生駒城の家守 2
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確かにあの時、火影室に案内したのは俺だけど。 正直、吃驚! 俺が潜る任務は大抵が市井。
だってあの生駒城に行くんだ。 肇 ユウダイ様と並ぶと称される人物、生駒 紫〈ユカリ〉様の居城。
道中、モンザ様は本当に嬉しそうで。 噂通りの人物である事が、近しい家臣のこの態度で分かる。
己が主君の婚儀を喜ぶ家臣、以外の何者でもない。 まあ、その為の身辺調査のご依頼なんだけど。
「俺は・・・・ その娘の素性と、血縁者を調べればいいんですね?」
「ふむ。 本当はすぐにでもあの娘を城に呼びたいのだが。 どうしても殿のお立場があるゆえ。」
「そうですよね。 身分のある方は何かと大変ですもんね。」
「・・・・恥ずかしながら、殿の失脚を狙う輩がいないとも言い切れませんからな。」
そうだろうな・・・・。 国主 時宗様の信頼厚い生駒様。 その立場を欲する大名家は多いだろうと思う。
血縁関係を結びお近づきになりたいと思っていても、国内どころか他国からの縁談も全て破談にしている。
生駒様は火の国の中で唯一、正妻を娶っていない大名の当主。 国主 時宗様も頭痛の種だという話だ。
まあ、いざとなったら・・・・ ウチの里が動いて、紫様の遺伝子だけは確保する。 最終手段だけどね。
当主の居城には本来、奥処〈おくどころ〉 と呼ばれる一角があるんだ。 城主の側室達の為の生活の場。
けれど側室は正室がいてこその立場。 生駒城には正室がいないのに、奥処の側室が充実しているとか。
これは紫様が望まれた事でなく、いつまでも正室を迎えない城主を心配して、家臣達が作ったそうだ。
側室でもいいと入城を希望した諸大名の息女達や、花街の廓から格式の高い遊女を身請けしたらしい。
受け皿を作っておけば少し安心・・・・ といったところかな? モンザ様達の苦労が目に浮かぶようだ。
大名自ら花街に出かけたら必ず護衛がつく。 そうまでして遊ぶぐらいなら奥処で、という事だろう。
ひょっとしたら奥処で気に入った誰かを、正室に迎えるかもしれないし? まあ、苦肉の策だろうね。
「私どもが気を揉まなくても、ちゃんと殿にはお気に召した方がいたのだな・・・・ ははは!」
「くすくす・・・ モンザ様、本当に嬉しそう。 生駒様が・・・・ 紫様が大好きなんですね?」
「・・・・身分など。 いかようにでも木の葉が細工してくれるであろう?」
「ええ。 良家の娘の経歴、さる大名の隠し子、いかようにでも。 ご安心ください、ふふ!」
そう。 身辺調査で、例え辺鄙な村の娘だと判明しても・・・・・ って、これはモンザ様の見解だけど。
どう見ても身分のある娘には見えなかった、という事だから。 それでも殿の為にその娘を・・・・ か。
普通、正室と言ったら政略結婚に決まってる。 家臣の誰もが、殿の選んだ方を正室に迎えたいんだね。
こういう家臣達を束ねている当主、まだ一度もお会いした事はないけど・・・・ もの凄く好感が持てる。
・・・・だからこそだ。 国主 時宗様が、わざわざ雷の国との国境を監視する場所に配置したのは。
そういう人物が国境側の監視をしていたから、雷の国からのチョッカイを何度も防げたんだ・・・・。
人柱力の誘拐未遂、日向家の幼女誘拐未遂など。 過去、度々問題を起こす雲隠れに対し、未遂で済んだ。
「では俺はモンザ様の恩人の息子、って事で。 よろしくです!」
「心得た。 恩人の外出中にしばらく私が預かる事になった、猿飛イルカ君・・・・・ だな?」
「はい! へへへ! 三代目が猿飛と名乗れ、って言ってくれたんですよ!」
「しかし驚いたな・・・・ うみの中忍が、潜入専門の忍びだったとは。 さすが木の葉隠れだ。」
「俺もモンザ様と同じです。 三代目が・・・・ 火影様が大好きです。 俺達、忍びの父ですから!」
「なんと子沢山な父君であろうか・・・・ ならばお家は安泰。 いやはや、全く羨ましい話ですな。」
「「ぷっ!! あはははは!!!」」
「お初にお目にかかります。 猿飛イルカと言います。」
「聞いておる。 昔そなたのご両親には、モンザが大変世話になったそうだな?」
「この年で一人で留守番も任せてはもらえないなどと、お恥ずかしい話ですが・・・・」
「いやいや、そうではないぞ? そなたのご両親は息子に外の世界を見せたかったのだ。」
「・・・・外の・・・・ 世界を??」
「モンザに託し、国境近くからこの火の国を眺めてこい、そう送り出してくれたのだぞ?」
「・・・・・それは・・・・ 考えも及びませんでした・・・・ ははは、なんだか照れくさいですね。」
「私の城下で何をどう学ぶかは、そなた次第だ。 モンザはいかな疑問にも答えてくれるだろう。」
「モンザの恩人であれば、私にとっても恩人。 猿飛、そちの気のすむまで滞在するがよかろう。」
「生駒様・・・・。 身に余るお言葉、ありがたく頂戴いたします。」
俺は、頼りないから心配でモンザ様に預けられた青年・・・・ から、両親に信頼されている青年へ浮上。
まあ、立場はなんでもいいんだけど。 実際そういう青年がこう言われたら、きっと感動するよね?
なんて人心を掴むのが上手な人だろう。 改めて思った。 この城主にしてあの家臣あり、なんだな・・・・
三代目、仰った通りですね。 生駒 紫様は、火の国にとってなくてはならない人物、俺もそう思いますよ。