生駒城の家守 9   @AB CDE FGI JKL MNO PQR S




「猿飛イルカ君。 これからは日暮れにさしかかる・・・・ 外に出ない方がいいぞ。」
「あたなたは・・・・ えっと・・・・ ダルイ上忍の隊長さん!」

ぎゃ! さあ、これから殿の逢引を発見するぞと意気込んで、城門の外側に待機してようと思ったのに!
雲隠れの忍びに声をかけられた。 いや、外に出ない方がって・・・・ ここは生駒城、なんの心配?
そう言えば、追ってる獲物が国境を越えたかもしれないから調査するって、言ってたっけ・・・・。

抜け忍狩り? でもそれなら、木の葉の忍びも一個隊ほど派遣されてくると思う、この地の安全の為に。
うぅ・・・・ どうする俺。 せっかく殿の逢引現場を発見できるチャンスなのに・・・・・

まさか雲隠れの忍びが、火の国の民の心配をするなんて思わなかった。 しかも小隊の隊長、自ら見回り?
う〜ん・・・・ 挨拶してお終い、のはずが。 ここで無視したら明らかに不審人物だろう、俺。


「上忍の・・・・ 隊長?? ・・・・・・・ハハハ。 いや、ダルイだけでいい、ダルイ、だ。」
「では俺もイルカで! 猿飛って呼ばれるとどうも・・・・ へへ!」
「・・・・・木の葉隠れの火影と同姓だから?」
「そうなんです! あのヒルゼン様と同じ苗字だなんて・・・ やっぱり火の国の民としては・・・・」

「同じ苗字の人間はたくさんいるのにか? 大陸中に・・・・ 猿飛が何人ぐらいいると思う?」
「あははは! ダルイさんって、とっても優しい! そんな風に言われたのは始めてです!」
「優しい? それこそ、忍びのおれにいう言葉じゃないな。 ハハ。」

「そうだ! お砂糖買うのに付き合って頂けません?」
「城下へ買い物に・・・・ 行こうとしてたのか??」


こういう時は、あせらず騒がず、逆に誘うんだ。 上忍が頼まれない理由でワザと誘ってみるのが一番。
そうすると“は? なんで上忍のおれが?!”ってなるはずだから。 ショボイお買い物、とかな!
ダルイ上忍から断らせる方向で。 お膝元の城下に行くと言ってるんだから、これなら心配しないだろう。
それでもまだ心配そうだったら、ご心配には及びません城の兵に付き添ってもらいます、って言えばいい。

「生駒城の城下か・・・ だるいが・・・・ おもしろそうだな。 いいぞ?」
「へ? や、あの・・・ やっぱりいいです。 良く考えたらダルイさん、紫様のお客人だし・・・・」
「あ? イルカ君だって、そうだろ? 確か、モンザ様の客人だろ、一緒だ。」
「や、そうですが・・・ あんまりダルイさんが親切なんで、つい・・・・ 城の兵にでも・・・・」
「よし! 早いトコ行こう! 本格的に日が落ちる前に!」
「・・・・・・・・え、でも・・・・」

聞いちゃいない・・・・・ そりゃ、雲忍だもん、生駒城の城下を見学できるなら・・・・ そうするよな?
興味持たせちゃったよ、馬鹿か俺!! てか、何気にダルイさんは行動派だ。 どんどん進んでる・・・・
もう城門の外でおいでおいでしてる・・・・ なんてこった・・・・・ 思いっきり関わっちゃったよ・・・・

昨日、モンザ様に作る揚げパンに一工夫しようと思って、変わり種のお砂糖ときな粉を探しに行ったんだ。
いろいろな種類のきな粉やお砂糖があって迷ったんだよね。 また来ました、って言えば済むし。
うん、昨日も行った乾物屋さんにまた行こう。 城門には後からまた来ればいいしね・・・・ はぁ・・・。



「すみません、お仕事で来てらっしゃる忍びの方に、こんなつまんない事、お願いして・・・・」
「いいよ、別に。 それより砂糖って、何すんの?」
「へへ! 実はモンザ様に作ってあげる揚げパンにまぶすんですよ。 大好物なんだそうです!」

「揚げパン・・・・ へー?」
「よかったら後で味見してみます?」
「おれ達忍びは・・・・・・ いや。 そうだな、それが依頼料だとすると安上がりだなぁ、おれ。」
「あっ! そうでした!! 雲隠れさんを雇うのだから依頼料をお支払いしなくては・・・・」

「・・・・・・くくく! 揚げパンでいいよ、だるいから。 後で差し入れてくれよ?」
「はい! では後で皆さんのお部屋に届けますね! ふふふ! ダルイさんって、親切だなあ!」
「イルカ君は・・・・・ 感じた事を、そのまま口にするのか?」

「・・・・あー よく軽率だって・・・・ 言われます・・・・ うぅ・・・・・」
「・・・・・・・ぷ! くくく!」


・・・・・・ダルイ上忍って、気さく。 眠そうな目をしてるけど、よく笑う、ざっくばらんな人だ。
三代目、本当に優秀な忍びですね。 気どらなくて優しくて。 上忍だからと、へんなプライドもない。
でもそのおかげで“君子危うきに近寄らず”のはずがこんなハメに・・・・ うぅ・・・ なんてこった。