愛する事が罪ならば 10   @AB CDE FGH JKL MNO PQR S




土の国の岩隠れが火の国の国境付近からの退却を拒んだ。 第三次忍界大戦の終戦直後だった。
木の葉は退却を容認していたが、何の裏もない退却命令を完全に誤解した忍びの一個隊がいた。
自分達は退却する部隊の囮なのだと。 その中には退却は敗北と同じだと主張する好戦的な忍びも。

岩隠れからは退却命令が出ているのに一向に退却する様子を見せず、それどころか交戦を止めない。
先に退却した部隊の囮だと思い込み、時間を稼ごうと抵抗しては、山一帯に潜伏し続けていた。
自分達が抵抗すればするだけ、何人もの仲間が無事に岩隠れに帰れるはずだ、と思い込んで。



戦争は終わった、退却は両里の合意の上なのだと伝えに行った使者は、首だけになって戻ってきた。
使者が持って行った書簡には、土影 火影 両里の影の名が連名で署名されていたにもかかわらず。
容易に想像がつく。 囮だと思い込んでいる者を手元に置いておく為に、好戦的な忍びが殺したのだ。

丸腰で無抵抗の使者を殺す事は、忍びの中で最低の行為だとされている。 それはどこの里でも同じ。
自里の影の退却命令に背き、書簡を届けに行っただけの木の葉の使者を殺し、奴らは完全に孤立した。
仕方がなかったんだ。 岩隠れもせっかく結んだ終戦協定と、残った一個隊とを秤にはかけられない。

一向に戦いを止めようとしない岩隠れ一個隊に攻撃命令が出たのは、その後すぐの事だった。
私は現場を指揮していた。 あの時かけた情けが・・・ まさかこんな形で跳ね返ってくるとは。




ほんの小さな少年だ。 おそらく下忍にもなっていない見習い、里のアカデミー年少組ぐらいの。
誰かの息子なのかもしれない。 終戦後、最初の退却命令の時に岩隠れに戻さなかったらしい。
木の葉にも将来有望な子がいる、今は亡き白い牙の息子、はたけカカシ君などはもうすぐ上忍だ。

この子は、まだ下忍になれそうもない未熟なチャクラ質をしている。 岩陣営の少年・・・・・。

おそらく抵抗している大半は、退却命令は木の葉の罠だと少数に吹き込まれている忍びだろう。
自分達は退却部隊の囮だと思い込んで戦っている彼らなら、影の直筆署名をみれば信じたはずだ。
再三にわたる退却命令は木の葉の罠などではなく本物で、全くの無駄な戦いを続けていたのだと。



まだ額当てをしていないなら、この子は忍びではない。 抵抗している岩隠れの忍びとは無関係だ。
そうだ、忍びではないなら殺さなくていい、殺す理由がない。 こじつけた理由だと分かっている。
けれど・・・・・ こんな、一部の好戦的な忍び達と運命を共にするには、この少年は幼すぎる。

罠ではないと証明できる木の葉の使者を斬り殺した数人のせいで、彼らの命綱が断たれたも同然だ。
木の葉は使者の殺害を理由に、抵抗し続けている一個隊の生還は諦めろ、と岩隠れに打診するだろう。
・・・・この子の親も薄々そう感じたから、見つかり易い場所にこの子を待機させたのかもしれない。

岩隠れの忍びかと問われたら、違うと答えるんだぞ? 数日分の食料を与え皆に見つかる前に逃がした。

『そのまま山を下りて行けば土の国だ。 人を見つけたら岩隠れの忍びを呼んでもらえ、いいな?』


退却を拒否した岩忍の殲滅。 あの虚しいだけの戦場で、小さな命を救えた事だけが私の誇りだった。



『まさかっ! あなたはあの時の・・・・ 木の葉の忍び・・・・ では・・・ ありませんか?』
『? 人違いでしょう、私は呉服屋を構えてもう12年になります、ここ夢やの主です。』
『ああ、これは・・・・・ 不躾ですみません。 俺はあの時、山を下りた岩の者です。』

『?! ・・・・・・そうですか。 でも残念ながら、私は・・・・・』
『いいんです。 あなたに似た人だったから。 ・・・・・他人の空似でも、お礼を言わせて下さい。』
『・・・・・なにやらご事情がおありの様ですね。 聞くだけで宜しければ、お茶でも如何ですか?』
『・・・ぜひ。 ありがとうございます、ずっと探していた人に似ていたものですから。』

『お探しの方は忍びなんですね? 木の葉の里を訪ねてみてはどうでしょう?』
『いえ。 似た方に話を聞いてもらえるだけで・・・・ 俺は前に進める気がします。』
『・・・・年若い青年の力になれるなんて、私も嬉しいですよ。 さ、どうぞ中へ・・・・・・』



そうか、あの時の少年か。 みたところ岩隠れの中忍だろう。 こんなに立派に成長したのだな。
私がかすかに覚えていたのは、まだ幼い少年。 彼はそんな私をずっと探してくれていたのか。
だが。 そのほんの少しの心の隙がこの悪夢を生んだ。 お礼を言う為に私を探していたのではなく。
苦しめる為に探していたと・・・ そう気づいた時には。 既に私は、彼の術中にはまっていた。

あの時死んだ忍び達の中に父親がいたらしい。 ずっと父親の仇を、この私を探していたと言った。
彼の話ぶりからして、あの時の岩忍潰しの経緯が、大きく間違って岩隠れの忍びに伝えられた様だ。




私が情報を漏らしたり自害しようとしたら、捕らわれている奉公人を殺すよう行動に出る。
そして私に接触した仲間、木の葉の忍びには。 問答無用で攻撃をする、どちらもこの私の手で。
呪縛思身〈じゅばくししん〉の術。 思考と身体能力を別々に、対象を縛る事が出来る術だそうだ。

あの時、あの子を殺していればよかったのか? いや違う、その後の話を湾曲した者がいたのだ。
あたかも木の葉が岩の忍びを騙し討ちしたかのように事実を曲げ、間違った情報を与えた者達が。

木の葉の使者が斬られた事が、その後の火種になりかねないとでも思った岩の上層部だろうか。
だがあの時、岩忍の一個隊の殲滅を岩隠れ側が容認した事で、その話はチャラになったはずだ。
・・・・・・・そうか。 行動を正当化し、被害者でいる為だ。 その方が岩には都合がいい。
仲間を逃がす為の囮になり木の葉の騙し討ちにあって殺された、あの一個隊は悲劇の英雄なのだ、と。


事実を都合のいい様に捻じ曲げて伝えれば、当事者がいない場ではそれが真実となってしまう。
あの青年のせいではない・・・・ 全てはあの時、少年にちゃんとした情報を与えなかった己のせいだ。
額当てはないが忍びの子。 あの状況をちゃんと教え、皆の分も生き延びろよ、と伝えなかった私の。

もう何人もの奉公人、同胞を手にかけた。 大津様の治める商業街は、火の国でも有数の主要都市。
信頼してこの町の巣を任せてくれたのに。 自身が元凶になろうとは。 火影様、申し訳ありません。


しかし、普段頼りなさそうなあの海野中忍が。 三代目、彼は・・・・・・ いい忍びに育ちましたね。
あの暗部の二人もだ。 若き木の葉の精鋭をこの目で最後に見れた。 こんなに嬉しい事はありません。

この命が今まで奪った命の償いになるとは到底思えませんが。 せめて最後は己の手でつけたいと思います。