生駒城の家守 18   @AB CDE FGH IJK LMN OPR S




モンザ様には彼女の事も今からの事も、全て打ち明けた。 依頼人に結果を報告するのは義務だから。

元々紫様には内緒で、という話だったから、モンザ様にも一役かってもらう事を承諾してもらった。
モンザ様に真実の混じった嘘をついてもらったんだ。 俺は、先行して雲忍に接触していた潜入員だとね。
これから猿飛イルカ君は、部屋に籠って殺される予定ですが、そう見せかけて里に帰還する為です、と。

二人の暗部が雲忍の監視に来てる事はご存知だし、雲忍の真の目的も、暗部到着後に報告を受けていた。
紫様は、国境付近に出没している妖の討伐任務を、雲と木の葉が協力して遂行している、と思ってる。
雲の目的がただの調査ではなく、民を食らう妖の追跡だと知って、里に暗部の応援要請をしたのが俺。

いや、実際は暗部の二人が突き止めたんだけど。 俺は揚げパンを差し入れてただけ・・・・ だけどな!
だから最初から、雲の動向確認の為に潜っていた、という事にしてもらったんだ。 納得だろ?
潜入員の正体は明かせない。 雲忍には城の客人、老舗焼き菓子屋の息子 猿飛イルカのままで、と。


紫様は、5年前のあの緊張の対談の席を設けた方だ。 “敵を騙すには味方から”を、即座に理解。
“ははは、見事に騙されたな! うみの中忍、殺られ役を楽しみにしてるぞ?”との伝言まで承った。
これからの事は全部、紫様もご存知なんだ。 そう、これから俺は、妖が化けた姿として城で始末される。
どうやら雲に対する小芝居は紫様の余興になってしまった。 ・・・ははは、ご期待には添いますよ。

「モンザ様、紫様の好みが分かったんですから。 未来は明るいですよ?」
「ふむ、あの娘に似ている娘がいれば・・・ 殿をお慰めできるかもしれんな・・・・」
「その時は、木の葉がぜひ。 お人探しをお受けしたいと思います。 よろしくどうぞ?」
「・・・・うみの中忍は商売上手だな。 いやはや、さすが任務受付所の忍び、ははは!」

紫様に後で報告する時、始末した本物の妖はこの帯をした女性の姿でした・・・ と言うんだけど。

その時の紫様の心境を思うと、少しだけ心が痛む。 “紫様に会う為に他国の民を殺していた妖です”
そんな事を言えるはずがない。 他国の民であろうと、自分の為に犠牲になったと知ったら紫様は・・・・
それに、火の国の妖が雷の民を殺戮してたなんて、雲にも言えない。 新たな憎しみの火種を生むだけだ。
真相を誰にどこまで話せばいいのか、俺には分からない。 果たしてこうする事が良いのか悪いのかも。

でも雲の三人も、紫様も、モンザ様も・・・ そして紫様に会う為に人の姿になったヤモリの妖だって。
例え上辺だけの嘘でも、皆が何かを吹っ切って前を向いて進んでいけるなら。 それでいいと思うんだ。





ヤモリの妖は、自分から分離薬を飲んで元に戻ったそうだ。 いさぎ良いと言うかなんというか・・・・
紫様は民を大切にする人だ。 だからこそ火の国でも国主の信頼厚い大名なんだ、民からも慕われてる。
そういう紫様の人柄に触れ、また紫様を慕う家臣や城の皆に囲まれて、たくさんの事を学んだだろう。
人の精気を吸って人の姿を保つ事に、疑問を持ち始めたのかもね・・・・ でも時すでに遅し、だ。

全部、ついさっき二人が来て教えてくれたんだ。 あと、俺になるコヨーテもどきの死骸も確認済み。
ふう。 さすがというか・・・・ 九尾の妖気を浴びた妖から、その妖気だけを狩った? あり得ねー。
犯すぞこの野郎! みたいな目をしたかと思えば・・・・ やっぱり暗部の部隊長クラスは違うな?


今二人は雲忍の部屋を訪ねて、木の葉から昼間の胎盤の分析結果が届いたと、偽の妖情報を報告中。
妖の正体はカブリ。 国境付近を縄張りにしていたコヨーテが、突然変異で妖になったモノだ、と。
ソイツは人の精気を吸うと、本人と全く同じに化けるから、見分けるのは至難の業だ、とも。
そしてもっともらしい偽の作戦を提示するんだ。 明日、妖が眠っている昼間に狩りに行こう、って。


「凄いなぁ・・・・ こんな風に、いろいろ計略を張り巡らせて、行動するのか・・・・」

今俺は、自分の部屋で待機している。 というか、布団の中で寝てるフリ。 布団の下には封印の巻物。
なんか、ダルイ上忍が夜這に来る・・・・ らしい。 煽ってけしかけるのかなぁ? まあいい。
ダルイ上忍が俺を襲いに来たら・・・・ って、自分で言ってて、はぁ? って思うけど、そういう事だ。
いかにもイルカ君じゃない誘い方をすればいいらしい。 偽物だとすぐに気付くはずだから、って。

「いかにも俺じゃない誘い方って、なんだよ。 誘う時点で俺じゃないだろ。 ん? だからか??」

で、俺は、駆けつけた木の葉の暗部二人に殺されるんだ。 紫様の城で火の国の民をよくも! って。
ここがポイント。 絶対ダルイさんに攻撃させては駄目なんだ。 だって俺が本当に死んじゃうから。
そのへんは上手くやってくれるはず。 後は布団の下の封印の巻物に入っている死骸と入れ替わるだけ。

・・・・・・・・って、おいっ! 本番が来ちゃったよっ!! ・・・ひぃー なるようになれっ!!

手が早いのは台所で分かったけど。 俺、布団に入ってるし“まな板の上の鯉”状態だけど。 でもっ!
ダルイ上忍、アンタ急速過ぎるだろっ! 襖を閉めるなり俺に直行。 唇を親指で撫でられてる・・・・・
ここでビクついちゃ、俺だ。 今の俺は妖だから、ゆっくりと目を開ける。 うぅ、なんだこのエロ指!


「また明日、って言っただろ? ・・・・・・・もうその明日だ。 だから会いに来た。」
「・・・・・・・・・縋るような目・・・・・ 俺が・・・・ 欲しい?」
「・・・・・・・?!」

・・・・・・駄目? 誘うって、こんなのじゃないの?? ついでにこの指を咥えてみるか。 パクッ!
まだ駄目? まだ俺らしくないと思ってもらえない?? 咥えた親指を舐めてみるか。 ペロ・・・・

うわ、吃驚したっ! 俺の口からダルイ上忍の親指が消えたと思ったら、暗部二人が本人を拘束してた。
ちょっと待って? まだ俺、疑われてませんけど・・・・ まあいいか。 妖のフリを続けよう、うん。

「あのサ。 雲隠れはどうしてこう問題を起こすかな。 アンタ達は違うと思ってたのに。」
「夜中にどこに行くのかと思ったら。 ただの夜這なら見逃しましたが、殺しとなったら別です。」
「?! ち・・・・ 違うっ! 聞いてくれっ! アレは・・・・ イルカ君じゃないっっ!!」
「「?!」」

あれ? ちゃんと妖だと気付いてくれてたんですか? てか“殺し”って。 間一髪だったとかいう?!
マジで?! だって殺気がなかったぞ?! 上忍の殺気が漏れれば俺なんか硬直するぐらいの・・・・。
若干危なかったけど、さすが暗部だ。 俺はゆっくりと半身を起こし髪をかき上げて三人を見上げた。

「俺? 俺はイルカだよ? ・・・・・ あんた、俺が欲しいんじゃないの?  くすっ。」