愛する事が罪ならば 17
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テンゾウ。 オレ達がしたコト全部が聞きたいんだって。 イルカさんの為に用意した言い訳じゃなく。
深月上忍の遺書と皆の額当てを里に持って帰ってネ、そう言って喜んでもらおうと思ってたのにサ。
皆の為にお酒を選んであげてヨ、オレ達だけで巣の跡地に清め酒撒きに行こう? って言うつもりが。
愛を求めない代わりに覚えてて欲しかった。 オレ達のイイ印象だけが残る様にしたかったのに。
なのに本人が酒持って中庭で待ってるし。 せっかく考えた好印象を与えるチャンスがポシャった。
でもネ、メチャクチャ嬉しかったヨ。 アンタ、なんでそんなにオレ達のコト分かってるの? って。
“他の潜入員の安全を確保する為だヨ、分かってネ”オレ達がそんな言い訳なんてしなくても。
イルカさんはちゃんと分かってた。 一生懸命耐えたヨ? だって、求めちゃいけないモノだからネ。
オレもテンゾウも、意味もなく体に力を入れて地面に立った。 そうでもしないと抱きしめちゃうモン。
そんなオレ達の葛藤も知らず、いきなり面を持ち上げるわ、人の顔を覗き込むわ、やりたい放題。
遅いヨ、なに今更思い出してんの? やめてヨ。 なんで覚えてんのヨ、一年も前のオレ達の声を。
そんで挙句の果てに “殲滅任務、お疲れ様でした” とか、何事もなく普通に言っちゃうし。
浴びた返り血のほとんどは夢やの奉公人の血。 でも泣いてくれてるのはオレ達の痛みの為なの?
無抵抗の者達を問答無用で斬り捨てた。 どんな理由があってもそれは変わらない事実だから。
辛そうに見えたとしてもオレ達は平気なの。 こんなの慣れっこだヨ? いつものコトだモン。
ホント、やめて。 愛はオレ達が絶対手にしちゃダメなモノ。 心にカッチリと枷をはめたのに。
気を抜くと抱きしめそうになる。 この優しい涙も、暖かい心も、何もかも欲しくなるじゃない。
知らずにいたかったヨ、こんな気持ち。 でも愛を知ったオレ達にとって、これ以上の罰はない。
改めてその罪の重さに愕然とする。 こうやっていつも、誰かの愛する命を奪っていたのかと。
オレ達が狩った命のその陰で、必ず誰かが狂い泣くんだネ・・・・。 これが代償、命を奪うコトへの。
この手で誰かの愛をたくさん壊して来たオレ達に、こんな優しい愛が与えられていいはずがない。
だから他には望まないヨ。 せめて。 せめて、この優しいイルカさんの記憶に残りたいだけ。
オレ達を覚えてて? 多分、オレ達の方が早く逝くから。 そうしていつか、酒を供えに来てヨ。 ネ?
最初に会った奉公人はネ、何も映してない瞳で笑ってたヨ、次は泣いてたっけ。 それから・・・・・
イルカさんは、オレ達がここで殺した者達の代弁をしてくれた。 あと、里で待ってる家族の代弁も。
『やっと楽になれました』 『これで悪夢が終わりました』 『解放してくれてありがとう』 とか。
『私達の夫の無念を晴らして下さった暗部のお二人には、感謝の言葉もありません。』 とかネ。
口先だけのこんな慰めでも。 イルカさんが言うとサ、本人の言葉に聞こえるから不思議だヨ。
死んだ人間が喋るはずないのに。 狩られた忍び達の家族は、まだ何が起きたか知らないのに。
同じ木の葉の忍び 深月上忍の手にかかったコト、そんなのは実際には家族には話さない情報だし。
ケド、まるで当人達の口を借りてるみたいに。 ウン、深月上忍が育てた潜入員はやっぱり優秀だネ。
『これ以上犠牲を出さなくて、本当によかった。 感謝してますよ。』 は、夢やの潜入員達で。
『最後に会えたのが君たちでよかったよ、手を汚させてすまない。』 これは深月上忍の言葉だって。
あそこまで注意深い深月上忍がなぜ、敵の術に縛られてしまったのか。 その経緯も全部話した。
オレ達の任務は清掃、褒められる様なコトは何一つしていない。 なのに一杯褒めてくれた。
皆の代わりにお礼を言いますと、イルカさんの口から皆の分の“ありがとう”をたくさん聞いた。
テンゾウ。 イルカさんって泣き虫だよネ? “ありがとう”の度にポロポロと泣くんだもん。
ホント、不思議。 イルカさんの言った言葉が、逝った者達の言葉に聞こえたり・・・・
イルカさんの流す涙が・・・・ ずっと昔に泣くコトすら忘れたオレ達の涙に・・・・ 思えたりサ。
オレ達こそ、ありがとうネ。 痛みを和らげようと泣いてくれてる。 これはオレ達だけの涙。
そんなしょっぱい水がいくつ流れようが、オレ達の歩いた過去は消えない。 でも嬉しいんだよネ。
この涙をいつでも思い出せるなんて。 愛を知らずに逝くのと、愛を知ってて逝くのとでは大違い。
なんて贅沢な罰だろうネ。 オレ達の涙、オレ達だけの為に泣いてくれてる心が、ここにある。
感謝します深月上忍。 あの状況下でイルカさんを逃がしてくれて。 苦しいけど心地いい罰です。
彼の愛を求めるコトはできませんが、彼を愛するコトはできるから。 オレ達が生きてる限りずっと。
この五つは、イルカさんの手から三代目に渡してあげて? 深月上忍もその方が喜ぶと思うから。
店の潜入員の額当てと一緒に、深月上忍の遺書を渡した。 イルカさんに頼みたいんだ、って。
そうしたらなんと断られた。 好印象を持ってもらおう第二案だったのに。 またポシャっちゃったヨ。
ねぇ、テンゾウ。 イルカさんって・・・・・ ことごとくオレ達の裏を行くよネ、なんでだろ?