誰が道を歩くのか 19   @AB CDE FGH IJK LMN OPQ S




親身になってくれると評判の、この町にある便利屋 しきちゃん。 年の離れた兄弟が経営している何でも屋。
落ち葉拾いから事故後の現場清掃まで、口が堅く、どんな事でも引き受けてくれる、頼りになる存在だ。
その兄弟がまさか、木の葉隠れの忍びだったなんて。 私に木の葉の里へ行くよう勧めたのは・・・・ だからか。
全てを知ってから動く、必ず尽力するからと、あの時火影様はおっしゃった。 今はただ感謝するばかり。

旦那さまも奥様も、お二人に恩返しをさせて下さいと突然訪ねた私を疑いもせず、快く迎えて下さった。
あの当時は押し込み強盗などザラ、お役人が罪人を追う事もなかった。 その時間に家を空けた方が悪い、と。
お嬢様にも誰にも分からない様に、そっと心の中でだけ死んだ子を偲ぶご夫婦の毎日を、ずっと側で見て来た。

私も同罪なのだ。 そんな近くで見ていたのに、誰にも分からないはずのお二人の苦悩を、知っていたのに。
それがお二人の為だからと、黙って三笠屋に仕える道を選んだ。 お嬢様を何一つ不自由なく育てる事を。
それが間違いだと気付いたのは、過去何があったのか全てを知った今。 だから、知ろうとしなかった私も同罪。
我が子との最後の時間をくれた恩人のご夫婦だから、と遠慮をして。 家族の様に思って下さっているのに。

お嬢様は弟を殺したと思い込んでいた。 そしてご夫婦も惨殺後のその状況から、そう判断しただけ。
もっと早く真実を知っていれば・・・・・ いや。 あの時の私なら、同じように思ったかも・・・・ しれない。
今木の葉隠れに知らせたら、生き残ってくれた我が子を手放す事になる、忍びになれば戦争が待っていると。

けれど第三次忍界大戦が終結して、忍びの里もそれぞれの国内の平定に力を入れ、瞬く間に平和な世に。
なぜ平和になったその時に、木の葉隠れを訪れなかったのか。 お嬢様は悪夢を思い出す事なく暮らしている。
旦那さまも奥様も、もう過ぎた事だと割り切っている。 どうしてそれが一家の幸せだ、などと思っていたのか。
家族の中で存在すらなかった事にされてしまった子が、確かにいたのにも関わらず。 その慢心が生んだ悲劇。

良かれと思って決断した事が、お嬢様本人の為にはならなかった。 それは心を蝕んでいく原因を作っただけ。
お嬢様の心が悲鳴を上げ凶器となり、罪のない子が死んでしまった。 これはまぎれもない私達の責任だった。
その手で少年を殺したのはお嬢様かもしれない、しかしその環境を作った私達も、あの子を殺したも同然。

火影様の書簡には、戦争に明け暮れ国内の治安を悪化させてしまったのは、火の国を守るべき里の責任だと。
時代が悪かったと言い訳をする、自分達 木の葉隠れの忍びを、どうか許してほしい・・・・ そう書かれていた。
とんでもない事だ。 本人の望まない事を、それがさも一番正しい事の様に押しつけた私達が、一番悪い。
なぜなら、これは事前に防げた事だからだ。 いくら悔んだところで、死んだ子は生き帰りはしない。








一週間ほど前、突然いなくなってしまったあの子は、この町の頼りになる存在、便利屋の兄弟が探してくれた。
こことは違う町で、お腹を空かせてフラフラ歩いていたところを、ある年若い夫婦が保護していたらしい。
そうしてその少年は、三笠屋に戻ってきた。 ご近所さんも、見つかって良かったねと、声をかけてくれる。

「ただいま! おねえさん、だまっていなくなって・・・・ ごめんね?」
「お帰り・・・・ 本当に・・・・ 心配・・・・・してた、のよ・・・ どこに・・・・ 行ってた、の?」
「坊や・・・・・ 皆で探したんだよ? もう一人で遠くに行っちゃ・・・ いけないよ・・・?」
「うん!」

少年はあらかじめ、お芝居の話を聞かされていた。 この家でいなくなってしまった子が自分に似ていたと。
ぜひそう言って三笠屋に帰ってあげて欲しい、皆きっと喜ぶだろうから。 お願い出来るかい? と言われて。
どこかのいいかげんな親が見捨てた子だとか。 いない家族を心から求めていた不幸な生い立ちの子だとか。
もちろん私達も、そのお芝居の話を、火影様から聞いていた。 便利屋の兄弟が、この子を連れて来る事も。

「・・・・・あの、みかさやさん・・・・ これで・・・ よかったの?」
「坊や、ありがとう。 上手にお芝居できてたよ? さあ、これからはここが新しい君のお家だ。」
「なんて・・・・・・ ああ、あなた・・・・ あの子が生き返ったよう・・・・・ うぅぅう・・・・。」
「・・・・くっ! ・・・・・よかった・・・・ うん、よかった。 皆、新しい君の家族だからね?」
「わーーーいっ! ぼくのおうち! ぼくの・・・ かぞく!!」

この子は亡くなった息子さんに似ている様だ。 この前三笠屋からいなくなってしまった子にも瓜二つ。
どうやってこんなそっくりな子を見つけて来たのか。 そんなことは、私達が詮索しなくてよい事だ。
旦那様と奥様は、もう何も隠さずにすむ。 いつでも思い出して泣いていい。 思い出を娘に聞かせても。
皆でたくさんの思い出を語れる。 泣き、笑い、喜び、慈しむ。 沈黙や我慢など、もうしなくてもよい。

二度と間違えはしない。 この子の為を思うなら、私達が勝手にこの子の生き方を決めてはいけない。
この子が何かしらの決断を自分で下した時、それを尊重しサポートする、そして共にその道を歩むのだ。
旦那様も奥様も、お嬢様も私も。 ありったけの愛情を注ぎ、この子のこれからを支えて行くと誓った。
三笠屋にやって来た小さな家族。 私達が出来る唯一の償いは、ただこの子の望む本当の幸せの為に。







「何度お礼を申しあげても足りません。 もしも来てくれたのがあなた方でなかったら・・・・・」
「・・・・・・おれ達は忍びですよ、尾嶋さん。 お礼はあまり言わない方が良い。」
「でも私共の気持ちが・・・・・ 旦那様も依頼料は望みのままに、と・・・・・・」
「いえ、そういう意味じゃありません。 もちろん、依頼料もこれ以上頂けませんが。 ね、シキ兄?」

「もし夢の国へ売られた子供でなかったら。 普通の子を攫って誰かから奪って来ていたら。
 あの子に何があったかを知った肉親が、木の葉隠れに先に報復の暗殺依頼に来たとしたら。
 子を殺したお嬢様だけでなく、三笠屋を跡形もなく潰して欲しいと依頼人が希望したなら。
 おれ達 木の葉隠れの忍びは、先に来た依頼を優先したでしょう。 その時はあなたも殺します。」

「だから・・・・・ お礼は・・・ あまり言わないでいい、と・・・・?」
「はい。 忍びの里ですから。 そういうことです。」
「明日は我が身、胆に銘じます。 ですがやはり、お約束通りご尽力下された事に、心よりの感謝を。」

「あー じゃぁ・・・・ 番頭さん、おれ達が里の忍びである事は、ぜひ内緒でひとつ・・・・」
「ふふふ、いつもニコニコ現金払い! 便利屋しきちゃんを、これからも御贔屓に!」
「はい。 口が堅くてどんな事でも引き受けてくれる・・・・ 町の頼りになる便利屋さんですから。」

それでも感謝せずにはいられない。 あの混沌とした時代を、ここまで安定した世にしてくれた忍びの里に。
忍びは金の為なら何でもする、などと無責任な言葉を誰が広めた? 我が国の忍びの里を心から誇りに思う。