生駒城の家守 1
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・・・・・なんと。 殿にお仕えして30年もなろうかというのに。 気付けなかったのか・・・・。
あんなに可愛らしい方が殿のお傍にいらっしゃるとは、このモンザ。 一生の不覚にございますぞ。
情けなくも嬉しいやら。 これでようやく腰を据えて、お世継ぎ作りに励まれるというもの。
ようやく・・・・ ようやく身を固められる決心をされた、うぅぅ・・・・ 思い起こせば・・・・
大戦中は、木の葉隠れが戦っている時、己の血の事などに構っていられるか! と家臣を恫喝。
木の葉に九尾が襲来した時も、火の国の要が大変なこの時に、女など抱いていられるか! と。
「ふむ、そうだな・・・・ 我らが殿が、よもや他里のクノイチに誘惑されるとは思わぬが・・・・」
「でもあの感じは、どうみてもどこかの村娘。 殿と一緒にいて純粋に楽しんでる感じだった・・・・」
「いかな素性の者であっても、殿の奥方として迎える気持ちは変わりません。 そうでしょう?」
我らは皆、そんな殿の気概に惚れ込み、木の葉との連携は欠かさず、民の保護や情報収集に努めてきた。
国主から預かっている山々にある、どんな小さな集落の異変も見逃さず、報告、対処をしてきた。
そんな自慢の殿が自らお選びになったであろうお方に、我ら家臣が反対する理由などあろうはずがない。
いやしかし一応念の為。 我らの殿は火の国でも指折りの大名家。 あのお方の素性はお調べせねば。
「では家臣を代表して、私が木の葉隠れに調査を依頼してくるとしよう。 それで宜しいかな?」
「「「異議なし!」」」
「ふむ! 火影殿も、我が殿の遅咲きの春の知らせを、喜んで下さるぞ、きっと。」
「「「ははは! では火影殿に宜しくお伝え下さい!!」」」
おお、ここが木の葉隠れの里か。 初めて来たが、あの九尾が襲来してよくここまで復興したものだ。
九尾は尾獣の中でも最強最悪を誇り、当時里は壊滅状態だったと聞く。 今更ながら、驚かされる。
今は里も国内も平和そのもの。 忍びの者の力というのは、かくも強い団結力なのか、全く頼もしい。
ふむ。 先ほど門番に言われた通り里の中央、任務受付所にやってきた。 ここで話せばよいのだな?
「ここで木の葉隠れの忍びを、個人的に雇えると聞いたのだが。」
「ようこそ、木の葉隠れの里へ! 子守りから暗殺まで、なんなりとお申し付け下さい。」
私は生駒〈いこま〉様にお仕えする者にございます。 ご存知の通り生駒様には、正妻がおられません。
雷の国の国境を含む山々を治めておいでの大名 生駒様は、国主 時宗様の信頼も厚いお方のお一人。
国内のみに留まらず、他国からも縁談の話があるのですが、本人は身を固める気などないご様子で。
ですが。 やっとこの度、生駒様にも遅咲きの春がまいりました。 大変喜ばしい事なのですが・・・・
「わわわ! お待ち下さい! 大名 生駒様の家臣の方ですか?!」
「いかにも。 幼少の頃よりお仕えし私は、工藤モンザと申す者だ。」
「いや、あの・・・ モンザ様・・・・ 本日はお一人・・・・ で?」
「忍びには遠く及びませんが、腕には多少の自信がありますぞ。 ははは!」
「・・・・・・・・えっと・・・・ 火影室にご案内しますね? どうぞ、こちらに・・・・・」
「これは気を遣わせて申し訳ない。 だが、火影殿の手を煩わせるほどの依頼では・・・・・」
「そう言う問題ではありません。 ここは一般人も来る受付所・・・ 注目の的ですよ、モンザ様? 」
「・・・・・・・・ふむ。 これはちと、舞い上がり過ぎたか。 ・・・・すまん。」
みれば、確かに周りの人間の注目を集めていたようだ。 生駒様を知らぬ火の国の民はいないだろう。
その家臣の依頼内容とはいかがなものかと、耳をそばだてておる輩があちこちにいるではないか・・・・。
もし事が生駒様のお耳に入れば、“私の選んだ女を信用していないのか・・・” と思われてしまう。
そんな事は断じてない。 我らはあくまでも殿の身の安全を保証する為に、確認を取りたいだけなのだ。
この目の前の忍びは、顔の真ん中に刀傷があるというのに、随分と愛嬌がある。 応対も丁寧でよろしい。
ふむ、ニコニコと人懐っこそうではあるが、木の葉の額当てをしっかりと頭に巻いている所を見ると・・・
城に滞在にくる忍び達とあまりにも違うが。 木の葉隠れの里は我が国の要、この青年も忍びなのだな。
「そなた、名はなんと申す?」
「はい。 階級は中忍、うみのイルカです。」
「そうか。 ではうみの中忍、まいろうか。」
「・・・・・・まいろうか、って・・・・・ ぷっ! ふふ、モンザ様がついて来て下さい、くすくす!」
「おお、そうだった。 いつも木の葉の忍びを城内に案内しているものでな、つい・・・・・ ははは!」
「くすくす! お知らせ下されば、こちらからお伺いしましたものを・・・・。」
「その・・・・・ 殿には内緒で来たのだ、家臣の代表として。」
「かしこまりました。 今回はモンザ様の隠密行動なのですね?」
「ふむ。 そう思って頂けるとありがたい。」
ついいつもの調子で先導してしまったが。 ここは城ではない、木の葉隠れの里であった。
思いのほか、年甲斐もなくウキウキとしていたのだな・・・・・ 殿の教育係の私ともあろう者が。
数年前、日向の幼女が誘拐されかかったが、あの時以来だ。 あの時、影同士の密約が生駒城で交された。
雷影殿と火影殿の対談の場を設けたのだ。 果たして火影殿は、殿の側にいた私を覚えておいでだろうか。