愛する事が罪ならば 6
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もしかしたら、普通の奉公人や奉公人のフリしてる潜入員を人質にとられているのかもしれない。
さっきの深月さんの態度は尋常じゃなかった。 でも中の人質を助け出せば深月上忍なら・・・・
そうだ! 木の葉の里には式を飛ばして俺は・・・・ いや、こんな店に近い場所で式は飛ばせないな。
早く木の葉に連絡を取りたいけど、どこの里の忍びか、それすら分かっていない。 どうしよう・・・・
夢やを出てたはいいが、まずどう動くか。 それを考えていたのが店から出てわずか五歩の間。
とにかく敵忍のおおよその数だけでも調べようと思い、壁伝いに屋根へ上がろうと上を見上げた時。
逆光になって分からなかったけど、二つの影が見えた気がした。 敵忍?! まずい、誤魔化そう!
「ぅー 魔王と閻魔王を聞き間違えるなんてっ! ご主人が良い人でよかったけど・・・ 馬鹿っ!」
これでなんとか、店を出たところで一人反省会をしている酒店の従業員、って感じに見えたかな。
危なかったなぁ・・・・ 呉服屋の建物内には、うかつに侵入はできないのかもしれない・・・・・
忍びの動体視力でしか判断できないけど、間違いなく人影だった。 屋根にまで見張りがいるなんて。
夢やが完全に占拠されているという事だ・・・ 俺は木の葉隠れの中忍だろ?! しっかりしろっ!
上手く敵忍の目を誤魔化したつもりだった。 かない酒店に戻るフリして、忍び込もうとしてた。
せめてどこの里の忍びか、それだけでも情報を掴んでから、里に式を飛ばそうと思っていた。
何の気配もしなかったんだ、本当に。 突然背後を取られ、口元を塞がれた。 しまったっっ!!
「すみませんね、そのままで聞いて下さい。」
「動かないで。 里には知らせなくてイイ。」
見張りの敵の忍びに見つかったと思い覚悟を決めた俺の耳に、どこかで聞いた事のある声が響いた。
俺の口を塞いで拘束したのは、二人の忍び。 敵などではなく木の葉の忍びで、しかも暗部だった。
暗部に知り合いなんて・・・いや、そういう事じゃなく。 暗部が動いたって事は・・・・・・・・?
「もう木の葉の里は夢やの陥落を知っています。 だからボク達が来ました。」
「察するところ、中に忍び込もうとしてたみたいだけどサ。 それはやめてネ?」
「中には普段通り奉公人もいて・・・・ 潜入員も・・・・ あの、それから深月上忍もっ!」
「「・・・・・・・知ってる。」」
「?!」
どういう事だ?! 暗部、それもこの面は・・・・・ 部隊長クラスだ。 暗部の部隊長が二人?
中に同胞が何人もいて、一般人もいるというのに、二人だけ?! いくら部隊長クラスでも・・・・・
・・・・・?! もしかして。 巣の奪還の為の応援じゃなくて・・・・ この場所の殲滅の為?
・・・・・・・・・。 深月さんや他の潜入員や・・・ 一般の人達も誰一人例外なく・・・・?!
「・・・・だったら。 だったら俺もこの町の潜入員ですっ! 俺も一緒に・・・・」
「あのサ。 そんな簡単に一緒に殺してくれだなんて言わないでくれる?」
「それを言うなら、そんな簡単に救う事を諦めないで下さいっ! 俺も協力しますから!!」
「・・・・・・・・・・残念ながら、それは無理かと。」
「そんなっ!!」
何の気配もしなかったけど、一体どこから見てたんだろう。 夢やののれんをくぐった時か?
あの会話の一部始終を聞いていた? だったら深月上忍の意識はしっかりしてると知ってるはず。
中に誰が何人いようがお構いなし、という事?! ちょっと待てよ、違うだろ! そうじゃないっ!
暗部のどの部隊であっても殲滅任務は何も残さないのが常。 でもそれは最終手段であるはず。
中忍が一人手伝ったからといって、どうすることも出来ないほど事態は悪化してたという事だ。
ミスをしたと臭わせたあの会話・・・・・ 俺に現金を手渡ししなかった深月さんは・・・・・ もう?
「俺は・・・・・・ くっ!」
「・・・・さっき深月上忍はあなたの命を助けたんですよ? それがわかりませんか?」
「ナニもたもたしてんの? 行きなヨ。 アンタの仲間に対する誠意はそんなモン?」
「?! ・・・・・・くそっ!!」
殲滅任務に来た暗部を責めてどうするっ! 今まで同じ町にいて気づかなかった己を責めもせず。
一週間前は普通だった。 普通に魔王の差し入れを喜んでくれていた深月上忍。 気づけなかった。
俺は・・・・ あの人が敵の手に堕ちるなんて事、考えもしてなかった。 完璧な人間はいないのに。
この二人もそうだ。 完璧な人間に見えるけど、本人の意識がある同胞を殺して平気なはずはない。
・・・・・・くそっ! 悔しい。 本当ならご武運を、と送り出したいのに。 声が、出ない・・・・
今声をかけたら、間違いなく泣いてしまう自分が嫌だ。 すみません、こんなみっともない中忍で。
分かってる、深月上忍は俺を助けてくれた。 その深月上忍に対する誠意? あるに決まってる!
もし深月さんに触れていたら・・・・ 多分、なんらかの術が発動して俺の正体がばれたんだろう。
生き延びる事、生きて・・・・・ 同じ間違いを犯さない事、それが今の俺に出来る唯一の事だなんて。
敵に監視されてるだろう中で、俺を助けてくれた深月さんの好意を・・・ 無にする訳にはいかない。
もし自害する前に敵の術の支配下に置かれたなら、深月上忍は死を望むだろう。 あの人はそういう人だ。
自分が悔しいからと言って勝手に動き、暗部のその任務の邪魔になるような事はしちゃいけない。
俺は悔し涙をこらえるのに必死で、一礼するのが精一杯。 聞き覚えのある声だという事を忘れていた。