誰が道を歩くのか 4
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「おめーよ。 魂胆ミエミエだぜ? その目がな・・・・ 獲物を見る目だ。」
「アスマには関係ないじゃないの。 三代目の息子だからって偉そうに・・・・・」
「初代様の、か。 アッチのほうも初代様レベルかどうか・・・・・ 試してみたいだけだろう?」
「ち、ちょっと何言うのよ、アスマ! それでもあの火の寺にいた聖職者の坊主なの?!」
「別に? 坊主は坊主でもこちとら傭兵だ。 おれたちゃ、禁欲してた訳じゃねぇぜ?」
「・・・・・・・ふふ、わかったわよ、降参! ・・・・アンタから相手すればイイわけね?」
「はっ、これだ。 そんな女にゃ、とてもじゃねぇが、弟分のテンゾウはやれねぇなぁ?」
「なによっ、ケチ! くのいちが寝てあげるって言ってるのにっ! このエセ坊主っ!」
エセ坊主だ? まあいい、呼びたきゃ好きなように呼べばいいさ。 テンゾウはおれの弟分なんだよ。
ついこの前まで里に居なかったおれに、今度こそ兄貴らしい事を何かしてやりたいと思っているんだ。
大蛇丸の生体実験の生き残りとして猿飛家に来た子供は、感情の変化の分からない子供だった。
おれが色々教えてやったんだぜ? これは嬉しい、これは悲しい、これは怒り・・・・ ってな。
おれには姉弟がいた。 第三次忍界大戦中に、ことごとく暗殺されたがな。 親父の実子、だから。
おれの親父は三代目火影 猿飛ヒルゼン。 親父を精神的に追いつめる為だけに殺されたようなモノだ。
どこの忍びの里の名のある家も同じ。 その名声には必ず犠牲を伴う、猿飛家だけの事じゃねぇ。
だから実の弟の様に可愛がって、色々な感情を教えてやった。 本来ならもっと一緒にいてやりたかったが。
九尾襲来事件が起きて里はそれどころではなくなった。 テンゾウは強くなりたいと、暗部入隊を自ら志願。
一方おれも、ある裏事情の為に動こうと決意した。 里を出たら火の寺に必ず寄れよ、そう言ってな。
おれが親父と喧嘩して里を飛び出し火の寺の傭兵になった、ってのは・・・・ そう見せかけただけ、だ。
本当の目的は別にあった。 ある裏工作をしていたんだ、火の寺でな。 俗に言うキューピットってヤツだ。
おれの腹違いの姉。 親父の子が火の寺に匿われているという情報が入った。 その情報を見極める為に。
聞けば親父は確かに心当たりがあるらしい。 まあ、おれの血と比較すりゃ、一発で嘘か本当か判る。
生涯火の寺に仕えたいと、門を叩いた娘。 見れば普通の娘、尼寺でなくなぜ傭兵のいる寺に来たのか。
地陸は最初疑って、厳しく詰問を繰り返した。 敵方に通じているクノイチ、という可能性を考えて。
けれどその娘は “それならばいっそここで自分の首をはねて下さい!” と気丈にも泣きながら訴えた。
他国で生まれ育った母子が、父のいる国の血肉になりたいと思うのは、おかしなことでしょうか、と。
他言しないと誓って下さい、と地陸に全てを話した。 お前は名のある方の娘なのだ、と育てられて来た。
迷惑はかけないと今生の約束をして、死に際にその名を教えてもらったそうだ。 火の国の忍び 猿飛だと。
木の葉隠れの里の影。 そんな人物に会う事は叶わぬだろうが、せめて母を同じ国の土に葬ってやりたい。
母を看取った後、自分の生きる場所は父のいる国だと、一度も来た事がない火の国に足を踏み入れた。
火の寺が死者の魂を供養する為の寺でなく、国主を守る傭兵集団の寺だとは、露とも思わずに・・・・ な。
亡き母の遺骨を胸に抱き、火の国で一番有名な寺を訪ねて来たその女性は、まぎれもない親父の子だった。
『おれの姉弟は皆、殺された。 木の葉に来て・・・・ 親父に会ってやってくれ、きっと喜ぶ。』
『忍びではない無力な女です。 弱みになるぐらいなら、私の事は忘れて下さいとお伝えください。』
『それは・・・・・ なら、ここに。 火の寺にいてくれ・・・・・ 親父が会いに来る。 いいな?』
『ああ・・・ ただ父を想い土に帰るのだとばかり・・・・ ありがとう・・・ ございます・・・・』
そう言って静かに泣いた姉と地陸が恋に落るまで。 おれは守護忍十二士として火の寺に駐屯したんだ。
あの手この手で裏工作したんだぜ? 地陸は鈍感だし、姉は姉で天然だしよ。 けど地陸なら任せられる。
全てを知る地陸があの寺にいて、おれがいなくても姉を守ってくれる、そう確信してから里に戻って来た。
もちろん、この計画には親父が一枚噛んでる。 娘として里に迎えてやれない代わりに無二の幸せを、ってな。
おれとの約束通り、火の寺にちょくちょく遊びに来てたテンゾウの成長を見るのも楽しみだったなぁ。
今じゃおれより強えー忍びになりやがって。 初代様しか使えなかった木遁を自在に操る、木の葉の忍びに。
火影 直轄部隊の部隊長補佐・・・・ なんだか御大層な役職まで上りつめやがって。 嬉し過ぎる、ってんだ。
そんなテンゾウもおれの前ではただの弟分。 姉は地陸に任せて来たし、次はテンゾウを幸せにしてやる。
「アスマさん、久しぶりに聞いてもいいですか? どんな感情なのか、分かりません・・・・・」
「なんだテンゾウ、言ってみろ。 そういや、ちっこい時はよく教えてやったな、ははは!」
「凄くドキドキするんです・・・・ あ、近くに来た、って思ったら・・・・・」
「あ? ちょっと待てや。 それはあれか? 対、人・・・・ って事だよな?」
「はい。 前からよく火影室で見かけてはいたんですが・・・・・ その・・・・・」
「おう、なんかキッカケがあったんだな? 話したとか、手を繋いだとか。」
「いや、あの・・・・ 目が合って・・・・ で、ニッコリ、って・・・・・ えっと・・・・」
「テンゾウいいか、そいつは恋だ! よし、兄貴に任せろっ! かぁ〜っ! やったな、おいっ!」
なまじっか出世しやがったからロクな女が来ねぇ。 どこのどいつだ、テンゾウを恋に落としやがった女は!
ヘンなSMチックな目をした女や、初代様レベルの絶倫を期待する女なんかにぁ、テンゾウは喰わせねぇ!
悪いがおれは実績があるんだよ、姉と地陸をくっつけた、っていう自信と実績がよ。 テンゾウ心配すんな!
兄貴がなんとかしてやる、任せろ。 おれのいない間、里を守ってきたお前に幸せを贈ってやるからな?
火影室によく出入りしているヤツか? だったら十中八九、親父は知ってるな。 特徴を教えろテンゾウ。
髪は長めでひとまとめにしてる、と。 それから? ・・・・顔の真ん中に刀傷が?! マジかよ。
なら同じ忍びだな? 年は変わらないぐらい、か。 それだけ特徴がありゃ十分だ。 よし、待ってろ?
「親父、入るぜ? ちょっと聞きたい事があってよ・・・・」