土の国 岩隠れの里へ戻る途中だった。 情報収集がてら火の国の商業街に寄って行こうと隊長が言った。
そこで探していたアイツを見たのは、ほんの偶然。 俺が・・・・ あの男の顔を忘れるはずがない。
親切面して、俺を逃がしたあの男。 木の葉がいかに寛大なのかを示す為だけに、俺を生かした。
俺の親父の仇。 卑怯な手で同胞を殺した癖に、子供を柔軟して誠実さをアピール？ 笑わせる。
国外に任務で出る度に調べ回った。 特に火の国の町では。 見つけるのに苦労したはずだ。
それもそのはず、ヤツは市井に潜る潜入任務に就いている忍びだった。 潜入員か、なるほど。
どうりで人を欺くのが上手い訳だ。 子供の思考など、ヤツにとってはいとも簡単に操れただろう。
他の忍びなら誤魔化せただろうが。 あの日、親父や仲間を騙し討ちされた俺の目は誤魔化されない。
呉服屋の主か。 なんとも堂に入った芝居だな？ でも間違いなくこの男は、あの時の木の葉の忍び。
山から下りた岩の者だと言ったら、瞳が揺れた。 俺があの時の子供だと、やっと気づいた様だ。
お礼を言いたいと言えば、お茶を飲んで行けときた。 一度は騙されそうになったが二度目はない。
この時を夢みて会得した術だ。 因果応報の言葉通り、今度はこの俺があんたを操ってやるよ。
俺に背中を向けた瞬間に呪縛思身の術を発動した。 木の葉の上忍をこんな簡単に縛れるとはね？
「隊長！ この呉服屋、木の葉の巣ですよ。 この男、潜入員です。」
「なに？！ ・・・・おい、おい、おいっ！ これは超特別手当モンだぞ、おいっ！！」
「じゃあ、当然寄り道・・・・ ですよね？」
「「賛成っ！！」」
「おうっ！ ヤバくなるまで狩りまくるぜ！」
「ヤバくなったらこの店、全焼させればイイだけだしね！ おれらは退散ｖ」
「まじっすか？！ 木の葉の忍びの首、何個ぐらいイケますかね？」
「マフユの呪縛術？ すげー！！ どんな効果？？」
「旦那様、お客様ですか？」
「？！ 来るなっ！ こいつらは岩忍で私は・・・・ ？！ なっ！！」
「ぁがっ！！ ぅ・・・・ 旦那・・・・ 様・・・・・」
「どういう事だ・・・ これは・・・・ すまない ・・・・・・私は・・・・・・」
これが呪縛術の効果です。 俺達関連の話をすると、一番近くにいる奉公人を殺したくなるんです。
呪縛思身の術、俺のオリジナルです。 ちなみに木の葉の忍びが主人に触れたらどうなると思います？
そいつの首をその場で落とすんですよ、この上忍が。 そういう行動に出るように縛りました。
「目標は二十人。 俺達はここで飲んで食って騒いでればいいだけ。 今、最高の気分ですよ。」
「でかした、マフユ！！」
「「「やっほーｗ」」」
「・・・・・・・・・。 (そうか、そういう・・・・ 術か・・・) 」
俺達 岩隠れの忍びを卑怯な手で陥れた報いは受けてもらう。 二十人をあんた自身の手で殺すんだ。
楽しみだよ、最初の獲物は誰だろうな？ 親父や仲間の仇、借りた借りを返すのが忍びだからな。
あの時、木の葉の騙し討ちで殺されたのは二十人だ。 二十人の木の葉の忍びを血祭りに上げてやる。
当事者には知る権利がある・・・・ ね。 なるほど、その通り。 里の上層部も教えてくれたよ。
お前はもうすぐ忍びになるのだから、本当の事を知っておくのだ、子供は利用され易いからと。
あの時、俺はまだ下忍にもなってなくて、危うくアイツの仕組んだ策略に乗せられるところだった。
里の上層部は、お前は宣伝の為に生かされたのだと教えてくれた。 木の葉の汚い手口を隠す為だと。
第三次忍界大戦終戦直後、退却する岩隠れ本隊の血路を切り開いた囮部隊を、木の葉が全滅させた。
退却を容認しているから抵抗は止めろ、と油断させておいて、囮部隊を誘き出し殺したヤツら。
あんたら暗部には、卑怯といってもいまいちピンと来ないだろう。 汚い手口は常日頃からだしな？
親父やあの時死んだ仲間は、同胞の為に囮になった勇敢な忍び。 俺は仲間の無念を晴らしただけだ。
呼びかけを信用して出て行った無抵抗の忍びを、楽しんで殺したそうだな？ 終戦協定のどさくさで。
「フ～ン？ ・・・・・で？ 他に言っとくコトはある？」
「俺一人でいいだろう、仲間は岩に帰してくれ。 まだ二十人に満たないが報復は止める。」
「今度はそれが交渉条件ですか？ 冗談でしょう。 深月上忍の命よりもっと価値がない。」
「アイツは俺の親父を殺した！ お前らだって今、報復に来てるじゃないか！ どこが違うっ！！」
「当事者には知る権利がある、それは正しい真実を、というコトだーヨ。」
「その場にいなかったヤツがさも事実の様に話す事は、真実とは程遠い。」
「バカだネー 部隊の生き残りだったのに、ものの見事に洗脳されちゃってまぁ。」
「おかしいと思ったんですよ。 深月上忍ほどの潜入員が隙を作るはずがないと。」
・・・・洗脳だと？ 何を言っているっ！ とにかく殺すなら俺一人で十分だろうっ！！
あんたらのお目当ては、あの上忍に術をかけた俺だけなんだからっ！！ 殺すならさっさと殺せよっ！
