生駒城の家守 8   @AB CDE FHI JKL MNO PQR S




「此度の事は、木の葉隠れの火影より聞き及んでいる。 調査中はこの城に滞在するがよかろう。」
「「「ありがとうございます。」」」

「モンザ、猿飛を呼べ。 他里の忍びに会えるなど、めったにない経験だぞ?」
「はい。 では呼んでまいります。 失礼。」
「「「・・・・・・・???」」」

「私の城に預かっているモンザの恩人のご子息なのだ。 どうも、見聞を広げよ、という事らしい。」
「「「はあ。」」」
「期待に応えようと一生懸命でな。 ついつい、こういう場を与えたくなるのだ。」
「「「・・・・・・・・・。」」」





火の国の大名 生駒 紫様。 お忙しい方だとは知っていたけど。 まだお相手を見つけられずにいる。
逢引する現場を見つける事から始めなくちゃならないのに、一つ所にじっとしていない方なんだ・・・・
ふう! 今日で城に滞在して三日目、紫様、勤勉過ぎです・・・・。 逢引の“あ”の字もないよ。


紫様の一言で、跡取りとしての自覚を持つ事が出来た青年は、両親の期待に応えるべく日々、勉強中。
只今、揚げパン作りにハマっている。 これは全部、今の俺の事。 猿飛イルカ青年の城での姿だ。
ちなみに、きな粉砂糖をまぶした揚げパンは、モンザ様の大好物。 お世話になってるお礼に、って。
台所を借りて作ってみたら、もの凄く喜ばれた。 だから馬鹿の一つ覚えの様に、今日も作ってるんだ。

そのモンザ様が俺を呼びに来た。 なんでも国境付近の調査の為に、雲隠れの忍びが来ているらしい。
木の葉には許可をとってあり、三代目の勧めで、生駒城の一角を貸し与える事になったんだって。
そこで、またとない機会だからと、紫様が俺を雲隠れの忍びに紹介するという。 ・・・・・マジ?!


雲が何を調査するのかは不明、けど三代目がこの城の滞在を勧めたという事は、信用出来る者達ですね。
もしも怪しげな連中なら、紫様のお傍に近付けさせやしませんから。 きっと優秀な忍び達なんですよ。
モンザ様、慌てなくてもいいです。 俺、中忍として滞在している訳じゃないし。 ええ、このままで。
“脱甘ったれ坊っちゃん”っぽく自己紹介します。 ふふふ、大丈夫です、潜入員なんですよ、俺は。

「うみの中忍・・・・・ 木の葉の忍びだと言ってしまった方が、動きやすいのではないか?」
「それでは俺がモンザ様始め、家臣の方々の信用を無くしてしまいます。 良くある事ですから。」
「・・・・そうか、潜入員は・・・・ 他里の忍びと現場で一緒になる事が多いのですな・・・・。」
「ふふ、木の葉の同胞とも会う事がありますよ? でもお互い、そこは干渉ナシ、の方向です。」

そう、これは現場での決まり事。 潜入中の潜入員と接触するのなら、忍びとして接触するのはタブー。
里からの繋ぎは、たいがいが変装した忍びだし。 毎回違う合言葉を決めて来るからね、ハズレはない。
忍びの姿で接触しても不自然じゃない状況ならOK。 それもこれも、潜入員の身の安全の為だから。

里の潜入員が、少しでも木の葉の忍びだと疑われるような真似はしちゃいけないんだ。 でもまあ・・・・
今回の俺の任務には、里からの繋ぎは必要ないから、接触してくる忍びは皆無だ。 だって内緒だし?
紫様に知られずに、お相手の素性を調べて、必要があれば身分をねつ造する事・・・・ なんだから。

俺が別件で城に滞在してる木の葉の忍びです、って正直に紫様へ打ち明ければ、確かに動きやすいけど。
モンザ様が隠密で木の葉を訪ねた事、家臣達が紫様の為を思って不安材料を取り除きたがってる事。
そのどれもが、家臣の主君を思うが為の行動。 それに依頼主の正体を明かすだなんて、里の信用問題だ。


「“ああ、こんな客人もこの城にいるんだ”ぐらいで。 下手に避けない方が良いんです。」
「ふむ。 そういうものか・・・・ おお、そうだった! 今夜、殿のご予定が空きますぞ?」
「それは嬉しい情報です。 きっと時間を作って会われるでしょう・・・ よし、後をつけるぞー!」
「ははは。 頼みましたぞ、うみの中忍。  ・・・・では猿飛イルカ君、まいろうか。」

「ふふふ! 今度はちゃんと案内されますよ、モンザ様?」
「ははは、そう言えば里を訪ねた時、こんなやり取りをした様な・・・・」
「あの時はウケちゃいましたよ! 私についてこい的な、あの態度! あははは!」
「いやはや・・・・ まいりましたな・・・・・。 いざ、雲隠れの前に・・・・ 出ますぞ?」

「はい! 俺、他国の忍びに会えるなんて楽しみですモンザ様!」
「ふむ! 他国の忍びだが、我が国の火影殿が滞在を容認した者達だぞ?」
「ふふふ!」
「ははは!」



モンザ様の気持ちも分からないでもない。 俺が内密に行動してて、もし相手に忍びだとバレたら・・・・
きっと俺は拉致られる。 城で身分を偽っているという事は、適当に理由をでっち上げて排除出来るから。
下手したらその場で殺される。 この場合は、木の葉の忍びだとは思わなかった、と言えば済む。
少し前までの雲ならそうだったかも知れない。 でも今から会う忍びは違うと、三代目が判断されたんだ。