愛する事が罪ならば 19
@AB
CDE
FGH
IJK
LMN
OPQ
S
目の奥の痛みが消えるどころか。 今にも泣くんじゃないかと思うぐらい苦しそうだった。
やっぱり無理だったか、分かってたけど。 背負ってる重みを少しでも軽くしてあげたら、なんてな。
だいたいなんだ、泣くもんかと誓った傍から、あんなにビービー泣いて。 馬鹿じゃないのか、俺。
違いすぎるんだろうな、場数が。 そりゃそうか、暗部の部隊を束ねる長だもんな、二人は・・・・。
「店先に・・・・ 撒いてきますね、魔王。 深月上忍、これしか飲まなかったんですよ。」
夢やを燃やしている炎を二人が制御している間、俺は皆の為に清め酒を店の周りに撒いた。
店にいた奉公人は全員覚えてる。 皆の笑顔や笑い声を思い浮かべながら酒を撒く。 そして。
上品な物腰で町の皆から尊敬を集めていた深月上忍、あの優しそうな呉服屋のご主人の事を。
自分は木の葉の忍びだと誰かに話したとしても、冗談だと思われるぐらい、超ベテランの潜入員を。
「あなたの元で任務に就けてよかった・・・・ 色々ご指南、ありがとうございました。」
「またこの町の近くに来る事があれば、ぜひ、かない酒店に寄って下さい。」
「ま、今後オレ達自身が来るコトは絶対にないけどネ。 部下に寄らせるヨ。」
「うん。 魔王・・・・ だっけ。 買って深月上忍の墓石にかけてあげるよ。」
「ありがとうございます。 深月さんも、他の潜入員も、皆喜びます。」
「「・・・・・・・・・じゃあ。」」
「・・・・・・今度こそ、任務完了、お疲れ様でした。」
「「・・・・お疲れ。」」
任務を遂行しただけじゃなく、当事者だからと中忍の立ち会いも認めてくれた。 感謝し足りないよ。
普通だったら、任務遂行の邪魔だ。 大人しく引っ込んでたほうがよかったに決まってる。 なのに。
何でもいい、そんな立派な忍び達に・・・・ 少しでも何かしたかった。 これも俺の自己満足だ。
結局俺がした事は、皆を偲びながら酒を撒くだけ。 二人の痛みを和らげる事はできなかったな・・・・。
こんなに辛い気を纏っている二人に・・・・ ん? こんな重苦しい気を・・・・・ あれ??
お疲れ様でした、の後は? 俺はかない酒店の従業員に戻り、お二人も里へ帰還する・・・・ はず。
二人の気配がしたまま・・・・・・? おかしい。 一向に立ち去る気配がない。 ・・・・・・・。
「あの。 ・・・・・・・カカシさん、テンゾウさん。」
「「?!」」
「どうかされましたか? もしよかったら・・・・ あの。 店に寄って行きますか?」
なんだ、その驚き方。 そういや、俺が酒持って中庭に待機してた時もそうだったっけ。
人の顔を見るなり、硬直しちゃって。 もしかして俺、警戒されてる? ・・・・な、訳ないよな。
そりゃ一年前、そんな偉い人達だと思わなかったから、無理やり服を着替えさせたりしたけど。
返り血を気にしてるのかな? お二人が気配殺して移動すれば、誰の目にも止まらないのにね?
「 な・・・・ なんでまた戻ってくるんですかっ! イルカさんっ! 」
「 チョット! そのままかない酒店に帰りなよ、従業員でショ?! 」
「・・・・・・・くすっ! そのセリフ、今日二回目ですよ? ・・・・ふふふふ!」
「「 ぁ、笑った・・・・ 」」
「ああ、ごめんなさい、つい。 お二人が・・・・・ っ?!」
なんだかなぁ。 同じようなセリフ、一日二回もダブルで言われる俺って・・・・ へ??
な・・・・・ に? なんで・・・・ そんなに・・・・・ 嬉しそうに・・・・ して・・・・。
・・・・・・・・。 俺。 ひょっとして思い違いしてた? 辛そうに、苦しく見えたのは・・・・。
そ、そんなことあるはずないよな? だってお二人は、その名を知らぬ者はいない暗部の四天王だ。
しかも戌部隊と猫部隊は、三代目火影の両腕部隊と称されてるんだぞ? そこの部隊長達だ。
・・・・・それこそ寄ってくる女はゴロゴロいて、入れ食いで、羨ましいぞコノヤロー、ぐらいの・・・・
自惚れ屋で申し訳ないんですけど。 いわゆるトキメキはにかみ顔に見えるんだけど。 気のせい?
面を取ったのは俺だけど、でも。 もしそうなら? 俺が痛みの原因なら? なんだよ、もうっ!!
俺って、モヤモヤするのが嫌いなんだよっ! 声を思い出せなかった時もそうだったけど、うぅ〜っ!
「あの、度々恐れ入ります。 無礼を承知で・・・・ よっ! えいっ! あれ??」
「「 ぎゃぁーーーーっ!! ストップッ!! 」」
「・・・・・・ぶっ!! なにもそんな全身で拒絶しなくても・・・・・ あははははっ!!」
「「・・・・・・・・・・。」」
いや、ちょっと抱き着こうとしただけなんだけど。 思いっきり避けられた。 かすりもしないよ。
確かに全身で拒絶してるんだよ、触れさせもしない。 なのに目がな? めちゃくちゃ嬉しそうなんだ。
あんなに辛そうだった目の奥の痛みが、俺が近づくと一瞬消える事に気が付いた。 俺が傍に行けば。
・・・・・・・・。 あー こりゃ決定打だな。 なんかしらんが俺・・・・・ 惚れられちゃってる?
「・・・・・・・・わかりました。 そういう事ですね? 任せて下さい。」
「「・・・・・・ぇ、なにが??」」
「首を洗って待ってて下さいよ? ・・・・・・では!」
「「え?! えー?! ちょっとっ! イルカさんっ! 」」
二人の痛みを取る方法が分かった。 こんな嬉しい事があるか? しかも原因は俺、俺だぞ?
例え二年と少ししか市井に潜った事がない潜入員でも。 決めた。 俺、潜入期間の短縮を要請する。
夢やに通っていたらしい、深月上忍の巣に出入りしていた潜入員か? きっとこう言ってもらえるから。
俺にしかできない事、俺だけがお二人の力になれる・・・・・ 深月さん、三代目、いいですよね?
「嘘でしょう? ・・・・カカシ先輩。 イルカさん・・・・・・ 行っちゃいましたよ?」
「ウン、行っちゃったネ・・・・ イルカさんって。 ハグとかしちゃうノリだったの?」
「イルカさんの後姿を目に焼き付けておこうと思っただけなのに・・・・・。」
「触れちゃったら歯止めが利かないじゃないのサ! なんなの、もうっ!!」