愛する事が罪ならば 4   @AB DEF GHI JKL MNO PQR S




他里の手に堕ちてるかもしれない木の葉の巣は、 火の国商業街にある【夢や】という呉服屋だ。
酒店の者がたまに出入りしても不思議じゃない。 夢屋本舗とか、夢心地とか、夢はじめだとか。
大の着物好きで知られる大津家の夢美様にあやかって、夢なんとか、とつける呉服屋は多い。

敵忍の目当ては巣に立ち寄る木の葉の忍びだろうから、他の潜入員にまでは目をつけないと思うけど。
・・・・・だからこそ、彼が見つかったらすぐに始末される。 利用価値のない潜入員は邪魔なだけ。
巣に呼び込む為に生かしておく潜入員とは違い、巣の外で活動している潜入員は早々に消すだろう。
呉服屋【夢や】での異変を木の葉に報告でもされたら、美味しい狩場を手放さなければならない。

ボク達が行くまで、まだ巣を訪れてなければいいんだけど。 ここで気を揉んでも仕方がないな。
信じる事だ、彼は機転が利く。 あの町のど真ん中でボク達にぶつかってきて着替えさせた。
店まで一緒にきて下さい、弁償してもらいますから! と、プリプリ怒ってみせながら。

あの時は・・・・・ “ほら、あんた達も手伝って!”と飛び散った酒瓶の欠片を拾い集めたっけ。
あの後、アズサさんの独断愚痴大会になったから、あの日の出来事はすっかり霞んじゃったけど。
ボク達は一様に、一瞬にして毒気を抜かれたのを覚えている。 三代目が言う様に、良い潜入員だ。



昔から家族ぐるみの付き合いで、奥さん同士も帰還が遅れている間、ずっと支え合っている。
ふた家庭とも子供がいなくて、支え合うのはきまって里に残された奥さん同士なんだそうだ。
どちらかの旦那が任務に就けば、その妻はもう片方の家庭に入り浸る、そんな仲のいい家族。

情報部が近況報告を夢やにせっついたのは、その二つの家族からの訴えがあったからなんだ。
【少し手間取ってるけど心配しないでくれ 土産を買いに寄り道して帰るよ】という書簡。
現場は違う、筆跡も違う、けれど同じ文面の書簡。 まだ帰還していない夫達と何か関係が?
帰還が遅れるのはよくある事で仕方がないけど、同じ文面の書簡が届いたのはなぜ? と。

もしこの訴えがなければ誰も気にしなかった。 もしも旦那さんの文を見せ合っていなければ。
帰ってこない夫達を、支え合いながら待つ妻達・・・・ まだ当分はこのままだったはずだ。
そして夢やから情報部宛てに届いた式は、変わった事はない、だった。 大ありなのにね。


奥さん達の訴えで任務受付所に問い合わせた情報部は、同様の事が起こってないかを調べた。
するとやはり、同文面の書簡が届いている家庭があったんだ。 当然ながら当人はいまだ帰還せず。
書簡が本人の直筆で届いたから、家族は何の疑問も持たなかった。 なんだ遅くなるのか、と。
書簡を受け取った家族は、任務受付所に忍びの帰還の遅延を知らせる。 完全な盲点だ。

同様の文面を受け取った家庭は、今現在判明しているだけで八件。 つまり八人の忍びが行方不明。
拉致か殺害か。 巣が敵の手に堕ちてれば、今後行方不明者が続出するのは目に見えて明らかだね。



夢やが木の葉の巣だと公表する事は出来ない、だからボク達の狩りの巻き添え、という形にする。
あの町にはまだたくさんの潜入員や里の協力者がいて、新たな巣が町にどうしても必要だから。

夢やを占拠してる他里の忍びは、一般人を使って木の葉の忍びを殺していた、と公表するんだよ。
巣である事、潜入員である事は闇に葬られる。 木の葉の忍びを売った呉服屋として一掃する。
そこで働いている一般人も、同じく巻き添えになってもらう。 多分頭を弄られているだろうから。

非情な同胞殺しと言われようが、皆に非難されるのなんて。 そんなの慣れっこだ、今更だよ。
まだ正体がバレていない潜入員や、まだ立ち寄っていない忍びの為に。 犠牲を最小限に留める。
起きてしまった事は変えられない、けれど侵食を食い止める事は出来る。 それがボク達の役目だ。




『そんな“おれたちゃ忍びです”みたいなオーラを垂れ流して、町を闊歩しないで頂けます?』

そう言って、ボク達にダメ出しした酒店の従業員君は、多分ボク達が暗部だとは思ってない。
普通の上忍だと思って注意してくれたんだろうな。 騒ぎは起こさないで下さいね、って。
ボク達に目立ちすぎだと怒った潜入員のイルカさん。 きっとボク達とそう変わらない年頃。

もしあの時のボク達が、火影様の手足だといわれている暗部の部隊長達だと知ったら・・・・・
ふふふ、あの表情の豊かな彼の事だ。 “暗部に説教しちゃったの俺?!”って吃驚するよね。
それでいて開き直って言うんだろうな。 “どうりで目立ちすぎだと思った!”って。





「では三代目、夢やは多分手遅れだと思いますケド・・・・ 探るだけ探ってみます。」
「せめて他の潜入員は無事でいてほしいですけどね、こればっかりは運任せですよ。」
「うむ、そうじゃな。 事が事ならば。 ・・・・速やかに一掃せよ。」
「「御意。」」



なるべく不信に思われない様にボク達を着替えさせたね、さすが木の葉の潜入員だと思ったよ。
一度接触した潜入員だから、つい知り合いの様な気になってるだけかもしれないけど・・・・
どうか・・・・・ どうかボク達が夢やに行くまでは。  彼が巣を訪ねていない事だけを願う。