生駒城の家守 19
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「「ダルイ隊長っっ!! どうしたんですか、嵐遁チャクラが・・・・ っっ!!!」」
「おい、木の葉っ! プライベートには踏み込まないはずじゃなかったのか?!」
「ダルイ隊長を放せっ!! 隊長がここで何をしようと、アンタらには関係ないだろっ!」
嵐遁・・・ チャクラ? ・・・・全然分かんなかったけど、血継限界?? そうか、それで・・・・
雲の二人が部屋に飛び込んで来た。 こっちは分かり易い殺気を纏って。 一触即発の空気が充満してる。
ひぃ〜 正直キツイ。 でもここでビビったら俺は妖じゃない! 口元に小さな笑みを浮かべるんだ、俺!
「「?!」」
「お前らも気付いたか? そこに居るのは・・・・ おれ達が知ってるイルカ君じゃない。」
「どういコト? 目的は火の国の大名の体裁を傷つける為の暗殺・・・ じゃないの?」
「ああ。 さっき言ってただろう? その妖は食った奴に化けるから発見が難しい、って。」
「・・・・・・・・・・まさか。 紫様の客人が火の国に入ったコヨーテのカブリ、だと?」
「「明日、というか、もう今日ですが。 ・・・・・狩りに行く手間が省けましたね?」」
「・・・・・そう。 コイツがそうなんだ? ダルイ上忍、お手柄。 後はオレ達に任せて?」
「冗談じゃないっ! コイツを狩るのはおれだっ!! ふざけるなっ!!」
「死骸は雲にお渡しします。 コイツは、紫様の城でその客人を食った。 我が火の国の民をっ!!」
「だがおれはっ!! ・・・・・くそっ!!!」
や、あの。 とっとと木の葉の暗部に主導権を渡して下さいよ、ここは火の国で生駒様の城なんだから。
暗部が怒るのは分かりますよね? 自分達が紫様の警護に呼ばれてその任務中に、城の中の民が犠牲に。
これは紫様の警護の為、雲忍の監視に来た暗部にとっては屈辱の事態。 ・・・本来はあり得ないけどな。
・・・・ダルイ上忍、猿飛イルカ君の事は忘れて下さい。 あなたならどんな人も思いのままですよ。
暗部の二人が俺を布団に沈めた。 俺は見えない様に布団の中で教えられた印を組む。 巻物に入る為に。
先に二人が狩った死骸と俺が少しずつ入れ替わる。 俺は巻物の中へ、コヨーテの妖は巻物の外へ。
・・・・よし、俺の役目は終わり。 暗いなぁ・・・・ まあ、後で二人が出してくれるまでの我慢だ。
「木遁っ! 大樹林の術っ!!」
「雷遁っ! 流駆千鳥っ!!」
「「「・・・・・・・。」」」
「アンタさ、嵐遁なんか使って・・・ 城を壊すつもりだったの?」
「ここは火の国屈指の大名、生駒様が居城。 大技はお断りです。」
「・・・・・・・・スミマセン。 頭に血が上ったもんで。」
「積乱雲なんか呼びよせないで下さいよ、吃驚しましたよ?」
「気持ちは分かりますが。 これで良かったんですよ、ダルイ隊長。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「こっちこそゴメンネ? こんな屈辱はハジメテだヨ。 オレ達が城に居ながらみすみす・・・ サ。」
「木の葉暗部の四天王、こんな肩書きをもってるボク達が、側にいた民の一人も守れなかったなんて。」
「「・・・・・・それは俺ら雲の忍びも一緒です、滞在を許可してもらってたのに。」」
「・・・・・・笑います? おれ、他国の一般人に惚れたんですよ、スミマセン。」
「「ダルイ隊長・・・・・。」」
「笑わないヨ。 揚げパンも・・・・・ 美味しかったネ?」
「ボク達忍びが餌付けされた人ですから。 仕方ないです。」
コヨーテのカブリの死骸。 本来なら狩った木の葉の手柄だ。 でも奴らはおれ達にくれた。
犠牲になった民の数から考えると、追って来た雲隠れが持ち帰るのが相応しいと。 それはその通りだ。
でも本当は・・・・ イルカ君への気持ちを知っていたから、おれに譲ってくれたのかもしれない。
「イルカ君、ひょっとしたらあの後・・・・ 一人で乾物屋に、買い物に行ったのかも。」
「モンザさんや俺らが、美味い、美味い、って、バクバク食べて・・・・ 喜んでたしな・・・・」
「俺らの買った砂糖やきな粉、使ってくれたな・・・・。 で、俺らは、また美味い、美味いって。」
「うん、さすが老舗の焼き菓子屋の息子だ、って言う度に、まだまだ半人前です、って・・・・」
あの時、イルカ君はおれを否定しなかった。 おれのモノになってくれるだろうと、確信した。
仲間達が言う様に買い物に行ったとしたら、おれに内緒で何かを作ってくれようとしたのかもしれない。
あのイルカ君の事だ、吃驚してスケベだなんて言ってごめんなさい、って。 お詫びの印に。
抱いておけばよかった。 考えれば考えるほど、全部が臆病すぎた自分のせいに思えてならない。
「これは・・・・ 姉きを諌められなかったおれへの・・・・ 報いかもな・・・・。」
「「ダルイ隊長・・・・・・。」」
あの妖が食ったのは、イルカ君だけじゃなかった。 生駒様の恋人も犠牲になってたらしい。
おれ達を見送る生駒様は、自己の悲しみなど欠片も感じさせなかった。 さすが大陸でも有名な大名だ。
自分の富や名声にこだわり、己が有名になる事だけを考えている馬鹿大名とは、天と地ほども違う。
そういう馬鹿は、必ず周りを巻き込む。 だからかもしれない。 火の国民の犠牲が少数で済んだのは。
おれの姉は・・・・ 小さい頃からおれの才能を妬み、有名になる事だけを考えていた。 馬鹿な姉だ。
忍びの才だけが、人間関係を作るモノではないのに。 三代目雷影に【雷】の刺青を入れてもらった。
あれからますます名声に対して過敏になり、弟に負けては姉の名折れ、と率先して難しい任務を受けた。
里の馬鹿どもにいいように利用された揚句、木の葉の名のある忍びが犠牲になった。 馬鹿らしい。
姉は真実を知らない他の忍びから、木の葉の忍びに無残に殺されたくの一、として同情されている。
だが実の弟のおれは全部知っているし、おれに近しい人間も皆、真相を知っている。 雲の汚点なんだ。
そんな事を、もし木の葉ヤツらや生駒様が知ったら。 間違いなく罵られた。 調査も出来なかった。
日向ヒザシの死の原因を作ったくの一の弟、どんな顔をしてこの城に足を踏み入れるのか、と。
そして・・・・ イルカ君とも知り合う事もなかった。 一緒に居て、それだけで心がうずく相手に。
馬鹿な奴ほど、自分の仕出かした事に周りを巻込む。 自分だけが満足して火種は周りに飛び火する。
なにもおれや生駒様が、心から欲しいと思った相手を奪う事はないじゃないか。 これが報いか、と。
憎しみの火種だけを残した姉のせいにしたくなる。 おれは雲の忍び、前に進まなければならないのに。
「そう遠くない未来、互いの里の利益だけを考える忍びが・・・・ 少なくなればいいな。」
「・・・・・そうですね。 腹の探り合いばかりをせずにすむ時代にしましょう、俺達が。」
「そうしたら今度は、速攻おれの腕に抱いて・・・・ 二度と放したりしない。」
「他国の者であっても、俺らにも遠慮なんかせずに。 ガッチリ攻めて下さいよ、ダルイ隊長?」
「ああ。 おれは三代目雷影から雷を刻んでもらった忍びだ。 その名に恥じない生き方をする。」
「「それでこそ、四代目雷影エ―様の・・・・ ボスの右腕! 俺らのダルイ隊長だ!」」
「ハハハ。 ・・・・・・・・・・・・・なあ。 そんなに分かり易かったか?」
「「まあ・・・・ そこそこバレバレでした。」」
「・・・・・スミマセンねぇ、情熱的なんで、おれ。」
「「くすくす!」」
ほんのひと時だけ、おれは忍びだと忘れた。 ああ、これが満たされるって事なのか、と思った。
そんなあったかい感情を忍びのおれに教えてくれた、力もなにもない一般人のイルカ君。 ありがとな。