愛する事が罪ならば 5
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配達先で見聞きした事、最近の催し物、流行。 こんなもんでいいかな、よし、報告が纏まった。
呉服屋 【夢や】に配達がてらこの報告書を渡せば、 荷物と一緒に木の葉の里へ届けてくれる。
夢やはこの商業街にある木の葉の巣なんだ。 超ベテランの潜入員、深月〈みつき〉上忍がいる。
木の葉の潜入員は一週間おきぐらいに近況報告書を里に提出するんだ。 内容はどんな事でもOK。
重要かどうかは、里の情報分析部が判断する。 膨大な情報の中から判断するんだ、凄いよな?
そういう考え過ぎて頭が痛くなるような事は、俺には不向き。 かといって忍術もなぁ・・・・
秀でているモノが今一つ欠けてるんだ、俺。 まあ、バランスがいいっちゃ、いいんだけど。
唯一の取り柄は人と話すのが大好きな事。 だから中忍になってすぐ、潜入員になったんだ。
もしも。 もしも俺に何かあっても、里から離れた町でなら、誰の足も引っ張らないだろ?
それに、長く潜って情報収集すればするだけ、木の葉の役に立てる。 ほんの些細な情報でも。
たくさんの人と話して、たくさんの情報を里に報告する潜入任務は、誰にも迷惑をかけない。
俺達 潜入員が市井で殺されたら? 一般人に溶け込んでいるのだから一般人として死ぬだけ。
骨だけになっても、いつか里の仲間が墓を掘り返して、ちゃんと木の葉に戻してくれるんだ。
潜入の任期は三年。 火の国の商業街、大名 大津様の治めるこの町に潜って、もう二年になる。
この町の巣を統括してる上忍の深月さんは、一体どれぐらいの期間、潜ってるんだろう?
とにかく凄い人なんだ。 どこからどうみてもバッチリ呉服屋のご主人、って感じの上品さ。
いやー あの上品さは・・・・・ ちょっとやそっとじゃ身につかないぞ? 俺なんて絶対に無理!
まあ、無い物強請りという事で! 逆に深月さんが酒店の配達係、なんてのは想像できないしな!
今んとこの俺の目標は、深月さんみたいに “とても忍びには見えない” と言わせる忍びを目指す事!
よーし、配達に行こう。 深月さんの好きな焼酎 魔王は・・・・ と。 あった! これこれ!
旦那さーん! 夢やのご主人から焼酎のご注文を受けました! 俺、今から届けてきますねー!
こうして酒を配達がてら巣に行き繋ぎをとるんだ。 酒は深月さんへの差し入れも兼ねてる。
代金は必要経費で里に請求。 偽の職を持ってる俺達 潜入員は、現金収入がちゃんとあるから。
早い話が、必要経費で買った物は、任務受付所で受け取る任務報酬の現物支給版のようなもの。
どうせもらうなら、好きな物が良いよな? 深月上忍は、この焼酎 魔王が大好きなんだ。
「毎度どうも! かない酒店です! ご注文の魔王、入荷しましたのでお届けに上がりました!」
・・・・・・? あれ? おかしい。 いつもなら、待ってましたとばかりに飛び出してくるのに。
お、出てきた! ・・・・・・けど。 なんか・・・・・ いつもと表情が・・・・ ??
珍しくむすっとしてる。 上品なお顔が押し黙ると、結構迫力あるのな? えっと・・・・・??
「うーん。 魔王は頼んでない。 ・・・・・私が注文したのは“閻魔王”だ。」
「え゛?! ・・・・もしかして聞き間違って・・・・・ うわっ!! ご主人、すみませんっ!!」
「まあこれでもいいですけど。 でも“閻魔王”が入荷したら必ず持ってきて下さいよ?」
「はいっ! それはもうっ!! あの、魔王のお代は結構です、うちのミスなんで・・・・・」
・・・・・・・絶対に変だ。 深月上忍は魔王が大好きで、この銘柄しか飲まない。 閻魔王なんて・・・・
そんな銘柄聞いた事ないぞ? ・・・・・閻魔王?? ・・・・・・・・・。 猿魔か?? 猿魔の事?!
三代目の口寄せ獣が猿猴王と呼ばれる老猿、猿魔だ。 ここにあの目立つ口寄せ獣、猿魔を呼べって事?!
いや、ちょっと落ち着こう。 そんな訳はない。 これは・・・・ これはまさか・・・・・・・・・。
“必ず持って来い” ・・・・・三代目に・・・・・・ 知らせなきゃ。 何かが起こってる、夢やで。
そう感じた時、がさごそと何かをしていたなと思ったら、深月さんが三千両を番台の上に置いた。
「商売人はタダで取引はしないものだ。 お代は支払いますよ、ここに置いておくから。」
「いや、でもそれは・・・・。 うー ありがとうございます・・・・。」
「誰にでもミスはある。 幻の銘酒といわれている“閻魔王”の入荷、楽しみにしてるよ?」
「ははは・・・・・ いやー さすが夢やのご主人です。 入荷したら即お届けしますよっ!」
「・・・・くす! 君はいつも元気だね。 じゃぁ。」
「はいっ! それだけが取り柄ですっ! ではっ!」
そう言って、深月さんは店の奥に消えた。 ただでは取引しないのは商売人だけじゃない、忍びもだ。
誰にでもミスはある、と言った深月上忍。 ベテラン潜入員の深月上忍ですらミスをしたって事?
お金は商人にとって命と同じぐらい大切、だから必ず手渡しする事。 そう教えてくれた深月さん。
これを持って帰りなさいとばかりに、現金を番台に直接置くような真似は・・・・ 絶対にしない。
自分に触れるな、という事だ。 深月上忍にもし少しでも触れたら何かが起こるんだ、きっと。
番台に置かれた三千両を財布にしまい、ペコリとお辞儀をして夢やを出た。 ・・・・・非常事態だ。
あの深月さんが現金を番台に置いた事が決定打だ。 巣に・・・・・ 夢やに他里の忍びがいる。
夢やで働いている普通の人達は? 深月上忍と一緒に潜っている他の潜入員達は無事なのか?
木の葉の中忍として。 せめて店の中にいる敵忍の数だけでも・・・・・ 調べた方がいいんじゃないか?!