生駒城の家守 16
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血相を変えて自分の部屋に戻ってきたうみの中忍と同時に、よく知ってる気配も。 パックンだった。
さすがパックン、早いネ? ありがと。 書簡配達お疲れ様! これでコッチはすぐにでも動けるネ。
それより、うみの中忍の様子がただ事じゃない・・・・・・・ ナンかあったんだネ? 任務は?
まさかと思うけどダルイ上忍に襲われた? でもそういうんじゃないよネ、これは・・・ 絶望?
「俺の任務は失敗です・・・・・ 紫様のお相手の素性を調べる必要がなくなりました・・・・・」
「「どういう・・・・・」」
「多分、彼女は・・・・・ もう彼女は死んでるかもしれないっ!!」
「「・・・・なっ!?」」
うみの中忍が術紙を追って行くと、なぜか城の一角、奥処へ。 側室達の衣装部屋だったらしい。
その衣装部屋の中でうみの中忍が発見したのが、紫様のお相手が身につけていた帯、なんだそうだ。
元々、変化術紙はその帯の柄の様に擬態させて貼り付けていた、自分の手で回収しない限りそのまま。
現に、雀に擬態させて呼び戻した術紙は、目の前でまた帯の柄に戻った、間違いなく彼女の帯だ、と。
紫様は正室を持たない大名で有名。 皆いつかは自分がと、その座を夢見て側室として入城した女達だ。
側近のモンザ様達が知った様に、側室の誰かが紫様の特別を感じるような彼女の存在を知ったとしたら?
奥処の煌びやかな衣装部屋に、ひっそりと隠すようにしまわれていた帯。 考えられるのはただ一つ。
「どこの馬の骨とも分からない小娘に、正妻の座を奪われてたまるか、ってヤツ?」
「俺がモタついてたからだ・・・・・・ くそっ! つきとめます、誰の仕業か。 いいですよね?」
「ストップ、カカシ先輩、うみの中忍。 ・・・・・ソッチの話の方が上出来だったかも知れませんよ?」
「「????」」
そう言って、テンゾウがパックンから預かった書簡を指差した。 ナニ、ソレとコレ繋がってるの?!
チョット、それこそどういうコトなのヨ。 んーと、妖の名はカブリ。 カブリとは“被り”のコト。
人の姿に化ける妖の総称。 ナニかのはずみで高位の妖気を浴びた長寿の生き物が、突然変異する妖。
カブリの人に紛れる方法は様々。 千差万別、体を乗っ取るヤツもいるし、皮だけ剥ぐヤツもいる。
そうか、あの胎盤と羊水は文字通り、産まれる為のモノだったんだ。 妖がそこから出て人の姿になる。
本来なら自然に土に返るはずのモノは、日を置かず毎日捜索していた雲忍によって発見、回収された。
そしてウチの里の情報分析部で解析され、妖がカブリだと判明。 さらにその種類まで特定してた。
このカブリの正体はヤモリ。 九尾が里を襲った時、あふれ出た妖気がわずかにこの城まで届いた。
妖孤 尾獣九尾の・・・・ ほんの少しの妖気だけで、棲みついていたヤモリが突然変異したのか。
だったらその帯の持ち主の娘は殺されてはいない。 帯が隠すようにしまわれていたというコトは・・・
「その帯の持ち主こそ、突然変異した妖だネ。 人の姿をとったのには理由があるんだヨ。」
「あの可愛らしい女性が・・・・ ヤモリの妖?! でも紫様を見つめるあの目は・・・・」
「考えたくはありませんが、紫様に懐いてる。 なるほど、被害が雷の国だけだったのは・・・・」
「紫様の治める土地からは命を奪えないから? はぁ、モンザ様に俺、どう伝えれば・・・・・」
大丈夫だヨ、ココ見て? 最後に三代目からの指示が書いてあるでショ? ホラ、丸薬も。 ネ?
フフ、少し配役が変わっただけじゃない。 オレ達が計画してた策にオプションがついたダケ。
モンザ様には、本当のコトを話しておいた方がよさそうだネ。 ガッカリさせてしまうだろうケド。
うみの中忍の任務は紫様のお相手の素性をつきとめ“必要があれば過去をねつ造するコト”・・・違う?
「ええ、そうです、そうでしたっ! よーし、一丁潜入員らしいとこをお見せしますか!」
「・・・・・・・ぷっ! さっきまであんな悲壮な顔してたのに・・・・」
「だって、俺、今回・・・ 揚げパン作ってただけじゃないですか、これじゃ!」
「アハハ! ウン、うみの中忍にかかってるから。 上手くやってネ?」
「はい! 任せてくださいっ!」
筋書きはいたってシンプル。 国境付近に潜伏して雷の民を殺戮していたのは、人の姿を真似る妖だった。
精気を吸った相手に変化する妖。 国境を越えて火の国に入り、事もあろうに紫様のお相手を食った。
次に餌食になったのが城に預けられていた青年、猿飛イルカ君。 妖の今の姿はイルカ君の姿だ。
何くわぬ顔をして城に戻ってきたイルカ君の姿を真似た妖は、討伐協力に来たオレ達に狩られる、ってワケ。
ン? 精気を吸った相手と寸分変わらぬ気配に変化する妖を、どうしてイルカ君じゃないと判断するか?
ソレはオレ達じゃないヨ? 優秀な雲の忍びがいるじゃないの、確実に本人じゃないと判断出来る人間がネ。
そう、おそらく今夜ココに夜這に来るダルイ上忍が、イルカ君本人じゃないとすぐに気付くカラ。
で、本物の妖は今からオレ達が始末する。 丸薬で分離させてからネ。 コッチは結構、責任重大。
書簡と一緒にパックンが里から持ってきたのは、分離丸薬。 文字通り異なる性質を分離させる丸薬だ。
異なる性質とはつまり、この場合は本来のヤモリと九尾の妖気を引き剥がす。 で、妖気だけを狩る。
ま、色々面倒でも、イルカ君に惚れた雲忍の為と紫様やモンザ様の為だから、仕方なーいヨ。
ヤモリは家守と言われてる。 家を守る縁起のイイ生き物として、古くから民が大切にしているんだヨ。
だから九尾の妖気で変異してしまっただけの哀れなヤモリに、寿命を全うさせてやるんだって。
モンザ様も、紫様がヤモリの妖に好かれていたと知ったら、複雑だけ少しは嬉しいんじゃないかな?