生駒城の家守 17
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今頃うみの中忍は、モンザ様の所へ行って、紫様のお相手の素性調査の報告をしていると思うよ。
実はこの城にいるヤモリが妖になりました、紫様が好かれてしまっているので、妖気を封じます。
紫様には、彼女は雷の国から迷い込んで来た妖に食われてしまった、という事にしますので協力を、と。
必要あれば身分をねつ造する、とまで言っていたモンザ様も、その相手が人外のモノなら話は別だろう。
雲忍に渡す九尾の妖気のなれの果てを“精気を吸い取った相手の気配そっくりに化ける妖”と説明する。
妖気で出来た死骸らしきものを持ち帰り、雲隠れの三人は面目躍如だ。 紫様は落ち込むだろうけど。
大丈夫、あれだけ立派な奥処があり側室も大勢いる。 否が応でも子作りに励んで忘れる日がくるよ。
一番可哀想なのはダルイさんだ。 ボク達忍びが本気で欲しいと思える相手は、そうそういない。
ごめんね、せっかく見つけたのに。 この展開で、雲の三人だけには本当の事を教える事も出来る。
でもそうすると間違いなくダルイさんが動く。 イルカ君が忍びだと知ったら木の葉に通ってくるよ。
あの三人は信用できても、雲忍全員が信用出来るとは限らない。 ウチにも腐った奴がわんさかいるし。
両国の忍びがしっかり手を取り合う日が、いつか来るだろうけど。 それはまだ今じゃない、これからだ。
それに。 他里の忍びでも関係ない、先に見つけたんですよね、なんて。 そこまで人間出来ちゃいない。
あれはボク達のだ。 もしどこかで会って気付いたら、まあ・・・ 一発ずつ殴られてやってもいいかな?
うみの中忍は言った。 黒眼が大きくて、首をかしげる仕草がお人形さんみたいに可愛らしい女性だと。
ボク達は奥処の衣装部屋で待機中。 ここで、あの帯を締めに来る彼女を待っていればいいだけ。
「君がそうだね? この城に長く棲んでいたヤモリ。」
「?! な・・・・ んで・・・・ ??」
「どうして人の姿をとろうと思ったのかは、想像できるケド。 人の精気を吸っちゃいけないヨ?」
「アタシは、紫様の大切にしている火の国の人の精気は吸ってないっ!」
「そこいらヘンが 妖だネ。 どの国の民であっても、人の命を奪って得た姿を紫様が喜ぶとでも?」
「だって・・・・ だって皆が・・・・ アタシにお礼を言うのっ!」
「お礼? ・・・・・ああ、そうか。 君は・・・・ 家守は家の守り神だから・・・・」
「アタシ、何かしてあげたいって・・・・・ そうしたら紫様の正妻がいないのが問題だ、って・・・・」
そうだったのか。 このヤモリは・・・・ 単に紫様を好いているだけじゃなくて、城の皆が好きなんだ。
なまじっか強い妖気を浴びて妖力がついたヤモリ、少しずつ人の会話も理解できるようになったんだね。
そして感情らしきものも芽生えて・・・・ だからって、雷の国の民なら殺して良い事にはならないよ。
きっとどこかで学んだんだ、人の姿をどうしたら得られるか。 そしてどうしたらその姿を保てるか。
紫様の好みを感じ取って実行。 そして、紫様が治めているこの地以外の場所からなら関係ない、と。
そこの人の精気を吸い、あまった骨と皮は捨て、吸った精気が底を尽きたらまた新たに補充する・・・・
そうやって、雷の国で殺戮を繰り返していたんだ・・・・ 紫様の理想の女性の姿を保つために。
この地方の人達は、ヤモリを家守と書き大切にする。 “城を守ってくれてありがとう”と、城の皆が。
きっといつも感謝されて嬉しかっただろう。 城の皆が一番喜ぶ事をしてあげよう、そう思ったのか。
城主 生駒 紫様に正妻を、それが皆の願いなら、生駒様の望む姿になって正妻になってあげようと・・・・
ひょっとして三代目は、妖の正体が城のヤモリのカブリだと判明したから、分離薬を用意したのかも。
そんな間違った気遣いでも、皆の為に行動した妖に、少しだけ情けをかけてやったのかもしれない。
本来尾獣は五大国のそれぞれの里で、忍びを器として与え人柱力と呼び、管理する事になっている。
だからわずかでも九尾の妖気で妖に変異したなら。 それは木の葉の責任において始末しなければ、って。
「本来なら君を一も二もなく始末してもいいんだけど、火影様はそうせずにこれを寄越したんだ。」
「・・・・それは?」
「分離薬といって、お前の中から分離させた妖気を実体化させる薬、だヨ。」
「・・・・紫様や、城の皆は・・・・ アタシが雷の国の人の精気を吸ったから、嫌いになったのかな。」
「違うヨ。 また城の皆に感謝される、昔のお前に戻るだけだから。」
「ほんと? でもそれを飲んだら・・・・ もう紫様には会えないんでしょう?」
「それも違う。 この城に居ていいんだから、好きなだけ会えるよ。」
「・・・・よかった。 じゃぁ飲む。 ずっと城にいて紫様や皆に会えるなら。」
「お前は・・・・ 皆の為にそうしたケド。 本当に好きだったんだネ。」
「うん。 アタシ・・・・・ 紫様が好き。 一番好き。」
「それって “愛する” という感情だよ。 人の感情で一番大切な心。」
「・・・・・・へへ。 そうなんだ。」
感情を理解しかけていた妖は、他国でも殺戮は良くない事かもしれない、と思い始めていたんだろう。
昼間見つけた新しい死体は、地中に埋ってたから。 少し淋しそうに笑った妖は、自ら分離薬を飲んだ。
みるみる妖の姿が縮んで、小さな・・・・ とても小さなヤモリに変わった。 これが本来の姿だね?
ふふ。 チョロッ、チョロチョロッ、とヤモリ独特のコミカルな動きで、衣装部屋の柱を登って消えた。
そして少しずつ淀んだ空気が集まって、ブツブツとした気泡が何かを形成する。 妖気の実体化現象だ。
・・・・初代様の術式はないけれど。 ほんのわずかな尾獣の妖気なら、今のボクでも抑えられる。
「テンゾウ! 完全実体化する前に拘束しろっ! 今だっ!」
「・・・・・・木遁っ! 大樹林の術っっ!! 捕まえましたっっ!!」
「ヨシ、そのまま抑えてろっ! ヤツに雷遁を流すっ! 流駆〈りゅうか〉千鳥っっ!!」
「・・・・・・ふぅ! なんとか狐の形にになる前に、始末出来ましたね。」
見ようと思えば狐に見えなくもありませんが、コヨーテの様な感じです・・・・ あ、それでいきますか。
このカブリの正体はコヨーテ。 雷の国のコヨーテが突然変異して妖のカブリになった。 うん、上出来!
封印の巻物に入れて・・・・ と! よし、こでれ雲忍への手土産は出来ましたね。 これから後は余興だ。