生駒城の家守 15   @AB CDE FGH IJK LMO PQR S




打てば響くのに鈍い潜入員は、やっとボク達の眼の奥に色を見つけたらしく、慌てて着物を着直した。
いい判断だね。 実を言うと、本当に半分本気だったんだよ? ちょっとだけ残念に思ったりした。
だって雲忍に“やっぱり木の葉でも暗部はこうか”なんて思われるぐらい、どうって事ない。

あんまり美味しかったから本人も味見してみた、ごめんね? って言えば、形だけは丸く収まる。
そのかわり、軽蔑の眼差しを受ける事になるだろうと思うけど。 妖の討伐中に狙われたりするかも。
でも・・・ 出来るなら雲と問題は起こしたくない。 日向ヒザシ様が血路を開いて作った道だから。



しばらくして、うみの中忍に向かって雀が飛んできた。 彼の頭の上を何度か旋回してから飛び去る。

“俺の部屋の着物を使って下さい、では任務を遂行します”と言い、うみの中忍は雀を追って行った。
なるほど。 あの雀が変化術紙なんだろう。 ははは、きっとボク達の話を聞いてすぐ、だろうな。
危機感ゼロ人間のくせに、さすがというか。 うみの中忍はストリップ前に変化術紙を呼び戻していた。

「・・・・・・・・・やるねぇ。 優秀で鈍感な潜入員、か。 ・・・・フフフ。」
「なんか・・・・・ 里の繋ぎが勘違いしちゃう、って話、馬鹿に出来なくなりました、ボク。」
「ンー でもオレ達は勘違いじゃないヨ? 猿飛イルカ君に惚れたんじゃなくて、うみの中忍。」
「そうですよね? 危機を察知したら、あっという間に逃げちゃいましたけど。 ふふふ。」

後は適当に自分の死を偽装して下さい、って事ですねカカシ先輩。 しかし、みごとな逃げっぷり。
里では任務受付所担当だ、とか言ってましたよね。 知らない訳だ、ボク達は火影の直轄部隊だもん。
・・・・くすっ! でも居所が分かったから逃げても無駄。 帰ったら思う存分口説かせてもらうよ?


任務受付所に入っているからか。 ダルイさんにすんなりとあの言葉をかけたのは・・・・。
“お帰りなさい、お疲れ様でした”なんて。 わざわざ他国の忍びにかける様な言葉じゃないよ。

しかも猿飛イルカ君は、過去に他里の忍びから怖い目にあわされた民、って事にしてるんでしょう?
過去に何があろうと、今自分の目の前にいる人には関係ない、この人はダルイという名の“人”だ。
紫様もモンザ様も雲の忍びも、自分にとっては知り合いになれた凄い人達・・・・ そういうスタンスで。

それって、無意識で相手の本質に話しかけてる事になる。 つまり、他里の忍びだろうが、関係ないと。
他里の忍びにじゃなく、ダルイさん自身にうみのイルカ本人が無意識でかけた言葉なんだ・・・。

うみの中忍は素のままの潜入員だった。 彼の作った猿飛イルカ君は、本来の彼に毛が生えた様なモノ。
ほぼ本人と変わらない。 だからイルカ中忍の言葉は、そのまま心に届く言葉なんだ、作ってないから。
あの時“他国の忍びだと認識した方がいい”と言ったダルイさんの気持ちが、手に取る様に分かるよ。

自分の上辺だけじゃなく中身を見てくれる人間・・・・ 忍びじゃなくてもその心ごと欲しいと思うよね。




「まいったねぇ・・・・ アレ全部、素だヨ? どうする、テンゾウ。」
「あっちが素なら・・・・ ボク達も素でいいんじゃないですか?」
「・・・・・・ウ〜ン・・・ マンマ言っちゃいそう・・・・・」
「・・・・・・ははは。 ボクもそのまま言っちゃいそうです。」

「「抱かせろ?」」
「「・・・・・・・・・・ぶっ!! あははは!! やっぱりっ!!」」

「100% 嫌われるネ?」
「ですね、失恋決定です。」
「「・・・・・・・・・ヤバイ、本気で欲しい。」」

まるでさっきのダルイさんと同じ現象が起きている。 あの人は、ボク達が見ていようがいまいが・・・・
気にしてなかったんだそんな事。 進展があってもうすぐ帰国するかもしれないから、試してみたんだ。

恋愛対象として少しでも拒絶されたり怖がられたりしたら、忍び流の冗談だとでも言って止めたと思う。
けどイルカ青年はかろうじてスケベだと罵っただけ。 あれで確信を持ったんだよ、これはイケる、って。

すぐにでも手に入れたい衝動に駆られながらも、自己の行動のその後に慎重になるぐらい、全部が欲しいと。
情熱的な雷の国の男でさえ、相手に軽蔑される怖さが優先した・・・・ 今のボク達が、まさにそれだ。
きっと今頃あの人の頭の中では、猿飛イルカ君は何度もその腕に抱かれてる。 だったらあの言葉の真意は。

ダルイさんが言った“また明日”という言葉は、夜中を回って次の日になったら、って意味だ!
そう言ったはずだぞ、とイルカ青年の部屋に忍び込むつもりだろう。 夜這宣言だったんだよ、あれ。
こうしちゃいられない、うみの中忍が居なくなった事が、いち早くダルイさんに知られてしまうじゃないか!

「早くアレの中にブチ込みたーいっ!」
「鈍感男の上下の口を塞ぎたーいっ!」
「「なーんっつってねーーーーw」」

口に出せない心の叫びを口に出しつつイルカ青年の部屋で着物を物色していたら、本人が飛び込んで来た。
・・・・・?! あれ?? 術紙を追って行ったんじゃなかったの? てか、今の叫び、聞いてた??
ほ! 聞いてはいなかったようだ。 うみの中忍の表情が尋常じゃない。 どうしたの? 何かあった??