愛する事が罪ならば 7   @AB CDE GHI JKL MNO PQR S




しまった、と思ったヨ。 夢やに着いて一番に目にしたのは、店内にいるイルカさんの後姿だった。
間に合わなかった、イルカさんも殺さなきゃならないなんて。 どういう気持ちだったか分かる?

中にいる者は一掃する、それが巣の殲滅任務。 あの陥落を臭わせた優秀な潜入員、深月上忍も含めて。
三代目も褒めていたぐらいの潜入員だ、もしかしたらイルカさんは利用されているのかも、ってネ。
でも未練たらしく、オレ達は店内での会話の一部始終を聞いていたのヨ。 今すぐ突入してもイイのに。

そうしたらなんと、イルカさんはほんの数秒前に訪ねてきたトコロだったの。 ホントに今さっき。
もうそれだけで喜んじゃったヨ。 イルカさんは助けられる、まだ敵に正体がバレていない、って。


イルカさんが巣に来たという事は、定期報告を纏めて持って来たというコト。 お酒と一緒に。
酒店だから、お酒を届けるフリして・・・・ それと一緒に里への定期報告書を渡すんだろうネ。

クリーニング屋のフリしてるヤツは服を、宅配便を装ってるヤツは荷物を、それそれが手渡す。
ごく普通、なにげない日常、ありふれた光景。 巣に出入りする潜入員は皆そうしてる。
だからこんなコトは稀なんだ。 サッと置いてすぐに帰らない、必要以上に会話する、なんてサ。

巣の管理者、深月上忍が手引きしているのは間違いない。 上忍を含む8人の忍びが殺されてるから。
あの会話のどこにイルカさんを助けるコトになるキーワードが隠れていたかは分からないケド。
深月上忍が危ない賭けに出てくれたんだろう。 とにかく、イルカさんが店内から出てきたのヨ。
木の葉の忍びだとバレるコトもなければ、潜入員の立場を利用されるワケでもない、そのままで。

イルカさんの無事をこの目で確認できたから一安心。 テンゾウとすぐさま屋根に飛び移った。
一つでも助けられる命があってよかったよネ? かない酒店の従業員さん、深月上忍に感謝しなヨ?
呉服屋 夢やの清掃を始めるヨ、そうテンゾウに合図を出そうとした時だった。 イルカさんが・・・・・



チョット!! アンタ、なんでまだこんなトコにいるの?! アノやり取りは命のやり取りでショ?!
深月上忍は明らかにイルカさんを助けた、二人の日頃の会話を知らないオレ達でさえ、そう思ったヨ?!
・・・・・気持ちはわかるケド。 今更中を探ったところで意味はない、巣はもう陥落してるんだーヨ。

イルカさんをなんとか助けてくれた深月上忍がネ、里に異変を知らせる同様の式を飛ばしてくれたから。
オレ達の任務は巣の清掃。 そして、イルカさんの命を助けた仲間の意志を・・・・ 無駄にしないコト。

 
・・・・・・とは言ってもねぇ。 テンゾウ。 イルカさんのあの悔しそうな顔・・・・ 見た?
オレ達なら何とかできるかもしれないのに、なんで諦めちゃうんですか! みたいな、強い眼差し。
・・・・多分、彼を傷付けてしまったよネ。 頭からもう手遅れだ、みたいな言い方しちゃったしサ。

悔しそうに唇を噛んで踵を返し走り去ったイルカさんは・・・・オレ達のコトを覚えてないみたいだったネ。
・・・ハハ、そりゃそうか。 ド派手だとダメ出しされたあの時は、面もしてなかったし私服だったし。
クルクルと変わる表情に、なんかよくわかんないケドオレ達四人、毒気を抜かれたのを覚えてる。

目立ちすぎだと言ったクセに。 あの時の様に四人じゃないケド・・・・ オレ達の声忘れちゃったの?
ヘンなの。 彼が無事でいてくれて嬉しいはずなのに、覚えてもらってないコトがショックだなんて。
・・・・・? チョット、テンゾウ?? ナニもお前まで一緒になってドンヨリしなくても・・・・



「そりゃボク達は名乗ってはいませんが・・・・ 声ぐらい覚えててくれてると思ってた・・・・・」
「・・・・・・・・アー、全く同感。 潜入員のクセに。 もっとよく観察しなさいヨ、まったく!」
「・・・・ぷっ! ・・・・・・・でも無事でよかったです。 間に合って・・・・ 良かった。」
「・・・・ウン、ホントよかったヨ。 暗部を恨んでも生きてくれるなら十分。 でショ?」

「その通りです。 こういう役回りこそ、ボク達 暗部の領分ですから。」
「ヨシ、深月上忍の意志を無駄にしない。 これより夢やを一掃するヨ。」

巣を一掃したらサ・・・・ かない酒店に寄ってみる? 別に言い訳したいんじゃないケド・・・・
イルカさんにはなんとなく・・・・ この状況を全部知らせてあげた方がいいんじゃないか、って。
当事者だったんだから。 一歩間違えば彼も殺されてたか、利用されてた側に回ったかもしれないんだし。