で作り上げた彼女の中に、悪夢を全て詰め込んだ封印は。
ほころび始めていたんだ。 あの日の記憶を現実世界で再現する事によって、自分に思い出させようとした。
それは警告と言っていい。 そのまま放置すれば、間違いなく彼女は崩壊した。 三笠屋の娘は発狂しただろう。
自分の力に呑み込まれ、コントロール出来ないチャクラが暴走し、町中を恐怖の渦に叩き落したかもしれない。
忍びの力は無二の力。 使い方で善にも悪にもなれる。 でもどちらかになる必要はない、どちらも存在する。
善行も悪行も必ず人の中に存在するモノなんだ。 その力をいつどう使うか、他の誰かが決める事じゃない。
その為に俺達 忍びは修行して、力をコントロール出来るようにする。 自分で決断した時の為に使えるように。
さっきも言ったけど、少年が死んだ悲しい事実は自分への警告。 自己崩壊の危機を知らせる為のモノなんだ。
だから君はまた自分を守った事になる、無意識でね。 その力は本来なら、素晴らしいモノになるはずだった。
だからって罪のない子を殺した事に変わりはない。 それは悪行だ、わかるね? だから今度は善行をする。
一度犯した間違いを永遠に責め続けていても何も変わらない。 前に進む為には、それを忘れないで生きる事。
「・・・・・・自分自身と・・・・ 向き合って欲しい。 それが忍びの父、火影様の望み。」
「忍びの・・・・ 父・・・ 私は・・・ どうすれば良いのでしょうか・・・・」
「決めるのは君自身だ。 このままでいいというのなら・・・・ 今のこの記憶を封印する。」
「そんな! やっと何もかもが分かったのに・・・・・ もしも私に償える道があるのなら・・・・・」
さすが上忍の気質を備えている人だね。 そう言うと信じていたよ。 きっと、ご両親も尾嶋さんもね。
だから三代目はある事を提案したんだよ。 君には自分の罪と向き合って生きる強さがある、と信じたから。
火の国に生まれた忍びのチャクラ質を持った子供。 その中にある火の意志は、俺達 木の葉の忍びの誇り。
その決断が聞きたかった。 現実世界でもきっとそう言うと、確信が持てるからね。 ・・・・ここまでだよ。
不思議そうな顔をしている彼女に、小さく笑いかける。 ここは君の世界、好きな事が実現できるんだよ。
さあ、やってみて? 弟さんの生きていた時の笑った顔を思い出して? 二人で楽しく遊んだ時の事を。
俺の言葉を聞き、彼女の世界が一変する。 五才に戻った彼女は、彼女に良く似た男の子の手を握っていた。
「じゃぁ、先生は帰るよ。 ヒーローな先生だからな、カッコよく退場する事にする!!」
「「!!!! わーーー そのおめん、どこからだしたのぉ?!」」
「ふふふ、秘密だ! ・・・・いつまでも姉弟仲良くな? ・・・・・・さらばだ、少年少女!」
そう言って俺は、予定通りベストから暗部面をシュパっと取り出した。 右手! 左手! カッコよくクロス!
やー 昔観た大好きだった戦隊モノのヒーローは、こうやって悪者にキックをしたんだよ、とうっ! って。
そんな事やるヒマあったら、さっさと攻撃しろよ! ・・・・そんなツッコミをしながら、皆で真似したもんだ。
これは紅さんが俺を魔幻から引き戻してくれる為の合図。 一回大人の姿でやってみたかったんだよな、へへ!