愛する事が罪ならば 18   @AB CDE FGH IJK LMN OPR S




まったく謎です。 ボク達は彼の忘れられない思い出にすらなってはいけない、そういう事でしょうか?
これからここを燃やして、イルカさんが持参した酒を撒けば終わり。 もう会う事もないなんて。
・・・・・・これも罰ですかね。 はっきり言って結構・・・・・ いや。 かなり苦しいですよ。

“自分の役目は伝える事です”そう言ったイルカさんの目には、悲しみではなく誇りが浮かんでいた。
真実を知る者が生きていれば、いつか誰かの問いに迷いなくはっきりと答えてあげられるから、って。
君に出来る事は何もない、あの発言を撤回するよ。 逝った者の思いを伝える事は彼らが一番喜ぶ事。

イルカさんはボク達が何も言わなくても、ちゃんと知ってたんだ。 自分にしかできない事を。

死者は死者、どんな真実が隠されていようが死人に口なし。 それを代わりに伝えるのは至難の業だ。
誰かの都合のいい口実に使われるだけ。 真実を伝えるていけるのは、知る者が生きてこそだからね。
逝った者達に近しい者が語る事実こそ、それを知りたい誰かの求める真実になり得る。



ボク達も任務を遂行した当事者だけど、真実を語る事はまずあり得ない。 闇に葬るのが専門だから。
あの中忍も言ってた通り、暗部は常に嘘で固められている。 ボク達には決して真似できない事だよ。
イルカさんに話そうと思ったのは特別。 だって今までは誰に何を思われても平気だったから。

本来ならイルカさんは知る事もない事実だったけど、自分から知りたいと店に戻ってきたんだ。
ボク達が言い訳しに行かなくても、いい印象を与えるつもりで“彼に出来る事”を頼まなくても。
全部知ってて・・・・ それで戻ってきてくれた。 いつか誰かが求めた時、この事実を伝える為に。

よかったよ、イルカさんに会えて。 ただ喋っただけのあの時とは違う、彼本人を知る事ができて。
同じ任務を遂行する仲間は考え方が似ているから、どうしたって共通点が出来る。 傷の舐め合いだ。
でも行動も思考も違う他の誰かが、ボク達の事を理解してくれていた。 信じられないぐらい嬉しいよ。



「それに俺は・・・・ 深月上忍の“最後の願い”まで無視する非情さは持ち合わせていませんから。」
「「・・・・・・・・・イルカさん。」」
「自分が原因で巣を陥落させた。 里に戻りたいなんて・・・・ 願うはずありませんよ、あの人。」
「・・・・・そうだネ? 非情なのはオレ達の専売特許だしサ。」
「遺言だろうがなんだろうが、ボク達は完全無視ですから。」
「ええ、そうして下さい。 お二人のその手で・・・・ 皆の魂を里に戻してあげるべきなんです。」
「「・・・・・・うん。」」



「それで・・・・ 慰霊碑に名を・・・・ 刻んであげて下さい、深月コヤタここに眠る、と。」
「「・・・・・了解。」」
「ご本人が手にかけた忍び達と・・・・ 同列に墓石を並べる、なんてのは・・・・ どうです?」
「「・・・・・それはいいね。」」
「誇り高い人でしたから。 恥をかかせるのは御免です。 でもお二人なら得意ですよね?」
「・・・・ふふ。 先輩も結構毒舌ですが。 イルカさんもなかなかどうして。」
「だよネ? イルカさんって何気に意地悪だヨ、無遠慮だしサ? フフフ。」

「くす! これは代弁じゃなく、俺の言葉です。 ・・・・・・・ありがとうございました。」
「「・・・・・うん。」」



そしてイルカさんは、ボク達が差し出した五つの額当てと深月上忍の遺書を大切そうに風呂敷で包んだ。
中身だった酒はこれから撒くからと。 いつもこの風呂敷で魔王という焼酎を巣に届けていたそうだ。
近況報告書と一緒に、深月上忍へ。 これがこの町に居る俺達潜入員の日常ですから、そう言って。




何もかもを燃やし尽くす火は。 ボク達木の葉の忍びの象徴だ。 人が道具を使って人工的に作れたモノ。
その工夫が出来たから他の動物より早く進化したんだ。 そして忍術が使えるボク達はもっと進化した。
技術は進化してるはずなのに、いつまでたっても殺し合う事を止められないのは、どうしてだろうね?

皆、楽な方法を選ぶ。 第三者の意見を鵜呑みにする、自分で知る事より他人の話を聞く方が楽だから。
マフユ中忍もそうだった。 一般人も正規の忍びも、ほとんどがそうだ。 でもイルカさんは違う。
ボク達のやったことを包み隠さず、全てが知りたいと言ってくれた。 もしそんな人ばかりなら・・・・

もしかしたらだけど。 この世の中から殺し合いがなくなるかもしれないよ? もしかしたらね。
・・・・・・・でもそれは絶対あり得ないんだよね。 ボク達は暗部、汚れる事の重要性を知っている。
イルカさんのような人が忍び社会の中でいかに希少か。 残念ながら、それを一番知っているから。



巣を覆う業火を、他の店に燃え移らない様に制しながら術をコントロール。 夢やだけを燃やす。
見せしめだからね、木の葉の忍びを売った呉服屋だから。 柱の一本も残さない様に焼き尽くす。
奉公人や深月上忍の遺体も全部一緒に。 当然だけど、岩の奴らだけはとっくに蒸発させてある。
皆と一緒に灰にするなんて、冗談じゃない。 首と額当て以外は跡形もなく微塵にしてやった。

本当は首も潰してやりたかったんだけどね。 目には目を。 ウチの忍びがそうされてたように。
眼球をえぐり耳を削ぎ、血抜きをして口に岩の額当てをツッコんだ。 数日後、岩隠れに届ける予定。

ほらね? これがボク達の仕事、こんなボク達がいる以上、殺し合いがなくなる訳がない。
夢やの周りに弔いの酒を撒いてるイルカさんとは・・・・ あまりにも違いすぎるよね。
でも、やっぱり思うんだ。 彼を知ってよかった。 人を愛する気持ちを知れてよかったよ。



今ね、死ぬほど苦しいもん。 手を伸ばしちゃいけないと思うほどに、胸が締め付けられる。
目には目を実行するボク達には、罪には罰を。 それはもう当然の事なんだ、でないと人でいる自信がない。