愛する事が罪ならば 14
@AB
CDE
FGH
IJK
LNO
PQR
S
この町にいる潜入員は、何も彼だけじゃないのに。 当事者だからと全てを知らせようとしている。
どうしてもイルカさんには知っていて欲しいから。 裏切り者として公表しなければならない訳を。
あの時の瞳が忘れられない。 君に出来る事は何もないと言った時の、あの目。 彼は感情の塊だ。
ほんとまいった。 諦めるな、まだ間に合うだろう?! って。 あんな信頼の視線で怒鳴ったり。
自分に出来る事はないか、自分もこの町の潜入員なのだから皆と一緒にと・・・・ 望んだり。
暗部の仲間内ではない他の誰かに、正規の忍びに知って欲しい、こんな感情は初めてだよ。
一年ぐらい前、この町で接触した潜入員に、声を覚えてもらってなかっただけで、淋しかったりね?
あの時は、アズサさんの部下の弔いを兼ねての飲み会。 なるべく他の事は考えない様に・・・・・
無意識に防衛線を引いたのかもしれないな。 もっと知ってしまったら、こうなる気がしたから。
・・・・ははは。 ボク達、三代目に話を聞かされた時からずっと、彼の心配ばかりしてましたよね。
着いてすぐ、巣の清掃任務を実行に移さなかったのは・・・・ それは彼を殺したくなかったから。
さも、深月上忍に感謝しろ、と言わんばかりの態度だったけど、異変に気付いたのはイルカさんだ。
本人の望みなら死なせてもいいのに。 仲間の遺志を無駄にするなと、深月上忍の名を出してまで。
彼に生きていて欲しかった。 なんの事はない、ボク達自身がイルカさんを殺したくなかっただけ。
「巣がいつもと違うと感じとって店を出てくれた時は、単純に嬉しかったケド・・・・」
「深月上忍にかけられた呪縛術の効果を知って・・・ 正直、ゾッとしましたよ。」
「・・・・ウン。 目の前で・・・・ イルカさんが死んでたかもしれない、なんてサ。」
「多分・・・・・ 失うと同時に気付いたでしょうね、今のこの感情に。」
動揺してしまうよ、絶対。 敵と対峙してる時、少しでも躊躇すれば間違いなく自分が殺される。
ボク達は暗部、冷静に状況を把握して相手を確実に殺すのが任務なのに。 無理だと、そう思った。
もっと早くに気付くべきだった。 仕方ないんだ、それはボク達が意識的に避けていた事だったから。
・・・・特別な感情だよ。 この人だけは失いたくない、この人だけには分かって欲しいだなんて。
深月上忍に感謝しなければならないのは、イルカさんだけじゃない。 ボク達も。 ボク達こそだ。
これはカカシ先輩の受け売りだけど。 今また、誰かの命の上に命が成り立ってるのを実感してる。
イルカさんの命を未来に繋げてくれた深月上忍。 認めてしまえば納得だ。 ああ、これが愛なのかと。
これを求めちゃいけないのか、もの凄く・・・ 辛いな・・・・・ うん、確かに罰だ。 ボク達への。
ボクもカカシ先輩も、アズサさんもカオルさんも。 いや、ボク達 暗部は自分に課している枷がある。
“特別な愛は求めてはいけない” それがボク達に対する罰。 いつも誰かの愛する命を奪うから。
誰かを愛さない事でボク達は殺しを正当化する。 人によっては良心などと呼ばれるモノ、心の枷。
罪は罰を受ける事で浄化されると巷ではよく言うよね。 それしかボク達を罰するものがないんだよ。
心に枷をはめていれば、良心を失わない、人でいられる・・・・・ そう思いたいだけかもしれないけど。
だからイルカさんを求めない。 ただ・・・・ 彼の喜ぶ顔が見たい。 悔しそうな顔じゃなく。
「同胞を殺したコトには変わりないのにサ。 嫌われてもイイから伝えたい。」
「当事者に伝えに行ける、彼に今からまた会える・・・・ そう思うだけで・・・」
「ヘンだよネ、コレ。 嬉しいだなんて。 優秀な潜入員が何人も死んだのに。」
「ええ、加えて里の同胞が八人も狩られたのに。 会う口実があるのが嬉しい。」
ボク達は犠牲になった八人の首を木の葉に持ち帰る。 夢やを占拠していた岩忍の首と同じくね。
けれどこの五つは、彼から三代目に手渡した方がいいと思う。 里に連れて帰ってあげて欲しいんだ。
この町に潜ってた潜入員の額当てを。 自分にも何か出来る事はないか、そう望んだイルカさんの手で。
ほら、やっぱりボク達は卑怯だ。 そうすればイルカさんが喜ぶかも・・・・・ なんて考えてるんだから。
深月上忍達の為に、弔いの酒を選んであげて欲しい。 こう相談すればもっと喜ぶかも、とかね。
特別な感情、誰かを愛するという気持ちを知った。 同時に、なぜそれが罰になるのかという事も。
彼からの愛は求めてはいけないと分かっているよ。 だたボク達が彼を勝手に愛するだけだから。
この胸をえぐられるような辛い思いが永遠に続くのか。 これがボク達の罪に対する償いなんだね。
イルカさんを愛する事を受け入れて、イルカさんを求めちゃいけない事も受け入れた。 心に枷をはめる。
彼にはただ生きていて欲しい、それだけでいい、他には何も望まない。 この胸の痛みを受け入れる。
吐きだせない思いは渇き、求められないジレンマは苦痛。 ボク達にとって想像以上に辛い枷だよ。
「?! ・・・・・・・まさか。 なんでまだここにアンタが居るの?!」
「イルカさん・・・・ どうして。 酒店に戻ったはずじゃ・・・・・」
「戻りました。 戻って・・・・・ また来ました。 全部を見届けようと。」
「・・・・戻って、って・・・・」
「お酒を・・・・取り・・・ に?」
「はい。 深月上忍は魔王が大好きでしたから。」
「「・・・・・・・・・・・・。」」
今からこの店の何もかもを燃やす、木の葉を売った呉服屋として。 中庭に降り立つとそこには・・・・・
ボク達がこの後、会いに行こうと思ってた人がいた。 あの時の様に風呂敷で包んだ酒瓶を抱えて。