生駒城の家守 13   @AB CDE FGH IJK MNO PQR SMN




あの夜、変化術紙を帯の柄に擬態させてくっつけた彼女の気配を追うつもりが、結局追えなかった。
雲の三人が俺の話を聞きたがって、ねつ造話をまたもや披露。 持って行った揚げパンを食いながら。
そして、まさかのまさかだ。 揚げパンを平らげた上、明日も食べたいとは。 雲の上忍達が、だぞ?

困り顔だったダルイさんが、少し考えてからこう言った。 そうだ、材料はおれ達が買ってくるよ、と。
いや、そういう問題じゃないし。 そもそもそんな簡単に食いモノ口にしていいんですか、上忍が。
・・・・・とか。 本当ならツッコミどころ満載の場面で“わ! 大助かりだ!”って、喜んじゃう俺。

だって揚げパンはモンザ様の大好物。 それを感謝の気持ちで差し入れしてる坊っちゃんなら、喜ぶだろ?
ダルイさんだけじゃなくて、あとの二人も凄くいい人達だった。 う〜ん、これは計算外だよ・・・・・。
何度も雲忍に関わる事になるなんて・・・・ 紫様のお相手を追跡して素性を調べるどころの話じゃない。

信用出来る忍び達だって分かったから、潜入員の俺を始末するなんて事にはならないと思うけど・・・・
木の葉の中忍です、とは言えない。 俺の存在は紫様には内緒で、その私生活に踏み込むモノだから。


最初、台所を借りてモンザ様への揚げパンを作った時は、こんな事になるとは夢にも思わなかった。
なかなか逢引してくれない紫様に、業を煮やしていたモンザ様を、リラックスさせようとしたんだよね。
自炊してるから料理はソコソコ出来るんだ、俺。 暇を持て余してたし、モンザ様の好物を聞き出した。

一口サイズの揚げパンは俺のアイデア。 片手でパクつける物は、修行しながら食べられる。 だから。
試食した台所番の皆に“城のお菓子の定番にします!”って言われて、調子に乗っちゃったんだよな。
きな粉や砂糖の品ぞろえが豊富な店が城下にある、城からも買いに行くんですよ、なんて言われたら・・・・
どんな種類があるのか確かめたくなるし、モンザ様にもっと喜んでもらいたい、ってなるだろ?





仕方ない、雲忍が任務を完了させて雷の国に帰ってくれるまで・・・・ 大人しくしてるしかないか。
変化術紙はつけといたしな、時間かかるけど。 三人が帰国したら、呼び戻して彼女の元に案内させよう。
・・・・・とか。 悠長に構えている場合じゃなくなった。 ダルイ上忍がご乱心だ。 俺、ピンチ。
ダルイ上忍が、なんと俺にアプローチをして来た。 あの人、意外に手が早いんだな、マジ、吃驚した。




『その・・・・ 仲間がイルカ君の人の好さにつけ込んで、スミマセン。』
『何言ってるんですか。 モンザ様に作る揚げパンの材料まで貢いで貰ってるんですよ? ふふ!』
『・・・・・それを揚げるのか? テロン、としてるヤツ・・・・』
『ええ、生地は丸めて冷蔵庫に寝かせてあるんです。 揚げてきな粉砂糖をまぶすだけ、なんです。』

『だからすぐに出来ます、お部屋で待ってて下さいね? あ・・・ お帰りなさい、お疲れ様でした。』
『・・・・・・ああ。 うん。 ・・・・・・ただいま。 ・・・・戻るのだるいんで。 待ってるよ。』
『そんな事言うと・・・・ 手伝ってもらいますよ? ハイ、コレ。』

『きな粉と・・・・ 砂糖?? これ、混ぜればいいのか? あ。 昨日買った緑色のきな粉だ。』
『ふふふ、大正解です! ずんだきな粉だそうですよ? 有り難うございました。』
『イルカ君・・・・・・ そうやって揚げ物してても違和感ないな。 坊っちゃんなのに。』

『あれ? 言ってませんでしたっけ?? 俺んち、老舗の焼き菓子屋なんですよ。 ふふふ!』
『焼き菓子屋の跡取り息子か・・・・ なあ・・・・ いや、なんでもない。』
『はい、コロコロ転がしてまぶして下さいね? ふふ、そうです! そんな感じ!!』

『どれどれ・・・・ アイツらより先に味見してやるぞ、モグッ! ・・・・・うん、美味いっ!』
『くすくす! そうやってると、とても有名な忍びには見えませんね、ダルイさん? ふふふ!』
『・・・・・・・・・イルカ君は、おれがちゃんと他国の忍びだと認識した方がいい。』
『? 認識してますよ? 雲隠れの里の上忍で、隊長で、紫様のお客・・・・・ ?!』

『イルカ君。 ・・・・・きな粉が飛んでる。 ・・・・・・・ここも。 ・・・・ここにも。』
『?!?! ぁ・・・・・・ あの・・・・ その・・・・ ぅ・・・・ あのっ!!』
『・・・・・ご馳走様。 美味しかった、特に・・・・・・ ここのきな粉が。』

『・・・・・・じゃぁ、アイツらに持って行ってやるとするか。』
『ダ・・・・・ ダルイさんの・・・・ す、すけべっ!!』
『スケベ?! あはははは!! ・・・・・イルカ君、また明日。 くくくっ!』



あのな? ほんと普通だったんだ、パンを揚げてきな粉砂糖をまぶすまで。 そんな気配は微塵も。
きな粉がついてるだぁ?! 当たり前だろ、まぶしてたんだから! なのに、俺の指を突然舐めたんだ。
いわゆる性的な雰囲気を滲ませて。 だんだんその舌と唇が、指から手の甲、手のひらから腕の内側へ。

いいとこの坊っちゃんならどんな反応をすれば・・・・と、なけなしの知恵をフル回転で絞ったんだぞ?!
最後には俺の・・・・ 俺の鼻傷を・・・・ ぺロリ、って・・・・・ ついてねーだろ、そんな所っ!
特に美味しかったと言って、軽くキスしやがったっ! くそ、タラシの上忍めっ!! ムキィーーーッ!!

三代目ーーーっ! ダルイ上忍はめちゃめちゃ優秀ですが、もの凄いタラシですっ!! どうしょう?!
・・・これって・・・・・・ まじでマズイよな? 俺、雲隠れに違う意味で拉致られちゃうかもっ!!