誰が道を歩くのか 18   @AB CDE FGH IJK LMN OPR S




三笠屋では全てを知ったご夫婦、娘、番頭さんの、涙の感動抱擁スペシャルがあったっていうのに・・・・
トイレでナニをナニしている間に感動の場面は終了。 平常心を取り戻し、心なしかスッキリして戻ったら、
イルカがしっかりもらい泣きしてて、シキさんが性懲りもなく、また顎を撫でようとして叩かれていた。
ボク達の自称兄姉、アスマさんと紅さんの姿は既になく、任務を完了させる為に、夢の国へ向かったそうだ。

そして三笠屋のお嬢さんがした決断は、自分のチャクラ質を封じて欲しい・・・・ というものだった。
記憶を封じて全てを忘れるのではなく、忍びとしてその力を開花させるのでもなく、忍びの力の源を封印。
これにはさすがのご両親も、今回の事を秘密裏に依頼に来た番頭の尾嶋さんも、心底驚いていたっけ。

木の葉隠れの里はチャクラ質があるからといって、皆忍びになれと指導しているのではない。 むしろ・・・・
自分のチャクラを忍術としてコントロール出来ずに、忍びの道を諦める者の方が圧倒的に多いのが現実。
コントロール出来ないとはいえ、彼女は風遁と雷遁を同時に操ってみせた、稀に見る資質の持ち主。
産まれる時代が違ったら、彼女は同じ木の葉の忍び、それも上忍としての人生を歩んだかもしれないね。

シキさんはチャクラ質を色で見分ける眼を持っている。 その色のオーラだけを取り除く事も出来るんだって。
一緒に生命力を奪い命を危険にさらす事なく、純粋にチャクラ質だけを。 これってある意味、恐ろしい。
ボク達忍びが、忍びの力の源を絶たれたら・・・・ 普通の人間に戻ってしまったら・・・・ おそらく死ぬ。

シキさんはその申し出に応え、三笠屋のお嬢さんから忍びの力を奪った。 もうチャクラ質が宿る事はない。
彼女は人より優れたその力を永遠に失って、己の犯した過ちも忘れない、そういうとても辛い道を選んだ。
誰が何を言った訳でもない。 それはまぎれもなく、籠の中で育てられた彼女が、自分の足で歩き出した瞬間。








「そうか・・・・・  “忍びの天敵”と言われていた意味が、やっと分かりましたヨ。」
「・・・・まあ、おれは眼をヤられたらお終いだからな、近距離戦には向いてないんだよ。」
「でもヒグマ上忍のトラップ技術と合わせれば・・・ それこそ忍びの天敵だったんじゃ・・・・??」
「あー まあ・・・・・ ヒグマとおれ、セットでそう呼ばれていた事もあったな。 あははは!」

「ねぇ、イルカ。 忍びの天敵と・・・・・ 黄金コンビと・・・・ どっちがカッコいい??」
「んー 通り名だよね・・・・・・ やっぱ“木の葉の碧い猛獣”が、一番カッコいい!」
「がーん・・・・・ ガイさんに・・・・ 年がら年中振られまくっているガイさんに・・・・ 負けた・・・」

「あははは! イルカは正義の味方好きだからな! どれどれ・・・・・ ゴロゴロさせてみそ?」
「だから猫じゃない、って言ってるだろうっ!!」
「うぅぅ・・・・ 鈍感なクセになんでこういう時だけ・・・・ シクシク・・・・・」
「「・・・・・・・・・・ぷぷっ!」」

ふっ! 実はボク達、さっき触ったんですよ、イルカの顎に! なんて。 言えませんよね、カカシ先輩?
イルカはいつまで火の国に潜っているのかな? 忍者アカデミーの先生になりたいんでしょう??
早く里に帰ってくればいいのに・・・・ まあ、遅かれ早かれ、確実に里の内勤になるのは間違いないね!
だって、忍術について無知な少女を・・・・・ あんな危険な少女を説得出来たんだ、教師に向いてるよ。

「ところでアスマさんと紅さんは・・・? 任務を終わらせる、って・・・・・??」
「確か・・・・・・ 夢の国の競売に参加する、とかなんとか・・・・ この任務の延長??」
「三代目はな、最初からそれをもって、任務の完了とするつもりだった様だぞ?」
「それをもって? 競売に参加してくる事が・・・・ 今回の任務と、どう関係があるんですか?」

「アスマと紅に夫婦を偽装させたのは、子を望む夫婦が子供を落札する為・・・・・ だろうな。」
「?! それって・・・・ あの死んだ男の子の・・・・ 代わりの子?!」
「ああ。 紅は魔幻を通して、彼女の弟を見た。 だから、なるべく似た子を落札してくるだろう。」
「そんな! 彼女はもう、充分苦しんでいます! その子を見る度に自分の過ちを思い出して・・・・」
「でもサ。 それが三笠屋のお嬢さんとその家族が選んだ贖罪。 ・・・・そうなんでショ?」

どうやらそうらしい。 記憶を消すにしても、現実を受け入れるにしても、三代目は最初からそのつもりで。
そうか、チャクラ質を奪って欲しいと言ったのは・・・・・ 彼女はそれを知った上での選択をしたんだね。
忘れていた弟、殺してしまった男の子、それらの罪を彷彿とさせる少年と暮らす。 それは一層辛い道だ。
今回の依頼人の尾嶋さんも、三笠屋夫妻も。 彼女と一緒にその辛い道を歩く事を決めたんだ・・・・・。

「何も知らない不幸な一人の少年。 彼は約束された幸せな人生を送る事になるんだね・・・。」
「そうだな。 死んでしまった者は生き帰らない。 だからその子は充分過ぎる愛情を得るだろうな。」
「己を責め、嘆き悲しむ事よりも。 今を生きて自分に出来る限りの事をする・・・・ なんですね?」
「弟や殺した子に似た少年を心底愛して幸せにするコト・・・・ ものスゴク辛い道だネ・・・・。」

三代目は贖罪の為の矛先を作っていたんだ。 死んでしまった子の代わりには誰もなれない。
けど違う少年を幸せにする事は出来る。 弟やその子に与えられなかった分の愛情を注いであげられるんだ。
似ている少年を見る度、確かに死んだ子を思い出すだろう。 でも同時に何も知らない子は幸せそのもの。
自分と向き合うのは、何も自分が苦しむばかりじゃない。 他の誰かを幸せにする事も同じなんだね。

誰かを殺した辛さや苦しみが、自分の中から無くなる事は決してない。 自分を責めるのは当然だ。
それは彼女なんかより、人をたくさん殺しているボク達 忍びが、誰よりも一番分かっている事。
そういえば随分前に・・・・ そう、ボクが暗部に入った時だ。 その時の部隊長のヒグマさんがこう言った。



『そんな悔恨の時間があるなら、一人でも誰かを幸せにしろ。 己の生の時間は、同じ生者に使うモノだ。
 死んでしまった者は生き帰らない。 ならその者の為にも、他で苦しんでいる一人でも多くの者を助けろ。
 おれ達にはその力がある。 自分が殺した分だけ誰かを助けろ。 そうすればいつかチャラになるんだ。 』



あの時ヒグマさんが言った“チャラ”って。 今ようやく分かった。 自分も幸せになる時が来る、って事だ。
そですよね、カカシ先輩。 そういうことなんですよね。 ボク達は・・・・ 人の命をたくさん奪って来た。
でもそれと同じ位、誰かを救って来た。 それは主に仲間だったりするけど。 そしてついに見つけたんだ。
イルカはボク達の今までをチャラにしてくれる存在、ですよね? 一緒にいると、きっとボク達は幸せになる。

・・・・・でもイルカって・・・・ 正義の味方好きなんですよね? ボク達もなんか、新しい通り名考えます?