愛する事が罪ならば 15   @AB CDE FGH IJK LMO PQR S




『へ? 市井に三年間って。 あの、俺まだペーペーで・・・・ 大丈夫でしょうか??』
『新人の潜入員にはおあつらえ向きじゃ。 お主が潜るのは長年安定しておる巣じゃからの。』
『そんなベテランの潜入員が・・・・。 嬉しいです! 俺、その人から色々学びたい!!』
『ほほほ! 何事にも前向きのお主なら臆せず、そう言うと思おておったぞ?』

『あ奴の統括しておる巣は、呉服屋を装っておる。 【夢や】というてな? なかなかに・・・・』


火の国の大名 大津様が治める土地の商業街にあって、誰もが一目置く強固な木の葉の巣、だそうだ。
そこを統括している木の葉の忍びは 上忍 深月コヤタ。 優秀な潜入員をたくさん育てているらしい。
自分は夢やに通っている、とその巣の名を出すと、それだけで他の潜入員の信用を勝ち得るほど。

たとえ里に長期間戻れなくても、そんな人物と一緒に任務に就ける自分が誇らしかった。
任期が終わって木の葉に戻った時、“三代目、俺の成長を見て下さい”と胸を張って言えるから。
俺は二年前、そうやってこの潜入任務に就いた。 たくさんの人と関わって、多くの事を学んだ。

そして、完全な平和は存在しないと知る。 いつも通りの日常は、すぐに崩壊するほどモロイものだと。
いつ、どこで、誰が。 それを予想できないからこそ、こうやって情報収集しなくちゃならない事を。



泣くな、泣くんじゃない、と自分に言い聞かせる。 俺を生かしてくれた深月さんの名に傷がつく。
お前が夢やに通っていた潜入員? それであの深月上忍の下に就いていたのか? そう言われない様に。
緩い自分の涙腺が恨めしい、今にも溢れてきそうだ。 俺が泣いたところで何も変わらないのに。

俺を含めてここに出入りしていた他の潜入員の安全の為、きっと夢やは裏切り者の烙印を押される。
木の葉の暗部が他里と呉服屋との内通を知り、皆殺しにしたと。 きっとそう公表されるはずだ。
一体どんな思いで・・・・ あの二人の暗部はこの任務を遂行したのか。 苦しい・・・・ 胸が痛い。



一般人も同胞も深月上忍も。 当然、ここを占拠していた敵忍も狩りの対象。 誰一人の例外もなく。
綺麗に首が落とされている皆の遺体をこの目で見た。 痛みを感じる事もなく一瞬で逝ったはずだ。
俺には結界の張られたあの部屋で・・・・ 何が起こっていたのかは皆目見当もつかないけど。
これだけは分かる。 こういう任務をこなすあの二人の暗部が、素晴らしい忍び達なのだという事を。

俺に出来るのはせいぜい、皆の魂の清め酒を撒く事ぐらいだ。 それに比べたら・・・・・ くっ。
泣くもんかと思ってるのに、どうして涙がでるのか。 悔しい、ただ泣くだけしかできないなんて。
言うんだろ、“お疲れ様でした”って。 そう言おうと思って、店に酒を取りに戻ったじゃないか。

ゴシゴシと袖で涙を拭いた。 こんな情けない顔じゃ笑われる。 あの二人にも深月さんにも。



もの凄く辛そうに見えた。 全部背負い込むのが自分達の役目だ、と言わんばかりの重い気を纏って。
何ですかその、あからさまな様子は。 俺がここに居る事が、そんなに驚くような事ですか?
なんというか・・・・ 二人して仁王立ちだ。 今にもその手から、ポトリと忍刀を落としそう。



「・・・・俺、戻って来ちゃいけませんでしたか? 店には酒の追加注文だと言ってあります。」
「イヤ。 いけないなんてそんなコト・・・・ 思ってないヨ。 ただビックリしただけで。」
「丁度ボク達も・・・・ 君に会いに行こうと思ってたんだ、全部燃やした後で。 だから。」
「わざわざ俺に?! ・・・・・・・?? あ・・・・れ?? ちょっと待って下さ・・・・??」

この声・・・・ どこかで聞いた声だと思ったのは気のせいじゃない。 やっぱり聞き覚えがあるっ!
・・・・・・・。 すみません、失礼なのは承知ですが、あの。 もしや以前お会いした事あります?
あの、ほんとすみません。 俺・・・・ モヤモヤするのが嫌いで・・・・・ その・・・・

「失礼しますっ! よっこいせ・・・・・ と。    ぁ・・・・」
「「 ?! なっ・・・・!!! 」」
「 ああ、やっぱりっ!! あの時のド派手な上忍っ!! 」

チョ・・・ チョト、アンタ! なんなの、イルカさんっ!!
いきなり人の面を持ち上げて・・・・ 何するんですかっ!!



うわっ! 名前まで覚えててもらったのに、俺・・・・・ どこかで聞いた事あるな、だなんて最低だ。
・・・・・そうか、あの時は確か四人一緒。 一人が女性、後の三人は男性、全員が暗部だとしたら。
犬の面と猫の面。 この二人が暗部の戌班と猫班の部隊長なら、あの四人は。 暗部の四天王?!

・・・・・間抜けにも程がある。 暗殺戦術特殊部隊の部隊長達に・・・・・ 注意しちゃったの、俺?!
い、いや。 それはもう時効という事にしてもらおう、うん。 知らなかったしな? いいよな?
それよりもだ。 この二人があの時の上忍だと分かってスッキリした今。 どうしても言いたい。

「暗部 戌猫両部隊長。 殲滅任務・・・・・・ お疲れ様でした。」
「「イルカさん・・・・。」」
「この酒・・・・・ぁ、あれ? おかしいな・・・・ 止まらない・・・ なんで・・・・・」
「「・・・・・・・・・・・・。」」
「これも、すみません、俺、涙腺弱く、て・・・・ 情けない、ですよね、はは、は・・・・ っつっっ!」

馬鹿、泣き止めっ! 声を忘れてただけじゃなく、更に輪をかけて泣いちゃうなんて! 失礼だろっっ!!