愛する事が罪ならば 8
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そうなんですよね。 イルカさんにはなんとなく言い訳したいかな、って。 ボクもそう思っています。
・・・・・らしくないですよね、暗部のボク達が、今更。 でも・・・ 彼は当事者、その通りです。
深月上忍との会話で、敵が巣を占拠していると気づいた彼には、事の顛末を知る権利があります。
・・・・・って、立派な建て前をツラツラ並べてるけど。 本当は聞いてほしいだけかもしれない。
イルカさんなら覚えてると思うから。 あ、その声はもしかしてあの時のド派手な人達?! って。
酒瓶の破片拾わせたくせに。 なのにきれいさっぱりボク達の声を忘れてるなんて。 酷いですよね?
事が全部終わったら。 イルカさんにお勧めの酒でも聞いて、夢やの跡地に撒くのはどうでしょう。
同胞の命への手向け、魂の清め酒。 イルカさんが選んだ物なら、深月上忍も喜ぶんじゃないですか?
自慢じゃないけど。 気配を殺したボク達 暗部を感じ取れるのは、よっぽど優秀な感知タイプの忍び。
居心地のいい狩場では手ぐすねを引いて待つだけ、ゴロ寝してして酒飲んでる様な奴らではまず無理。
更に、巣ではチャクラをぼかすモザイク香が焚いてあるから、多少の忍術を使っても目立たない。
・・・・・まあ、そこが盲点でもあるんだけど。 こうやっていざ巣を占拠されても気づけないんだ。
敵にも気づかれにくいけど、味方にも気づかれにくいって事。 チャクラ刀も振るいたい放題だけどね。
屋根伝いに中庭に降り立ち、裏口から侵入。 人の気配を感じたら手当たり次第に狩って行くだけ。
誰が一般人の奉公人で、誰が奉公人のふりをしている潜入員か。 そんな事、考える必要はない。
ここに居るのは、敵忍に不本意ながら操られている者、意に反して木の葉を裏切った者、のどっちか。
逃げ出そうとしたり、助けを求める為に怪しい動きをした者は、すぐに殺されてしまっただろうから。
意識のあるまま他里の忍びの手駒にされている同胞は、なにかしらの術にかかってしまっている。
言う通りにすれば殺さない、などと根拠のない嘘を信じて、敵忍に従っている一般人もいるだろう。
そういう一般人の命を盾に取られて、自ら潜入員だと名乗りでた同胞は早々に殺られているはずだ。
里にそうとは知られない様に式を飛ばした深月上忍も、あの様子じゃ呪印を施されいるに違いない。
仲間を助ける賭けに出て、見事に彼を店から追い払った優秀な潜入員の遺志を、決して無駄にはしない。
イルカさんはきっと、あなたの気持ちを感じ取っているでしょうね、ボク達は恨まれたっぽいけど。
どうせ後で全て燃やす。 首だけを残して、とか。 どの死体だけを残して、とか。 一切気にしない。
そんなボク達の周りに、元夢やの奉公人だった死体が出来ていくけど、血臭も気にしなくていい。
殺戮が行われてるこの場所は、血臭が漏れない様にわざわざ敵忍が仕掛け直しているだろうからね。
「私はお茶を入れてくれと頼んだだけだよ? 遅いと思ったら二人しておしゃべりかい?」
一階にいた者を一掃した頃、夢やのご主人 深月上忍が、階段を下りてきてボク達に向かって言った。
“すみません、遅くなりました でも支度は全て出来ていますから すぐに上へ持っていきます”
そう答えたボク達に深月上忍は笑った。 そうか、これでやっと全部が終わるんだな、という顔で。
ボクの足元にある元奉公人だった死体。 胴体から少し離れたところにある首を確認した深月上忍。
きっと潜入員の一人なんだろうな。 その眼差しには、仲間を守れなかった事への懺悔が浮かんでいた。
この上に、二階に敵忍が全員揃ってるんですね? そう指文字を送ろうとして深月上忍に近づいたら。
「こらこら、ずぼらをするんじゃない、自分で運びなさい。 主人を使おうだなんて百年早いぞ?
ははは! ああ、私は茶菓子はいらないよ、五個でいい。 用意が出来たら持って行っておくれ。」
と即座に言われた。 ・・・・・触るなという事だな。 深月上忍に触れると呪印が発動するんだろう。
敵忍は五人か。 そうか。 ボク達 木の葉の忍びは、潜ってる忍びに表で接触する時に指文字を使う。
腕や背中、手の甲など。 断続的に触れる事によって意思を伝えるんだよ。 モールス信号の様にね。
きっと殺されてしまった仲間も、指文字を深月上忍に送ろうとしたんだろう。 だからバレたんだ・・・・。
深月上忍は、木の葉の忍びを発見するセンサー代わりに利用されているんだ。 ・・・・辛かっただろうな。
こうやって動いたり、話したり、書いたりは出来るけど。 敵忍に関わる事は何一つ漏らせない。
そういう事への自由は禁じられているんだろう。 当然ながら自害する事も出来ずに。 最大の屈辱だ。
階段を上る深月上忍に着いて行く。 廊下を歩いている途中、着物の袖に両手を入れる仕草をした。
ほんの一瞬。 すぐに両手を袖から出し、そうしてまた、何事もなかったかのように歩き始めた深月上忍。
ボク達はその仕草をした所が、ある部屋の前だと確認する。 あの部屋に・・・・ 敵忍がタムロしてるのか。